ドナルド・トランプが当選した2016年の大統領選で浮き彫りになったものは大きく言って2つある。ワシントンの政治家やグローバリゼーションに対する労働者の怒りの声と、東海岸や西海岸とは異なるもう一つのアメリカだ。リベラルな大都市と保守的な南部や中西部、そこに息づくもう一つのアメリカ――。今回は米国の政治や社会に隠然たる影響力を持つメガチャーチ(巨大教会)を見ていく。
(敬称略 ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)
「私も科学者なので、キリストがどのように天地を創造したのかという点は大いに議論したい。だが、誰が天地を創ったのかというところはキリストだと確信している。ダーウィン主義は何もないところから生物が生まれたと考えるが、それが私には理解できないんだよ」
進化論について話を振ると、キリスト教福音派(エバンジェリカル)の牧師、ダン・ムントンはこう答えた。
「科学者」と自身を規定したように、学生時代、ムントンは生物学の教師になろうと考えていた。だが、途中で神の存在に目覚め信仰の道に入る。その後、地元ミシガン州でスポーツを通して信仰を学ぶプロジェクトに関わり、その実績が評価されてヒューストン・ファースト・バプティスト教会のミニストリー(牧師の一種)になった。20年以上前のことだ。
米南部に多いエバンジェリカルは進化論を否定している。聖書には神の言葉が書かれており、旧約聖書の天地創造説を事実とみなしているためだ。先のムントンも「神がすべてを創りたもうた」という立場だが、天地創造には順序があり、社会の中には一定の順序があるとも述べている。起源はともかく、生物が変化すること自体は受け入れているように見える。
米政治に影響力を持つ宗教勢力
ムントンが所属するヒューストン・ファースト・バプティスト教会はヒューストン郊外にあるメガチャーチ。メガチャーチとは一度の礼拝に2000人以上集まる巨大な教会のことで、高い動員力と集金力を誇る。日曜の礼拝に7000~8000人を集めるヒューストン・ファースト・バプティスト教会は典型的なメガチャーチの一つだ。
全米に1600ほどあるメガチャーチは、その大半がエバンジェリカルに属する。冒頭で述べたように、エバンジェリカルは聖書に書かれている内容を絶対視する点が特徴で、妊娠中絶や同性婚、進化論に否定的なスタンスを取る。東海岸や西海岸のリベラル層から見れば、ほとんど宇宙人に近いが、宗教離れが進む米国の中で信者を着実に増やしている。
メガチャーチには拝金主義や商業主義という批判も根強く、ヒューストン・レイクウッド教会のカリスマ牧師、ジョエル・オースティンのようなセレブ牧師も存在する。教会は法人税が非課税のため、数千人の信者が寄付をしたり書籍を買えば間違いなく儲かる。それゆえに、「信仰を利用した金儲け」と冷めた目で見る米国人も多い。
それでも、数の力を背景に共和党保守派や政権に隠然たる影響力を持っている。2016年の大統領選でトランプが勝利した背景には、民主党候補だったヒラリー・クリントンを嫌ったエバンジェリカルの支持があった。先日、逝去した著名福音派牧師のビリー・グラハムはリチャード・ニクソンなど歴代大統領の就任式で祈祷を担当している。
「彼のやっていることには賛成できない部分もある。だが、総合的に言えば、理解できないことよりも理解できることの方が多い」とムントンは言う。物議を醸した在イスラエル米大使館のエルサレム移転でもエバンジェリカルは影響力を発揮したと言われている。聖書に基づき、神はエルサレムをユダヤ人に与えると考えていることが大きい。
メガチャーチのスタイルは、一般にイメージされるような伝統的なプロテスタント教会とは様相が異なる。日曜の礼拝といえば、黒いガウンを着た牧師の説教を厳かに聞くという印象が強いが、言われなければ普通のゴスペルライブと大差ない。
2017年11月。午前11時から始まった礼拝もギターとドラムの生演奏で始まった。
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