中古マンションを大規模に改修した「リノベーション(リノベ)マンション」が人気を博している。設備は最新、価格は割安ということで、若い子育て世代などから引き合いが強い。ただし、安いからといって飛びつくと、思わぬ損をする可能性もあるという。中古マンション仲介サービス「カウル」の運営を手掛けるハウスマート代表取締役CEOの針山昌幸氏に、リノベマンション購入時の注意点を解説してもらった。
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不動産業界では今、空前の「リノベーションブーム」が巻き起こっています。間取りを含めてマンションの居室を大きく改築し、新築マンションと同じような快適性、新しさを手に入れた「リノベーションマンション(リノベマンション)」が数多く流通するようになっているのです。
リノベマンションの魅力は、何と言っても価格の安さ。築20~30年の物件であれば、新築マンションの6~7割程度の価格で手に入れられることも珍しくありません。都心部の新築マンションは値上がりが続いていることもあり、割安で手に入るリノベマンションが注目を集めているのです。
また昨今は、大規模な新築マンションを建てられる土地が減って、駅近などの好条件の物件が出にくくなっています。ですが、まだ土地に余裕があった時代に建てられたマンションは好立地の物件も多く出回っています。こうした点からもリノベマンションに着目する方が増えているようです。
しかし、そんなリノベマンションも選ぶべきポイントを知らないと、後で大きな出費を迫られることがあります。キーワードは「隠れ借金」「1984年」「55平方メートル」の3つ。それでは詳しく見ていきましょう。
■借金マンションだと数百万円の追加負担も
さて、1つ目のキーワード、「隠れ借金」。実はリノベマンションの中には、これまでの管理が不十分で、管理費や修繕積立金などに滞納があったり、修繕積立金が不足しているなど、外からはわかりにくい「借金」を抱えているケースがあるのです。
一般に分譲マンションでは、管理会社などが住民から管理費と修繕積立金を毎月集め、日々のさまざまな管理に使ったり、将来の大規模修繕に備えています。ただマンションによっては、経済的な問題などからこれらの支払いを滞納している入居者もいるのが実情です。滞納金はマンションにとっては「負債」……わかりやすく言えば「借金」ですが、この借金は中古マンションの購入者が背負うことになります。買うときにはなかなか気づかないため、「買ってみたら『隠れ借金』マンションだった」というケースが起こりえるのです。
もっとも、この「隠れ借金」も、滞納者が少なく金額があまり大きくなければ問題にはなりません。ただし、築年数の古いマンションでは、長い年月の間に滞納額が100万~1000万円単位で積み上がっているケースもあります。
こうした「隠れ借金」マンションを買ってしまうと、入居後に管理費や修繕積立金の値上げを求められることがあります。具体的には、「修繕積立金を月に1万~2万円ほど値上げする」「追加で全戸から200万円を出してもらう」など、少なくない金額を入居者に求めるケースが頻発しているようです。事実、国土交通省の「平成20年度マンション総合調査」によれば、修繕積立金が足りず、一時金を徴収したり金融機関から借り入れを行ったりしたマンションは、全体の約21%に達しているとのことです。
■「隠れ借金」は簡単に分かる
こうした「隠れ借金」マンションを事前に見抜くにはどうしたらいいのでしょうか。実は、どなたでも簡単にチェックする方法があります。不動産事業者が購入希望者にお渡しする「重要事項に係る調査報告書」には、「管理組合の借入金の有無」「管理費・修繕積立金等の滞納額」が明記されています。この項目を見て、過大な借入金や滞納額があれば「隠れ借金」マンションですから、購入は見送った方が無難でしょう。
さらにもう一つ、「隠れ借金」の有無をチェックしておくべき項目があります。「営繕積立金積立総額」です。これはマンションの大規模改修のために積み立ててあるお金の総額で、この金額が不足しているかどうかをチェックするのです。
「そんなこと言われても、素人には不足しているかどうかなんて分からないよ」と思われるかもしれませんが、そのマンションの平均的な居室の広さ(平方メートル)と戸数がわかれば、どなたでも簡単に判断できます。
(広さ)×(戸数)×(200~250円)×12×(前回の大規模修繕からの年数)<(営繕積立金積立総額)
実はマンションの修繕費は、国交省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」によって標準的な金額が示されています。建物の階数や床面積によって異なりますが、一般には「1平方メートル当たり200~250円/月」が目安。上記の計算式の意味するところは、「マンション全体で、1年に積み立てておくべき修繕積立金の金額」が、「前回の大規模修繕を終えて以降、きちんとたまっているか」を示したものなのです。
例えば居室面積が平均60平方メートル、50戸の中古マンションがあったとします。5年前に大規模修繕を実施し、現在の営繕積立金積立総額が2000万円だとした場合、このマンションは「隠れ借金」マンションの可能性が高いと思われます。
たまっているべき営繕積立金積立総額は、上記の式に当てはめると、
60平方メートル×50戸×(200~250円)×12カ月×5年=3600万~4500万円
ですから、少なくとも3500万~4000万円は欲しいところ。次の大規模修繕で資金が不足し、追加で修繕金を求められる可能性がありそうです。なお、マンションの階数や床面積によって必要となる修繕積立金の平均値は変わってきます。より詳細には、下に示した表の「事例の3分の2が包含される幅」で示された金額を使って計算するとよいでしょう。
この式を応用すると、月々の修繕積立金が妥当かどうかも分かります。購入したいマンションの居室の広さに、200~250円を掛けた数字が目安となります。例えば60平方メートルの居室なら、月1万2000~1万5000円程度。これ以上に安い場合は、将来、修繕積立金が値上げされる可能性もあると思っていた方がいいでしょう。
これ以外に、大規模修繕の工事履歴もチェックしておきましょう。マンションは一般に、長期修繕計画に従って12年から15年に一度の周期で大規模修繕を行います。防水工事や外壁補修、廊下などの共用部分の補修など、マンションの資産価値に大きな影響を及ぼす大事な工事です。この工事が行われていなかったり、工事間隔が不自然に空いている場合、修繕積立金不足の疑いがあります。マンションの資産価値も当然下がりますので、購入を避けた方が無難でしょう。大規模修繕の工事履歴も、不動産事業者から事前に入手できます。
■「1984年以前」「55平米以下」は買うと損
2つ目の「1984年」と、3つ目の「55平方メートル」は、物件選びで最大400万円の損得を左右するキーワードです。そう、住宅ローン控除の適用を受けられるか否かの境界線が、築年月と居室面積それぞれに存在するのです。
住宅ローン控除とは、毎年の住宅ローンの借入残高に合わせて、一定の金額が所得税から控除されるというお得な制度。10年で最大で400万円(長期優良住宅などは500万円)もの税金が戻ってきます。例えば4000万円クラスの物件であれば1割にも相当する金額です。低価格が売りのリノベマンションを購入するに当たり、絶対に無視できない制度と言えます。
しかし、このお得な住宅ローン控除、利用するには一定の基準を満たしている必要があるのです。具体的には、(1)新耐震基準で建てられたマンションであること(2)内法(うちのり)で室内面積が50平方メートル以上あること――の2点です。
(1)は建築基準法の変更に伴うもので、1981年6月以降に建築許可が出ていれば新耐震基準のマンションとなっています。ただし、いつのタイミングで建築確認が出ているかは「台帳記載事項証明書」という専門的な書類を確認する必要があり、分かりにくいのが難点です。
そこで目安となるのが「1984年以降に完成」したマンションか否かです。通常、マンションは建築許可が出てから2年以内に完成します。ですので、1983年6月以降であればほぼ条件を満たすのですが、工期の遅れがないとも限りません。ですので、「1984年以降に完成したマンション」を探せば、まず間違いなく新耐震基準を満たしていると考えられます。リノベマンションは築年数が古いものが大半ですから、物件探しの際には「1984年以降」というキーワードをぜひ覚えていただきたいと思います。
(2)の「内法で室内面積が50平方メートル以上あること」は、一見すると「なんだ、部屋の広さならチラシを見ればわかるじゃないか」と思われるかもしれません。ただ、冒頭にある「内法で」という条件がくせ者です。
内法とは、壁の内側の部分の面積のこと。一方、マンションのチラシやパンフレットでは「壁芯(へきしん)面積」と呼ばれる、隣の部屋との間にある壁の中心線を基準として測った面積を使います。ですので、チラシを見て「おっ、50平方メートルなら住宅ローン控除が使えるな」と思っていると、内法では50平方メートルを切っており適用対象外、というケースもあり得るのです。
内法面積は「登記簿謄本」という書類を確認する必要があり、インターネット上の物件情報やチラシなどでは簡単に把握できません。そこで簡易的な確認方法として使えるのが、「壁芯面積が55平方メートル以上」です。この基準をクリアしていれば内法面積は間違いなく50平方メートル以上ありますので、住宅ローン控除の対象となります。
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リノベマンションの多くは、デベロッパーが中古マンションを仕入れてリノベーションし、購入希望者を探すケースが一般的です。ですが最近は、自ら手つかずの古いマンションに手を入れてリノベーションする方も増えてきました。居室の広さや使う素材にもよりますが、一般には500万円ほどかければ満足のいく仕上がりになるようです。
そんな中、少し気になっているのは、やや「個性的すぎる」リノベマンションが増えていることです。そのマンションに一生暮らし続ける覚悟があるのであればいいのですが、将来売りに出す可能性があるのなら、あまりにも行き過ぎたリノベーションは避けた方が賢明では……と思うこともしばしば。
例えば天井むき出しで、打ちっぱなしコンクリートで室内を仕上げたり、2~3LDKだった間取りを大きなワンルームにしたりといったリノベーションは、確かに写真映えはします。ただこうした物件を売るとなると、一気にニーズが絞られてしまうもの。自分としては価値のあるリノベーションも、売りに出したときに、そのまま販売価格に上乗せできるわけではありません。自分の好みを生かしながらも、多くの人に好まれるようなリノベーション内容に留めておくのが得策かと思います。
針山昌幸 ハウスマート代表取締役CEO。2009年に大手不動産会社に入社。不動産業界の非効率さに疑問を感じ、楽天に転職。2014年にハウスマートを創業し代表取締役CEOに就任。ITを活用して不動産営業の効率を5倍に高め、仲介手数料を半額に据えた中古マンション仲介サービス「カウル」(https://kawlu.com/)の運営などを手掛ける。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(日本実業出版社)がある。 (マネー研究所 川崎慎介)
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