PENTAXでデジイチデビューした俺がD600に乗り換えたのは「高感度性能」と「ボケの美しさ」に憧れたからでした。
2013年3月から使い続けてきたD600とは本当にいろんなところに行きました。シャッターは何万回も切りました。
まだまだイケると思ってたし、この機種特有のセンサーにゴミが付着しまくる現象も個性だと思ってきました。
しかし、です。
会社でちょいちょいと撮影するカメラを更新するということでD7200を購入し、3分ほど触ったところでその考えは崩壊しました。
これまでの俺はいわゆる「おれには、これしかないんだ! だから、これがいちばんいいんだ!!」のアレでした。
ファインダーのヌケ感、ボタンやダイヤルの質感、高感度性能、シャッターユニットの挙動……
どれをとっても、4年前の廉価版フルサイズ(とは言え20万以上した)を10万円以下で売られているミドルクラスAPS-C機が追い抜いていました。
考えてもみてください。
このブログに掲載している写真の殆どが、60mmマクロで撮影されたブツ撮りか、ズームリングを目一杯回した望遠スナップ。
どちらも全ピンのものばかりです(そうでないのはだいたいコンデジで撮影したものです)。
少なくともボケの良い写真は全然撮ってないし、焦点距離はなるべく稼いだほうがモノが歪まなくて良いし……。
では、俺が使うカメラがフルサイズである意味とは……? 「D600の高感度性能が高い」といつから錯覚していた……?
人は道具を使ううちに、自分の趣味嗜好に気づいていく生き物です。
俺は結局、バリバリにピントの来たブツ撮りの興奮と、バリバリにピントの来た望遠の興奮に魅入られた人間なのでした。
どちらもフルサイズよりAPS-Cのほうが有利です。
「APS-Cはセンサーが小さいからフルサイズよりも高感度性能が落ちる」などというのは、高感度性能だけで戦ったら正しい。
しかし、撮りたい写真の傾向に合わせてセンサーを選ぶなら、そしてそれが高感度性能にも優れたフラッグシップモデルだったら?
俺は次の日、Nikon D500を買いました。
以下、その衝撃を綴った写真大河ドラマです(レンズのお話は、後日といたしましょう)。
▲買って、何も考えずにシャッターを押しました。ISOオートです。なんか微妙です。設定を覚えましょう。
▲クラブです。何も考えずにペシャーっと撮りました。なんだかノイジーですが、ISO28800でした。こんな高感度、いままでだったら設定すらできませんでした。
▲ISO2000でした。異常にクリアーなのはレンズのせいもありますが、f1.8なのに被写界深度は深く、いわゆる「良い写真」に見えます。
▲人間はバカなので、まずはボケの美しい写真で何かを評価しようとします。普段撮らないので茫洋とした写真ですが、ISO2000でもモワモワした感じがありません。
▲ISO1600。街灯で撮影しても、この鮮鋭感。幅1600pxの当ブログならば、恐れることはない画質だと思いました。
▲日中の強烈な解像感も味わいます。日中で全ピンというのはカメラの性能があまり関与しません。いい写真を撮りたければ昼間外に出ろ。
▲むしろD500の恐ろしさは薄暮に出ます。ISO1600。色の転びもノイジーさも微塵も感じさせず、ひたすらに実直に撮れます。
▲ああ、NikonのDfですか。夜景を前に三脚立てて、絞り込んで撮影、ご苦労様です。
▲こちとら手持ちでISO2500です。まあこんだけ撮れればいいでしょう。スナップですし。
……と、ここまでの写真は全部RAWで撮影して自分がLightroomで現像したものです。
一眼レフを使う人間はRAW現像せにゃいかん。自分好みの明るさ、色、コントラスト、シャープネス、ノイズのコントロールをして一人前だ、と。
カメラが勝手に作り出したJPEGなんて信用ならん。自分で写真を作り出してこそ、チン毛の生えた男じゃないか。そう思っていました。
思っていたのですが、どうもLightroomで一瞬だけ表示されるサムネイルデータ(カメラの中で一応保存されている小さいJPEG)が異様にきれいなのです。
なんなら、本チャンのRAWデータが表示される一瞬前に表示されるJPEGデータのほうが、俺が必死こいて現像したものより美しい気さえする。
そして、そのJPEGの印象を脳に焼き付けて、それに近づけようとするも、全然似ないのです。
「これはもしかして、D500の中に入っている画像エンジン(EXPEED5)が異常に優秀なのではないか……」
そう思った俺は、カメラの記録設定を「RAW+JPEG」に変更しました。
▲ISO500の画像、JPEG撮って出しをトリミングしたものです。ちなみにRAWデータからこのバランスに持っていくことは、俺にはできませんでした。
▲ISO500。JPEG撮って出しをトリミングして、自分の好みの色に持っていきます。感度が低めなので、補正してもしっかりと粘ってくれます。
▲ISO5000のJPEG撮って出しです。流石に等倍で見ると塗り絵感はありますが、ここは俺のブログなのでこのサイズで見ます。なんの問題がありましょう。
▲暗い路地裏で撮影したISO40000のRAWデータをそのまま書き出したもの。さすがに盛大なカラーノイズが踊っています。これは現像で無理やり補正するとディテールが失われ、色が濁るはず……
▲ですが、これが同時に記録されたJPEG(カメラが自動で現像したもの)です。スクーターの白も滑らかで、奥の電線もそれなりに解像しています。
正直、最後のJPEGはお世辞にも「きれいな写真」とはいえないのですが、自分でいくらいじってもこれより汚い画像しか現像できませんでした。
ポツダム宣言です。
やれレンズが滑ったころんだという話をする人をバカにしてきた自分にとって、これは衝撃的すぎました。
ブツ撮りなら照明のコントロールがキモであり、スナップならRAW現像で無理やり補正すればどうとでもなると思っていました。
しかし、テクノロジーは「暗いところでのスナップ」について自分がイメージしていた以上に進化していました……。
増して、被写界深度の深さ、画面いっぱいに広がる153点AF、動体への食いつき、ズームレンズの画角についてはAPS-Cならではです。
これに従来 のフルサイズ一眼(D5にだけは負けるかも)に勝る暗所性能が追加され、
さらに自分の現像スキルよりも巧みにJPEGを作り出す最新の画像エンジンが搭載されているというのは「化け物」と言わざるを得ません。
おそらくこれからも超音速備忘録にはD500じゃなくても撮れるようなブツ撮りと望遠スナップばかり載せると思いますが、
(だからこそ今回はカメラの性能限界に迫るため、上に示したような普段撮らない写真を作例として載せています)
このカメラが存在する世界で「子供を撮る」「夜景を撮る」「飛行機や鳥を撮る」という用途において、フルサイズを選択する意味というのはあるのか?
そんなことを考えるようになったわけです。
D500の出現は「フルサイズ一眼はAPS-Cよりもエラい」という時代に終止符を打つカメラかもしれません。
APS-Cサイズのセンサーを搭載したD三桁機は実に7年以上ぶり。
Nikonのカメラにおいて次に同じくらいのイノベーションが起こるのは、東京オリンピックのその次の五輪まで待つことになるかもしれません。
とにもかくにも、(触ったときの質感から実際に吐き出す画像の質まで)D500はスーパーカーのようなカメラです。
F1マシンとWRCのラリーカーが異なるカテゴリーでどちらも最強であるように、
Nikon D5とNikon D500は「上下関係」ではなく、用途によって使い分けられるべき、"ダブルフラッグシップ"と言っていいでしょう。
子供が生まれたあなた、これから生まれてくるあなた。手持ちのフルサイズ一眼が古くなりつつあって買い替えを検討しているあなた。
本当にあなたがほしいのはデカくて重くて更新頻度の高いミドルクラスのカメラですか? 「いまフルサイズだからまたフルサイズ」と決めつけていませんか?
向こう7年戦える(かもしれない)化け物のようなカメラが20万円で買えるというコストパフォーマンスについて
あなたは真剣に「いま、本当に買うべきカメラ」を考える必要があるのかもしれませんよ……。
追記/突っかかってくるアホが多いので書いておきますが、フルサイズセンサー搭載のD600は今後もシチュエーションに合わせて活躍してもらうつもりです。
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ほらんど
at 2016-12-06 22:51
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なるほど APS-Cで十分かも… なんだかフルサイズがもてはやされて昨今ですが、APS-Cでもまだまだ伸びしろがあるみたいですね。よほど意地悪しないかぎりノイズも気にならないし、デジタルの進歩は、凄いですね。いいなぁD500
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通りすがり
at 2017-02-16 23:03
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子どもが生まれた直後に買ったD90を7年使ってD7200に移行しようとした矢先、こちらのサイトを見てD500を買いました。
おっしゃっている意味が良く分かりました。
本当にありがとうございました。
おっしゃっている意味が良く分かりました。
本当にありがとうございました。
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Waka
at 2017-10-14 12:34
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これまでの「フルサイズが偉い」に一石を投じる評論だ。ミラー式一眼レフの光学機械系が全体的にコンパクトに収まるメリットは大きい。DX設計レンズも使用出来るしね。