国の重要文化財「門司港駅」を“完全復元”へ 1914年建設当時の姿に 宮内庁の資料が後押し

復元後の門司港駅のイメージ図(JR九州提供)
復元後の門司港駅のイメージ図(JR九州提供)
写真を見る
宮内庁が保管していた大正時代の門司港駅の設計図
宮内庁が保管していた大正時代の門司港駅の設計図
写真を見る
北九州市の民家で見つかった貴賓室の壁紙
北九州市の民家で見つかった貴賓室の壁紙
写真を見る

 北九州市門司区の国指定重要文化財、JR門司港駅の駅舎を1914(大正3)年の建設当時の姿によみがえらせる工事が進んでいる。唐草模様の屋根飾り、しっくいを施したコンコースの壁、貴賓室の壁紙。建築構造から細部の装飾まで復元を可能にしたのは、宮内庁所蔵の設計図や民家に保管されていた壁紙など貴重な資料の数々だった。

 「これで建設当時の姿に最大限近づける」。2015年夏、関係者を確信させる資料が見つかった。

 木造2階建てで、ネオルネサンス様式と呼ばれる駅舎の特徴、寸法を詳細に記した設計図だった。1916年の大正天皇の九州訪問に合わせ、警備資料として宮内庁に提出されたとみられる。工事を指揮する公益財団法人、文化財建造物保存技術協会の担当者は思わず息をのんだという。

 この設計図を基に、消失していた唐草模様の屋根飾りが再現できた。意匠は写真や資料を参考にしたが、設計図が加わったことで精度が高まった。白いペンキで覆われた外壁はモルタルを塗って石張り風に。コンコースの壁面にはしっくいを塗り、変色した屋根には黒い天然石をふき直す。

 重要駅だけにあった貴賓室の壁紙に関する情報は、門司区の伊藤由香里さん(58)が提供してくれた。曽祖父は元国鉄職員。実家の押し入れにあった壁紙が、貴賓室に残っていた紙片と一致した。「愛着ある駅の復元に役立ててうれしい」と伊藤さんは喜ぶ。

    ◇      ◇

 国の重文に指定された現役の駅舎は門司港駅と東京駅しかない。歴史資産としての価値を高める事実も復元過程で明らかになった。

 広いコンコースは橋の工法を応用。天井裏のはりは八幡製鉄所で造った鉄骨と材木で強度を高めていた。JR九州施設課の稲盛智章さん(33)は「多くの人が往来しやすいように、コンコースに柱を建てなかったのでは」と推測する。

 「門司港駅は戦災を免れた」との定説も覆った。ホーム側の屋根の下地などに機銃跡が39カ所、ひさしには爆弾による損傷が見つかった。国の戦災概況図により、45年3月5日の空襲で3人が駅で命を落としたことも判明した。

 補修・復元工事は2012年に着手した。総工費は約22億円で8割を国や福岡県、北九州市が助成する。文化財建造物保存技術協会の門司港駅設計監理事務所長を務める今岡武久さん(51)は「100年先も残る歴史的建造物にして、次世代に引き継ぎたい」と話す。

 完工は来年春の予定。福岡県やJR九州は今年秋に1日限定の特別公開を計画している。

=2018/03/22付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]