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安倍外交のメンツをかけた目玉事業が「お手上げ状態」になっていた

ジャパン・ハウスはもう予算削減だって

結局、打ち上げ花火だけだった

安倍晋三内閣は「森友学園」土地取引の決裁文書改ざん問題で窮地に立たされているが、世論調査で最も高い政策評価を得ているはずの安倍外交の足元でも、実は、ほころびが露呈し始めている。

その一つが、鳴り物入りで2015年度予算から総額約500億円の巨額増額が行われた対外発信事業だ。「戦略的広報」と称し、その目玉が、初年度で約52億円の施設関連経費(施行は複数年)が計上された「ジャパン・ハウス」。

当時、他省庁からは随分とうらやましがられた新規事業だったが、企画段階から何をやるのか判然としなかった。

このジャパン・ハウスとは、戦略的対外発信の強化のため「オールジャパン」の対外発信拠点としてサンパウロ、ロンドン、ロサンゼルスの3カ所に設置される展示館のこと。

 

日本に関する情報をまとめて入手できるワンストップ・サービスを提供するとともに,カフェ・レストランやアンテナショップなどを設け,現地の人々が「知りたい日本」を発信するというものだ。

と、いうお題目の通り、一時代前の"ハコモノ行政"の典型のようなもので、案の定、具体的なものはハコモノだけで、しかもそれができた直後から迷走を始めている。

すでに2017年5月にサンパウロが開館し、外務省広報によれば半年間で現地の約30万人が来館したという。特に、民間の活力や地方の魅力などを積極的に活用するというのが売り物だ。

しかし、外務省筋によれば、2019年度予算編成段階で「ジャパン・ハウスのハコを作ったのだから、あとは民間の力を借りて運営するように」と言い渡されたという。対外発信事業を行う上で、一番重要な運営費は、首相官邸、財務省から、来年度予算以降、民間から調達するようにというきつい"お達し"が発せられたということだ。

民間の協力を仰げと言われても、内部留保を積み上げるばかりの世知辛い企業が、メセナ資金を増やすことはまれだ。

公益社団法人「企業メセナ協議会」によると、2014年度企業メセナの活動費総額は約956億円で、その後も毎年同程度の総額ベースで推移している。

しかし、企業や財団のメセナ活動は総件数3000件以上と細分化され、外務省が期待するようなまとまった資金提供は極めて困難だ。確かに、企業メセナ活動費は文化庁の年間予算約1000億円に匹敵するが、2020年東京オリンピック・パラリンピックを控えてその争奪戦は過熱化している。

そんな状況下で、「民間主体」を言い渡された外務省は、まるで2階に上がってはしごを外されたような話になっているといえるだろう。

この対外発信事業の強化は、1990年代以降、長期低落の外務省予算にとっては破格の出来事であった。背景に、中国、韓国両国による領土問題や慰安婦問題などをめぐる対外発信攻勢があったことは言うまでもない。

しかし、問題はスタート段階から発生した。筆者も、当時の担当者から「中身をどうするか」という相談を受けたが、数字だけが先行していて省内での事業内容の積み上げはほとんどできていなかったのが実情だった。

コンセプトが生煮え状態だったため、いざ「ジャパン・ハウス」の入札となったら、政府基準を満たす応札業者が現れず、2度目の入札で最大手広告代理店・電通に委託企業が決定した。契約は、競争入札によって委託者が決まらない場合に適当と思われる相手方を任意に選んで結ぶ随意契約だった。

電通は海外の展示施設での継続的な事業展開の大変さ、さらには歴史や政治といった機微に触れる問題を民間ベースで扱うことの難しさを知り尽くしたうえでの契約だった。