海賊版サイトのネット接続遮断について反対する理由
情報管理LOGの@yoshinonです。
先日、「海賊版サイトへのネット接続遮断を検討」というニュースが流れてきました。しかし私は、この施策には、大いに問題があると思っています。
今回は、この海賊版サイトのネット接続遮断について、何が問題なのか取り上げてみたいと思います。
【 海賊版サイトのサイトブロックについて反対する理由 】 1.ニュースの概要 2.ネット接続遮断しても根本的な解決にならない 3.暗号化アプリが登場する可能性 4.恣意的な運用が可能 |
まずは、ニュースの概要からです。
海賊版サイト、接続遮断も=菅官房長官:時事ドットコム
趣旨としては、以下の通りです。
三行で理解しよう!
・漫画やアニメは、クールジャパン戦略の中の重要なコンテンツである
・海賊版のサイトの被害が深刻化しているという認識を持っている
・海賊版サイトへの対策のために、サイトブロッキングも含めてあらゆる可能性を検討中
この中でもっとも肝心なのは、「サイトブロッキング」について言及したことです。
サイトブロッキングというのは、耳慣れない言葉だと思う人もいると思われますので、一応説明しておきます。
ユーザがウェブサイト等を閲覧しようとする場合に、当該ユーザにイン ターネットアクセスを提供するISP等が、ユーザの同意を得ることなく、 ユーザーがアクセスしようとするウェブサイト等のホスト名、IPアドレス ないしURLを検知し、そのアクセスを遮断する措置をいう。
プロバイダ責任制限法の解釈と運用
技術的なことに関しては、上記のサイトで確認していただきたいのですが、要するに違法なファイルがアップロードされたサーバーにISP側からアクセスできなくするということです。
一応、イメージとしてはこんな感じ。(サイトブロッキングの一例)
現状としては、漫画村のような、著作権を無視したファイルへのリンクを誘導するようなサイトが、(彼らは法律に触れてないと主張していますが)横行しています。そして、それらが野放しになっていることから考えると、
サイトブロッキングは有効な手段ではないか?
と思ってしまうかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか?
まず、政府のというか官房長官の主張として挙がっていた
漫画やアニメは、クールジャパン戦略の中の重要なコンテンツである
ということが、果たしてサイトブロッキングによって改善されるというのでしょうか?
残念ながら、半分YESで半分NOです。
まず、YESの部分。
とはいえ、漫画村などを利用しているのは、ほとんどが日本のユーザーであり、それらを遮断することができれば、そこから利益を得ていた広告収入なども入らなくなってしまうため、サイトを維持する目的を削ぐという意味合いで有効である可能性を否定できません。
次に、NOの部分。
しかし、サイトブロッキングによって遮断されるのは、日本国内のユーザーのみです。しかも、違法に海外にアップロードされたデータは、そのまま海外サーバー存在し続けるのです。つまり、海外で自由に海賊版が、横行していたとしても、国内のユーザーは知るよしもないという状況になるかもしれません。そして、海賊版の横行に関しては、海外の方がより深刻です。つまり、国内から見えなくしちゃうけど、「重要なコンテンツ」保護という観点から考えた時には、保護しているのではなく、被害を見えなくしているだけといえます。
そう考えると、保護しようとしているのは、コンテンツそのものというよりも出版社の利益であるともいえます。そして、クールジャパン戦略というのは、海外に向けた戦略であることから考えると、コンテンツを保護しているのか?と考えると、どうも目的から逸れているように見えるのです。
まあ、出版社の利益を守ることが、次の世代のコンテンツメーカーを育てることにつながると言われれば否定はしませんが、果たしてサイトブロッキングが最上の手かというと疑問です。
情報管理LOG的には、サイトブロッキングに関しては、基本的に反対の立場をとっています。理由に関しては、後述します。
Torというのをご存じでしょうか?
Tor - Wikipedia
これは、目的とするサーバーまでの経路を匿名化する技術です。
これによって、サイトブロッキングを回避することができたりするのです。もうすでに国を挙げてサイトブロッキング(金盾)をやっている中国は、このTorを排除するのに躍起になっています。
Torは、有名ですが、他にも匿名通信システムはあります。これだけだったら、漫画村を利用する多くのライトユーザーにとっては、ハードルが高すぎて利用されないでしょう。しかし、これを利用したアプリが出ないとも限りません。非常に簡単に接続可能で、サイトブロッキングされないということが明らかになれば、結果的にはアプリ版漫画村が出現することを阻止するのは、やはり難しいのではないか?と思います。
上でも触れましたが、著作権を無視したデータのアップロードを阻止しているのではなく、単にそれを見えなくしているだけなので、それを回避する術ができれば現状と変わらなくなってしまうのです。
情報管理LOGが反対している一番の理由が、このサイトブロッキングが恣意的運用される危険性があると危惧していることです。
上記のように、私にはコンテンツ保護と言いながら、違法にアップロードされたデータが放置され続けるというのは、結局何の保護にもなっていないことに他なりません。
むしろ、サイトブロッキングできるような環境構築をしたいように見えてしまうのです。一度、建前上とはいえ、OKとなってしまった時に、それでは「これも違法だから」と対象を拡大する可能性が、ゼロと言えるでしょうか?
そんな大げさな…
と言う人もいるかもしれません。しかし、歴史上こういうことは、最初は小さなところから始まり、大きく拡大していく方向にシフトしていくことがとても多いのです。
最初は、みんなが同意しやすいところからスタートし、いずれは検閲だらけというのは、珍しくありません。
気づいたら、自分たちにとって不都合だからという理由で必要な情報も全て見えなくされてしまうということが無いともいえません。
まあ、公文書が易々と改竄されてしまうような国において、そういう危惧を念頭においてないと、茹でカエルになってしまうかもしれないなと思っています。
※茹でカエル
生きたカエルを茹でるには、いきなり熱湯に突っ込んだら飛び出して逃げてしまいます。しかし、徐々に温度を高めていって、気づいたら十分熱くなってしまい、気づいたら逃げることが難しくなるという喩え。
国際的な枠組みの構築と法整備
漫画村のような問題に関しては、どの国も対応に苦慮しているのが現状です。こればかりは、一国だけで何とかできるという問題ではなく、それこそコンテンツ保護の観点から、国際的な枠組みとして対処していかないといけない問題です。そして、クールジャパン戦略と言っているならば、それこそ日本主導でそれを喚起していくことが、本当の意味でのクールジャパンかな?と思うのです。
あと、漫画村に関しては、明らかに著作権を無視したデータへ、明確な意図を持ってユーザーを誘導していることが明確です。これは、現行の著作権法の抜け道をギリギリ(アウトだと思うのですが)すり抜けている状況です。
私的使用の目的で、有償で提供等されている音楽・映像の著作権等を侵害する自動公衆送信 を受信して行う録音・録画を、自らその事実を知りながら行うこと(違法ダウンロード)により、著作 権等を侵害する行為について罰則を設ける等の規定を整備。
著作権法の一部を改正する法律(概要)
というように、静止画だから大丈夫という根拠をここらへんに持ってきているのですが、1枚1枚は静止画でも、コンテンツとしてのまとまりとして漫画(または電子書籍)は成立している部分を勘案するべきではないかと思っています。そして、漫画(または電子書籍)をそういうコンテンツであるという定義し、その上で法整備を進めるべきだと思います。
サイトブロッキングのような対策ではなく、やるべきはまずは上記の2つではないか?
と強く書いておきます。
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