ゲームの中に留まらない『スプラトゥーン』という体験を提供していきたい。任天堂 野上恒氏が語る開発秘話と変遷【GDC 2018】(2/2)

GDC 2018にて行われた、任天堂の『スプラトゥーン』シリーズに関するセッションをリポート。野上恒プロデューサーが、『スプラトゥーン』が生み出す体験の魅力や、シリーズの開発秘話を語った。
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新たなIPを、長期間楽しんでもらうために

 こうして生まれた『スプラトゥーン』だが、世に送り出すにあたり、課題はいくつかあった。まず、新規IPであるため、どのくらいの人が手に取ってくれるかわからなかった。対戦型のオンラインゲームにとって、プレイ人口の獲得は課題のひとつであることは間違いない。また、地面を塗るという新しい仕組みを持ったゲームであるため、ブキやステージなどのコンテンツを一度に提供しても、特徴が十分に理解されず、使われずに忘れられるものが出てくる可能性もあると考えた。加えて、オンラインゲームを長く遊んでもらうにはバランス調整も欠かせない。

 これらの課題を解決するため、初期はゲームモードやコンテンツの数を絞り、長期にわたって増やしていくことにした、と野上氏。プレイヤーのゲームへの慣れ、コミュニティの成長に合わせて、ブキやステージ、ルールを追加していくことで、新鮮な気持ちで遊び続けてもらえる環境を作り出したのだ。

 野上氏はここで、ひとつのグラフを提示した。『スプラトゥーン』、『スプラトゥーン2』の発売後数ヵ月のデイリーアクティブユーザー(全世界)の推移を比較したグラフだ。

全体的に、『スプラトゥーン2』のほうがデイリーアクティブユーザーが多い。周期的にグラフが伸びているが、これは週末に遊ぶユーザーが多いため。

 1作目『スプラトゥーン』は、発売からほぼ横ばいで稼働が推移し、大型アップデートが行われた8月にユーザーが一段階増え、クリスマスでさらにユーザー数が増えている。

 一方、IPの存在が広く知られてから発売された『スプラトゥーン2』は、発売直後からデイリーアクティブユーザーが多かった。クリスマスを経て大きく伸びて、現在も発売時よりも多くのユーザーが遊んでいる。ちなみに『スプラトゥーン2』は、10月にちょっと稼動率が下がっているのだが……原因は『スーパーマリオ オデッセイ』が発売されたからとのこと。

 なお、週末の中でも大きく飛び出している箇所があるが、それはフェスが実施された週末だ。フェスの開催中は、ゲーム全体がお祭りムードに包まれる。これには、ゲームをプレイしている人はもちろん、遊んでいない人にも話題を広げてほしいという意図があるという。家族や友だち、SNSの仲間と、ケチャップとマヨネーズのどちらが大事かを真剣に話し合ってほしい、と野上氏は語り、会場を沸かせた。

そして『スプラトゥーン2』開発へ

 『スプラトゥーン2』の開発は、『スプラトゥーン』のアップデートを行っている最中に始まった。まだNintendo Switchが発表されていないころだったが、野上氏は、Nintendo Switchのコンセプトを聞いて、『スプラトゥーン』との相性がいいと感じたという。家と外でプレイスタイルを使い分けられるハードは、マルチプレイを楽しむ『スプラトゥーン』に適していて、新しい体験を生み出すと考えたのだ。

 とはいえ、新しいハードで作るうえでは、画面構成を変更する必要があった(試行錯誤で乗り越えた、と野上氏)。また、本体が普及するまで、プレイ人口が少なくなってしまうという懸念もあったし、「新規参入者にも、前作経験者と同じような体験をしてほしい」という考えもあった。

 そこで『スプラトゥーン2』では、前作同様、プレイヤースキルやコミュニティの成長に合わせてコンテンツを追加する形式を採用。コンテンツが成長していく過程を楽しむのも、『スプラトゥーン』の価値だと考えていたからだ。

 また、新規参入者が多いと予想されたため、前作同様、ひとりでプレイする“ヒーローモード”を作り、練習場とての役割と、世界を掘り下げ、キャラクターに愛着を持ってもらう役割を担わせた。一方で、『スプラトゥーン2』ならではの新しいモードとして、“サーモンラン”を用意。比較的シンプルな構成でありながら、遊び続けられるように作り込んだ。

 対戦、ヒーローモード、サーモンランは、それぞれ独立した遊びだが、ひとつのゲームサイクルの中でつながるような設計になっている。ヒーローモードやサーモンランでゲットした報酬は対戦で役立つほか、ひとつのモードで得たプレイスキルは、ほかのモードでも応用できる。

 プレイヤーの分身であるイカの若者が、ナワバリバトルに興じるかたわら、バイトをして、そして人知れずヒーローとして世界を救う……。そのような体験を感じられるような演出にした、と野上氏は語った。

ゲームの中に留まらない『スプラトゥーン』という体験をプレイヤーに提供

 『スプラトゥーン』から2年後に発売された『スプラトゥーン2』の世界では、現実同様に、2年の時が経過している。それは、両方を遊んだプレイヤーに、ふたつがつながっていると感じてほしかったからだと野上氏は語る。ゲーム内で時の流れが感じられるように、イカたちのファッションや音楽のトレンドの変化を描いた。

 この考えは、新ストーリーモード“オクト・エキスパンション”(2018年夏配信予定)にも生かされている。このオクト・エキスパンションは、スプラトゥーンの世界をより深く楽しみたい人に向けたもので、クリアーすると、タコの姿でオンライン対戦が可能になる。イカの社会にタコが融合することで、『スプラトゥーン2』はつぎの時間に移り変わっていくのだそうだ。

『スプラトゥーン2』ウデマエX追加! タコが主人公のヒーローモード、有料追加DLC“オクト・エキスパンション”2018年夏配信決定!【Nintendo Direct】

2018年3月9日、任天堂がWebプレゼンテーション番組“Nintendo Direct 2018.3.9”を放送。その中で、『スプラトゥーン2』の新情報が公開。

 なお、“オクト・エキスパンション”は有料だが、公平にマルチプレイを楽しむために必要な要素は、今後も無料で追加していくとのこと。

 コンテンツが成長し、変化することによるダイナミックな体験を得られるのが『スプラトゥーン』の魅力だが、最初からすべて計画していたわけではなく、ファンからの反応を見て変更したものもあるという。たとえばシオカラーズは、想像以上にファンからの支持を得たため、新曲を用意し、ライブなどの施策を行った。ライブの内容は、ゲームの内容とつながるように、細かいところまで開発スタッフが監修している。

ファンアートを描いたり、シオカラーズのバックボーンを想像したりするファンが多数登場。予想以上に人気が出たという。

闘会議2018にて行われた、テンタクルズとシオカラーズのジョイントライブは大盛り上がり。ここまで愛してもらえることは開発者冥利につきる、と野上氏。「娘の成長を見守るような気持ち」だとか。

 なお、シオカラーズのライブは、これまでに日本とフランスで行われていて、スイスで3月末に行われる“Polymanga”というイベントでも実施予定。野上氏は、アメリカではまだ開催したことがないので、シオカラーズによいオファーがあることを期待している、とアピールした。

テンタクルズとシオカラーズが夢の共演! 最高にイカした“『スプラトゥーン2』ハイカライブ”リポート【闘会議2018】

2018年2月10日~11日、千葉・幕張メッセにて開催されている、ゲームファンとゲーム大会の祭典“闘会議2018”。開催初日、音楽ステージにて、Nintendo Switch用ソフト『スプラトゥーン2』の人気キャラクター、テンタクルズによるライブ“ハイカライブ”が行われた。

 シオカラーズと言えば、『スプラトゥーン』の最後のフェスのテーマにもなった。“アオリ vs ホタル”をテーマに行われたラストフェスの結果は、『スプラトゥーン2』に反映されている。現実の世界と並行して、『スプラトゥーン』の世界が変化し、プレイヤーの反応を吸収して広がっていくことを感じてほしかったからだと野上氏は語る。

 ここで野上氏が主張したのは、“ゲームの外で起こることも、ゲーム体験の一部”であるということ。野上氏自身、子どものころを振り返ると、ゲームを遊んだことはもちろん、友だちとゲームの話をしたことが思い出として残っているという。同様に、ファンアートを描いたり、ゲームイベントに足を運んだりすることも、ゲームの世界を楽しんでいることに変わりはない。

 ゲーム大会も、そういった体験のひとつ。野上氏は、例として、日本で行われたスプラトゥーン甲子園を紹介した。また、アメリカでは、Nintendo World Championshipsの種目に選ばれているほか、E3 2017会場では4地域の代表を集めた世界大会が開催された。ヨーロッパでは、9つの国で大会を行い、その勝者を集めてヨーロッパの王者を決めるチャンピオンシップを開催中だ。

 さらに、コミュニティ主催の大会も多数存在。世界中の多くのプレイヤーが楽しんでいる姿を見るのは、「このうえない喜び」と野上氏。

スプラトゥーン甲子園では、コアなゲーマーのチームはもちろん、家族で参加しているチームも多い。親子3代で参加したチームも。

 『スプラトゥーン』シリーズが競技性の高いゲームだと認識されるのは光栄だと述べつつ、野上氏は、『スプラトゥーン』チームが目指しているのは、“世界中のできるだけ多くのプレイヤーに楽しんでもらうこと”であると語る。競技性は、高みを目指しながら、ゲームを楽しんでもらうためのもの。あくまで、ゲームを楽しむことが第一にあるということだ。ゲーム大会は、日頃の鍛錬の成果を披露する場でもあるが、ファンが集まってコミュニティの熱を感じられる場でもあり、今後もサポートしていくとのこと。

 これからも、ゲームの外の体験も含めて、「ゲームっていいな、やっぱりおもしろいな」と心から感じてもらえるもの、よい思い出が残るものを作っていきたい……と語る野上氏。そう思うのは、前述の通り、野上氏自身がゲームに関するたくさんの思い出を持っているからだろう。「ゲーム文化に育てられ、ゲームから数多くのいい思い出をもらって、ゲーム開発者としてここに立っている」という野上氏が、どんな新しいゲーム体験を作ってくれるのか、引き続き目が離せない。

セッション終了後、野上氏のもとには、記念撮影やサインを希望する人が続々! アメリカでも『スプラトゥーン』の熱を感じることができて、うれしい限り。

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