オイゲン・ゴムリンガー(Eugen Gomringer)は1925年生まれの詩人だ。スイス人の父親とボリビア人の母親を持ち、主にドイツで活躍している。
ベルリンのアリス・サロモン専門大学の鉄筋校舎では、外壁の大きなスペースに、ゴムリンガーの詩が書かれている。2011年、彼が同大学のポエジー賞を受賞したからだ。
壁に書かれている詩はスペイン語で、題名は「並木」。
芸術的に訳せないのは、ひとえに私の詩的才能の欠如によるが、並木と花の風景の中にいる女を、焦がれを胸に秘めて眺めている男の心の高まりは想像していただけると思う。
ところが、この詩は女性を性欲の対象としており、女性差別であるとして、去年、学生たちに訴えられてしまった。
これには驚いたが、もっと驚いたのは、今年1月になって、同大学が多数決でそれを認め、校舎のリフォームの際にこの詩を塗りつぶすと決めたことだ。
女性を憧れの目で眺めることが、女性を性欲のはけ口としていることになるなら、絵画も小説もすべて嫌疑がかかる。それに、男であれ、女であれ、好きな相手を性欲の対象と見なければ、人類はそのうち滅びる。
案の定、ゴムリンガーは憤慨し、ドイツ・ペンクラブも、これは表現の自由の抑圧であると警告した。