ユニクロの安さと適正な価値

ameblo.jp

使用しても、しなくても、商品が製造されてから、約3年で劣化して来ると書いてます。

と言う事は、

このシームレスダウンは、約3年ぐらいで、接着が剥離してしまう恐れがあるって事です。

ツイッターで、きまやさんとやりとりしていて思いついたので少し。
きっかけになったのはこのユニクロのシームレスダウンの寿命が3年しかない、という記事。
ちなみにシームレスダウンは、デサントの水沢ダウンに使われている熱圧着技術を安価に再現したもの。
あと、上のブログにある

ユニクロに限らず、他のメーカーでもシームレスダウンがあったりするんやけど、そもそもショップの店員さんが、このリスクを知ってるのかなぁ?

ユニクロと違うところのダウンは接着剤による接合とは限らない、ので三年というリスクがあるとはいえない、が正しいですね。
そもそもリスクなのか否か、という話でもあるわけですが。



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水沢ダウン

(デサント)DESCENTE(デサント) MIZUSAWA DOWN JACKET 水沢ダウン DIA3772U  BLK O
Posted with Amakuri
Descente Athle Non EDI code(Le coq, Descente, Skins, Marmot)
定価 ¥84,240(2018年3月22日22時34分時点の価格)

水沢ダウンは、熱圧着を使い縫い目をなくすことで、水の侵入や、羽の抜けを防ぐ。
素材は撥水素材、ジップには止水ジップを使い、フロントと脇には湿度管理のベンチレーション。
高機能だが同時に価格も8万円を超え、高いモデルでは10万以上する。


www.uniqlo.com

・ステッチではなく、圧着接着テープを使うことで縫い目をなくし、風や水が入ってくるのを防ぐ。
・内側から羽毛が噴き出すのも防止。

一方、ユニクロのシームレスダウンも接着剤で止めることで縫い目をなくし、止水ジップを使うなど色々な部分が似ている。
撥水素材を使っているものもあるとの事ですが(リンク先のは違うかな?)。
だがユニクロの撥水素材、使ったことのある人はご存知かと思うがそこそこ濡れると浸透して来る。
水を弾くというより水がしみづらいくらいのイメージの方が的確。

どこまでも水沢ダウン「っぽい」ダウンと言える。

ユニクロのシームレスダウンが1万円前後で買えるのに対し、水沢ダウンは8万円以上。
では水沢ダウンはシームレスダウンの8〜10倍の価値があるのか?

ダウンの寿命

繰り返すが、ユニクロのシームレスダウンは接着剤の寿命があるため、だいたい3年程度。
これが「耐用年数が短い」、「リスクだ」と言われている。
だが、クリーニング店などで規定されている衣服の「商品別平均使用年数表」によると一般的なダウンなどの平均使用年数は3年から4年。
シームレスダウンの3年という寿命は必ずしもダウンとして短いとはいえないかも知れない。


水沢ダウンは、熱圧着によって一般的なダウンより多少耐用年数は長そう。
だが、せいぜい5、6年がいいところかも知れない。
あとは防寒性能が落ちたり、撥水性能が落ちたりしてくる可能性は十分にありえる。

ここで少し減価償却的に考えてみる(あくまで「的」に)。

仮にシームレスダウンが8,000円/3年とすると2,667円/年。
対して水沢ダウンを84,000円としても3年では28,000円/年。
ユニクロのシームレスと同じ2,667円/年にするには31、2年は着なければならないらしい。

だが、この「10倍の値段だから10倍の耐用年数がなければコスパが悪い」という捉え方は歪だろう。

モノの価値

モノの価値とは相対的。
消費者がモノの持つ価値を認め、対価を支払うから成立する。

まず10倍の値段だが、そもそもユニクロとデサントでは撥水の機能、保温機能などの機能性やギミックのクオリティが全く異なる。
当然、原価も異なる。
機能も原価も手間も違う。

シームレスダウンの8,000円で3年の耐用年数は「寿命が短い」らしいが、8,000円はユニクロという巨大な企業が一貫生産を行い、海外の安価な労働力を使い大量生産することで成し得た価格。
それだけ不自然な……価格と釣り合わない技術を再現しようとすれば当然ながら寿命だって短くなる。

シームレスダウンは、ユニクロ以外なら1万円を切るのは難しいクオリティ。
逆に言えば水沢ダウンは、だからこそ8万円以上する。
一般的に安いとされるNANGAや西川ダウンなどでも3万円以上。

なのに一万円を切るダウンに対して「三年しか持たないのは短い」という感覚は果たして適正だろうか。


衣服の価値は、デザインなどの「服飾」としての価値もあれば、保温性や速乾性など「機能」の価値もある。
高級な衣料など素材も繊細で耐用年数は当然短い。

だが美しかったり、その素材とカッティングでしか表せない表現があったりする。その美しさという「服飾」に価値を見出せば、高級な衣料に耐用年数が短くても対価を支払う。
反対に登山や防災などを考えればデザインより撥水、防風、防寒、携帯性など機能に対して対価を支払う。
モノには、様々な価値の側面がある。
顧客はそれぞれの価値のどれかに価値を見出せば対価を支払う。

水沢ダウンが売れるのは、その機能性、デザイン、それぞれの価値が高いからこそであって、だからこそ8万〜10万を超えても売れる。

ちなみにこの冬もカナダグースが機能性とデザインで売れてはいるが、あそこまでのスペックが必要かどうか、個人的には疑問ではある。

安さの理由

以前、下請け工場が技術研修制度を悪用して安価に制作していた某ブランドを見てもわかるが、その安さには安いなりの根拠がある。

安いモノを基準に考えれば、手間や原価相当の価格をつけたモノは高く感じる。
だが相当の価値を持つモノとそれに応じた対価としての価格を基準に考えなければ、モノの価値に対しての感覚は狂う。

ユニクロの品質と価格が普通なのではない。
ユニクロは異常に安すぎる。
異常に安いということには当然理由があるし、仮にその理由が正常になれば安さは維持できなくなる。

安ければ、それがどこの誰の手にどんなふうに作られていてもそれでいいんだろうか?


安く買い古くなれば捨てる、売るというファストファッションが隆盛を極めてかなり経った。

今や服飾業界は、勢いをなくした斜陽産業。
そういう中で生き残るには、価値の転換が必要になる。
だからこそ各社、様々な試みを行っている。

united-tokyo.com
UNITED TOKYOは高い原価率で知られる。

原価率を少しでも下げるために中国での大量生産に依存し、結局クオリティーの低い商品を作ることで顧客から見放されたことが、アパレル不信の大きな要因だということは第一章で説明した。
そうした企業とは対照的に、ユナイテッドトウキョウは高度な技術を持つ国内工場と直接取引して商品を作っている。全ての商品が国産なので商品タグには「THIS ITEM IS MADE IN AKITA」というふうに、その商品が生産された都道府県の名前が記入されている。
誰がアパレルを殺すのか

一般的な企業の原価率が20%程度、ユニクロで30〜40%。
対してユナイテッドトウキョウは原価率50%……半分なんだから驚く。
高い品質と手頃な価格。
価値と品質が、釣り合っているからこそ売れるのかも知れない。


三陽商会の「百年コート」は面白い試みだろう。
もちろん「百年持つコート」ではなく、定期的にお直ししたりケアする事で一着のコートを長く着てもらおうという試み。
単なるコートが長い時間を経る事で思い入れを生み出し特別な一着になることを狙っているのかも知れない。
こういうアンチ・ファストファッションな動きがもっと起きて欲しい。


prtimes.jp

パタゴニアは、フェアトレード認証を受けた工場でのフリース製造を開始した。
もちろんユニクロのフリースより格段に価格は高い。
だがそこに安値の代償として、安価で働かされる労働者はいない。


forbesjapan.com
ヌーディージーンズはフェアトレードや、環境を意識したエシカルファッションを始めたりもしている。
さらにデニムのお直しサービスも始めた。


ユニクロは便利で手軽だし、ユニクロは安い。
だがその安さが当たり前になっている今は果たしてどうなんだろう?

公正な取引に、価値にはそれに応じた対価を。
フェアトレードな考え方ももう少し広まっていい気がする、とシームレスダウンの話題を見て考えた。

誰がアパレルを殺すのか
Posted with Amakuri
杉原 淳一, 染原 睦美
日経BP社