シェア自転車はこのままでは日本で普及せず

「労働集約型」の中国モデルでは先進国に不適合

2018年3月22日(木)

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北京市に本社を置く中国の⾃転⾞シェアリングサービス「摩拜単⾞(モバイク)」は、中国では好きな場所に「乗り捨て」できるサービスだ。散乱した自転車の整理や故障車の回収は人の手によって行われている(写真:著者)

 中国で爆発的に普及した自転車のシェアリングサービス。日本でもIT企業を中心に参入が相次いでいる。

 2017年に中国大手の「摩拜単車(モバイク)」が日本進出を果たし、フリマアプリ大手のメルカリも「メルチャリ」という名称で今年2月末からサービスを開始した。3月に入り、ヤフーもソフトバンク傘下のオープンストリートに出資する形で参入を決めた。

 一方、日本に先行してサービスが始まっていた先進国では、一部縮小や撤退を余儀なくされるケースが報道され始めた。ゴービー・バイク(Gobee.bike)は2月にイタリアとフランスからの撤退を公表している。オーバイク(oBike)もイギリスでのサービスを縮小しているという。

 その背景にあるのが、マナーの悪いユーザーによる盗難や破壊、放置自転車による交通環境や景観の悪化などだ。フランスから撤退したゴービー・バイクは、「1000台以上が盗難にあい、3200台が破損し、300以上の苦情が警察に寄せられ、6500台で修理が必要」(英国紙『The Guardian』)な状況だったという。

 中国でも同様の問題に直面してはいるものの、シェア自転車マーケットは拡大を続け、サービス開始からわずか数年で社会インフラの一部となった。その背景には発展途上国ならではの事情がある。

シェア自転車普及の背景

 中国でシェア自転車が爆発的に普及した背景の一つが、その利便性だ。アプリをダウンロードし登録してデポジット(保証金)さえ払えば、すぐにサービスを受けられる。開錠や決済もスマートフォン一つで完了。

 中国では専用の駐輪施設を持たないドックレスタイプが主流で、駐輪禁止区域でなければどこでも乗り捨て可能となっている。一方、北京市政府が2012年に導入したドックタイプの公共自転車は利便性に乏しく、ほとんど使われていない。

 また、北京のような中国の都市部では1ブロックが大きく、最寄り駅から家まで歩くと遠いが、タクシーに乗るには近すぎる。シェア自転車はその潜在ニーズにマッチした。暴走運転や整備不良などによる事故が問題となっていた違法「輪タク」(注)は、シェア自転車の出現により駅前から姿を消した。

(注)輪タクとは、自転車やバイクの後ろや横に座席を設置した違法タクシーのこと。

 何より魅力的なのは、値段の安さだ。2018年3月現在では、私がよく利用しているモバイクの基本料金は30分毎に1元(約17円)で、20元(約340円)で一か月乗り放題の定額サービスまで提供している。

 このように、市民に安価な利便性を与え、違法輪タクという社会問題を解決する一方で、盗難や破壊、放置自転車などの問題も顕在化してきたが、事業会社は中国独自の優位性を活かしながら対処している。

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「シェア自転車はこのままでは日本で普及せず」の著者

西村 友作

西村 友作(にしむら・ゆうさく)

対外経済貿易大学 教授

1974年熊本県生まれ。2010年に中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士号取得後、日本人としては初めて同大専任講師として正規採用される。同副教授を経て、2018年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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