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森友問題・改ざん前文書を精読したら見えてきた「すべての根源」

学園側の無理な要求が…
長谷川 幸洋 プロフィール

「特例」だが、歪められてはいない

もう1点。野党や安倍政権を批判するマスコミは改ざん前文書に「特例」という言葉があるのを材料に、あたかも取引が安倍首相の「特別な便宜に基づく特例承認」であるかのような印象操作にも懸命になっている。

改ざん前文書は「特例」の意味を文書中できちんと定義している。特例という言葉は何度か登場するが、たとえば「予定価格の決定(売払価格)及び相手方への価格通知について(平成28年5月31日)」という文書の2ページ目だ(改ざん前文書の68ページ)。

森友学園に対して国有地を貸し付ける契約は「10年間の事業用定期借地契約」を結んだうえで「売買予約契約」も結ぶ二段構えになっていた。この「貸し付けた後で売却」という手続きを「特例的な内容」と呼んでいたのだ。

 

それは「普通財産貸付事務処理要項」(平成13年3月30日付財理第1308号)という通達に基いている。その第11の1に「特例処理」という条項があり「この要領により処理することが適当でないと認められる場合には、理財局長の承認を得て別途処理することができるものとする」と定められている(https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/tsuutatsu/TU-20010330-1308-14.pdf)。

この条項に基いて、近畿財務局は理財局長に承認を求め、局長は「普通財産の貸付けに係る特例処理について」(平成27年4月30日付財理第2109号)という通達で承認した。

なぜ、そんな手続きが可能になったかといえば、土地を所有、管理する大阪航空局が「急いで売却しなければならない事情はなく、いったん貸し付けた後の売却でも問題はない」との判断だったからだ。加えて「売却先が公共性の高い小学校」という事情も考慮された。こうした経過も改ざん前文書で説明されている。

つまり行政手続きとして適正に認められた特例であり、首相が特別な便宜を図った結果、歪められてしまった手続きとは言えない。大阪航空局と近畿財務局、本省理財局という役所同士の話し合いで決まった特例である。

さて、以上を指摘したうえで、会計検査院についても書いておこう。先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54875)で指摘したように、会計検査院は財務省と国土交通省からそれぞれ改ざん後と改ざん前の文書を入手しながら、見て見ぬふりをしていた。

ということは、改ざん前の文書を読んでいたのだから、会計検査院は上に書いてきたような経過はすべて承知していたのだ。

それにもかかわらず、会計検査院の報告は「本件土地に係る決裁文書等の行政文書では、本件土地の売却に至る森友学園側との具体的なやり取りなどの内容や、有益費の確認、支払等に関する責任の所在が明確となっていないなど、会計経理の妥当性について検証を十分に行えない状況となっていた」と書いていた(113ページ、http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/29/pdf/291122_zenbun_1.pdf)。

「森友学園側との具体的なやり取り」の一端は、今回の改ざん前文書の公表で初めて明らかになった。知っていながら知らないふりをした会計検査院の罪もまた重い。