持たない暮らしに興味があっても「物が捨てられない……」という人もいるだろう。そこで今回は、物の手放し方をミニマリスト・佐々木典士さんに聞いた。
「手放すことは“習慣”であり“技術”である」
ならば誰もが習得できるはず。12の技術を駆使し、持たない暮らしを始めよう!
まずは「捨てる習慣」を身に付けることから始める。生ゴミや空き缶、壊れた家電など明らかなゴミから捨てていく。そうやって手放す達成感を積み重ねることが重要。いつしか、必要ないのに捨てられない物や、なんとなく捨てづらい物、思い出深い物なども手放せるようになる。そして思い立ったなら「いつか」ではなく「すぐに」手放すべきだ。手放すことは技術だから、実践を通して磨いていくのが一番良い。
ゴミの次に捨てやすいのは、複数ある物。物は複数あると散らばりやすく管理しづらいし、用途に合う物が1つあれば十分だ。とはいえ、いきなり物を1つに絞らなくてもいい。お気に入りでない物や使っていない物、機能が劣っている物を手放し、数を減らしていこう。同時に、日常品などの買い溜めも辞めよう。ストックは常に1つ。大量に在庫を抱えても物の量が把握できなくなるだけだ。
使っていない物、使う予定のない物は手放そう。直近で使わなくても、水着やダウンジャケットなど毎年必ず使うものは捨てる必要はない。しかし、1年に1度も手に取らなかった物は、いらない物だ。1年間出番がなかった物はずっと使わないし、極たまに使うにしてもレンタルすれば良い。また、持っていることを忘れていた物も手放そう。その物なしで問題なく生活できていたのだから、持っている必要はない。
持っているべきは必要な物であり、欲しい物ではない。世の中には素晴らしい物が溢れている。“上”を見だすときりがない。だから、それが自分に必要な物かどうか問いかけよう。答えがNOなら、持っている物は手放し、買おうとしている物は断念しよう。一方で、自分の価値観に根差す「使うことで喜びを感じる物」「本当に好きな物」は手元に残すべきだ。逆に、他人の目線を気にした物は高価でも手放そう。
収納は中身を減らしてゼロになったら捨てようと考えるかもしれないが、先に収納という物の「巣」を捨てよう。当然物は外に散乱する。しかし、大量の物をそのままにしておくことは心理的にしづらいので、結果として物が減っていく。同様に、デッドスペースを収納に用いるのも止めよう。もちろん多少であれば問題ないが、詰め込めばいつかは物が溢れ出す。デッドスペースはデッドスペースのままにしておくべきだ。
これはとても大きな技術。PCやテレビなど大物を手放せば、多くの物をまとめて手放せる。PCならプリンターやスキャナー、テレビならHDDレコーダーやゲーム機などが同時に必要でなくなる。物の連鎖の大元をなくせば一気に物を減らすことが可能だ。もちろん使う物であれば手放す必要はない。しかし「昔はよく使っていたから」とか「当時は高かったから」といった理由であれば、早めに手放した方が良いだろう。
熱く語れるということは、明確に選んだ理由があるということ。すなわち、それは替えのきかないものである。そういったものは持っているだけで満足度が高い。逆に、熱く語れないものは、なんとなく選んだ物である確率が高い。ほとんど使わない物や、思いつきで集め始めたコレクションなどは手放してしまおう。なくしたとしても「もう一度買いたい」と思える、お気に入りのものこそ自分にとって本当に必要な物だ。
捨てるのが難しいのは、物ではなく、その物にまつわる思い出だ。だから、思い出の品はデジタルカメラで撮っておくと手放しやすくなる。実際、押入れの奥にしまっておくより見返しやすいし、写真でも当時の記憶を呼び起こすことができる。そして写真を見返さなくなったらデータも削除すればいい。これを繰り返せば、いつしか写真を撮らずに捨てられるようになる。物を捨てることと、その思い出を捨てることは別物なのだ。
捨てようかどうか迷ったなら、「仮に」物を捨ててみる。捨てようと思っている物を段ボール箱に入れたり、押入れに隠したり、ゴミ袋に入れて捨てる直前の状態にしてみたりする。普段とは違う場所に置くのがポイントだ。ある程度の期間、その物がなくても問題なく過ごせたなら、それが不必要な物だったとわかる。「でも、いつか使うかも……」と思うかもしれないが、その「いつか」は永遠に来ないだろう。
物を買う際は、同じ数だけ物を減らしてから買うようにする。服の場合は、ハンガーの数を先に決めてしまうことで、服の数を調整すると効果的だ。また、上着だったら上着、靴だったら靴と同じジャンルのもので調整するのが鉄則となる。もちろん、物を減らすときにも応用できる。物を減らしている最中に何か買う場合、1つ買ったら2つ以上を手放す。全体として物の総数を減らすことができるのだ。
現代は、ネット経由で多くの物を気軽にレンタルできるようになった。借りられるものは、クルマやダイビング機材、アウトドア用品など多種多様だ。そのため、1年に1回しか使わない物はわざわざ買う必要はない。もし頻繁にレンタルするようであれば、そうなった段階で購入すればいい。毎回レンタル料を払うのは損をした気分になるかもしれないが、管理などの手間を考えれば意外に手頃だと思えるはずだ。
一度にたくさんの物を手放すのは大変だ。物の捨て分けは面倒だし、ゴミとして捨てるのは、経済的にも物に対しても「もったいない」。そういったときは、代行オークションの「QuickDo(クイックドゥ)」や出張買取の「高く売れるドットコム」など、物をまとめて買い取ってくれるサービスを利用するのがオススメだ。手間を減らせるだけでなく、誰かに使ってもらえるので、気持ちよく手放すことができるだろう。
さて次からはミニマリストになるための心得をご紹介。
物を捨てることはマイナスではない。時間やスペース、掃除のしやすさなど得られるものはたくさんある。
街の店や施設を「自宅の一部」と思う。そうすれば、家に物を詰め込まなくてもいいと思えてくるはず。
「買って失敗した」と思った物はすぐに手放す。失敗した理由を明確にして次に生かせば、それで良い。
「手放して二度と出会えない物」はほとんどない。本当に必要なものは手放しても再び手に入るはずだ。
人からもらったが使わない物は「要らない」と思いながら持ち続けるより、感謝をして捨てた方が美しい。
「もったいない」と物を持ち続けることで自分の気持ちが損なわれるなら、それこそが本当にもったいないものだ。
手放すこと=忘れることではない。手放すときに大切だと気付くものや、手放したから忘れないものがある。
物が多いほど一つ一つへの意識は薄まる。数が少なければ一つの物に愛情を注げて満足度も高まる。
個性を作るのは「経験」だ。物を持たない暮らしをする人たちは経験を重視する人が多く、個性豊かだ。
人は不便さにも慣れる。慣れると便利な物に感動するようになり、小さな幸せを感じられるようになる。
「この物はこれだけに使う」という常識を捨てれば、物の使い方が豊かになる。物ももっと減らせる。
捨てることは持つことと同様に刺激的。だから捨てることを目的にして、こだわりすぎたり、執着してはいけない。
物を減らせば必要な物が残り、自分の大事なものがわかる。重要なのはその後、何をするかだ。
この心得を胸に、ミニマリストへの道を歩もう!
ミニマリストというと、ただ物を持っていない人のことだと思ってはいないだろうか。しかしここまで読んでわかるとおり、ミニマリストとは自分のことをしっかり理解していないとなれないものなのだ。以上のアドバイスをもとに、物を手放して、自分にとってもっと気持ちのよい生活を送ろう。
ミニマリスト。書籍「ぼくたちに、もうモノは必要ない。」は20ヶ国語に翻訳され話題となった。web:http://minimalism.jp/
文=綱島剛
写真=阿部昌也
イラスト=株式会社コットンズ+古藤みちよ
※「CHINTAI2017年1月19日号」の記事をWEB用に再編集し掲載しています
※雑誌「CHINTAI」2018年2月24日発売号の特集は「実働5日! 引っ越し完璧マニュアル」。こちらから購入できます(毎月24日発売)
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