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ニッポン

「MANGAは無料で読めて当然」という人に米国人翻訳者が訴えたこと|「アメリカ“MANGA”人気のいま」

Text by Yukari Shiina
椎名ゆかり 海外コミック翻訳者、東京藝術大学非常勤講師

2013年に業界横断的に「Manga-Anime Guardians Project(MAGP)」が展開されたが…

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マンガを権利者に無断でアップロードし、タダで読めるようにする。

いま日本でも話題になっているが、この問題は英語圏を舞台に15年以上も議論されてきた。

研究者であり翻訳者でもある椎名ゆかり氏が一連の経緯をあらためてまとめ、「違法にマンガをアップロードする側」の言い分も検証する。


あの「無料漫画サイト」のような問題は20年前からあった


現在、マンガのデータを権利者の許可なくオンライン上に掲載し膨大なアクセス数を稼ぐサイトが話題になっています。

マンガ家の権利を侵害し、マンガ業界全体に多大な損失をもたらしていると思われる違法アップロードサイト。

いま話題にあがっているのは日本語のデータがそのまま権利者の関与のないところで閲覧されているサイトのことですが、世界中には日本のマンガにさまざまな言語の翻訳を付けて公開している同様のサイトが多数あり、以前からその存在は問題視されてきました。

今回このコラムでは、英語圏での違法アップロードサイトがどのようなものなのか、過去に遡って簡単にご紹介したいと思います。

1990年代の終わりから2000年代初頭にかけて、インターネットの普及によって個人がデジタルで比較的簡単にデータをやりとりできるようになると、権利者に許可をとらずに複製したデジタルデータがネット上に溢れはじめ、英語の翻訳がついた日本のマンガも大量に出回るようになりました。

技術の進化にともなってデータの交換や公開の方法は変わり、そのデータもさまざまな名称で呼ばれてきましたが、ここでは現在最も一般的と思われる「スキャンレーション」と言う言葉を使うことにします。これは、「スキャン」と「トランスレーション(翻訳)」を合わせた造語です。

英語圏での日本マンガの認知度が現在に比べるとかなり低かったこのころ、スキャンレーションを制作する人たち、通称スキャンレーターたちを駆り立てたのは、「マンガへの愛ゆえ、作品への愛ゆえ」だと言われていました。

つまり、スキャンレーターたちは英語圏で知られていない日本のマンガをたくさんの人に読んでもらう、またはマンガを世界中に広めるためにスキャンレーションを作っている、と主張されていたのです。

無断アップロードにルールがあった時代


1990年代終盤から2000年代初頭、北米を中心とするMANGAファンのコミュニティは比較的小さく、そのコミュニティ内にはスキャンレーションをめぐる独自のルールが存在していました。

たとえば、「スキャンレーターは金銭的報酬を受け取らない」「英語版が出ることが決定したら、スキャンレーションをネットから取り下げる」「他人の翻訳、ましてや正規版の翻訳データは使わない」といったものです。

当時のスキャンレーターたちがどれほど厳密にこのルールに従っていたのか、いまとなっては知る術はありませんが、少なくとも当事者たちはネット上でそう主張し、スキャンレーションを作る側と読む側の多くが、上記の情報を共有していたと思われます。

そして、スキャンレーターたちもスキャンレーションの利用者も、自分たちは日本のマンガ家やマンガ出版社の利益を損ねてはいない、むしろ利益を得るのを助けていると考えていました。

その理由として挙げられていたのは以下のような説明です。

正規版が出ていない、または出る見込みがない作品の場合、英語圏の読者はその作品をそもそも買うことはできないので、スキャンレーションが正規版の読者を奪ったことにならず利益を損ねない。

たとえ正規版が出ることになったとしても、その前にスキャンレーションが出ていた場合、スキャンレーションが認知度を高め、かえって宣伝になって正規版の売り上げにつながり、マンガ家やマンガ出版社の利益になる。

当時、この主張に裏付けを与えたのが、北米のMANGA業界側から出たスキャンレーションを肯定するかのような発言です。

2005年には「CNN」が北米のANIME販売会社とMANGA出版社に取材し、「ANIMEとMANGA業界はネット上の海賊版から得た情報を利用して業績を伸ばしている」という主旨の記事を書いています。

当然、これを否定する意見も業界内部から発せられましたが、当時の小さいMANGA市場においてスキャンレーションを“必要悪”として見る考えは、その是非や実際はどうあれ、かなり浸透していました。

最も熱心なMANGAファンであるスキャンレーターたちを表だって批判したくない、という気持ちが業界側にあったことも推測できます。

業界が結束して配信差し止めに成功しても…


でも、2000年代に入り北米で日本MANGAのブームが来たことで、すでに状況は大きく変わりつつありました。ブームによりMANGA読者の数は急激に増え、スキャンレーションを求める人が爆発的に増加したのです。

需要に応えるために、スキャンレーターの人数も増え、スキャンレーターたちは先を争って最新作をネット上で公開していくようになりました。

膨張したMANGA読者のコミュニティでは、上で挙げたようなルールはただの建前となり、2000年代中盤になると、スキャンレーションのサイトへのリンクを集めて掲載する「アグリゲーター」などと呼ばれるサイトが登場。広告料その他で多大な利益を得るサイトも現れます。

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