「親を介護するなら辞めてくれ」が上司の本音?

「となりのかいご」代表理事・川内 潤さん(その4)

2018年3月22日(木)

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 『母さん、ごめん。』の著者、松浦晋也さんと、NPO法人「となりのかいご」の代表理事、川内潤さんが、松浦さんがお母さんを介護した現場である、ご自宅で「会社員の息子が母親を介護する」ことについて、語り合います。自分の親が心配な担当編集者のYも絡みます。

川内:これも松浦さんの連載と本で、何度も強調されていることですが、目の前で母親に起きていることの原因が、認知症とか介護とかいう状況だ、と認識するというのがまず難しい。ただの年相応の物忘れと思うし、思いたいわけですよ。不可逆的なあの病気、というふうに考えたくないじゃないですか。

Y:まして男子の場合は、それの意味するところは「永遠の安全地帯が崩壊しつつある」ことですからね(※第3回「男性必読!貴兄が母親に辛く当たってしまう理由」参照)。

松浦:思いたくないですね。僕も「母がどうもおかしい」と7月の頭に気がついて、「これは介護が必要そうじゃないか」と疑ったのが9月の末ですから、その間で7、8、9月と……3カ月空いている。

川内:介護保険とか、介護に関して何かを相談しようとするなら、自分の母親を「要介護」というカテゴリーで認識せねばならない。それには気持ちの余裕が必要だけど、非常に取りづらい。どれくらい難しいかというと、実は、我々介護職をしている人間が、自分の親を見るときにも同じことが起きることはあります。

Y:えっ。意外です。

川内:認知症という症状を客観的に勉強し、ある程度いろいろな方の症状を把握できるんだけれども、自分の親に関しては、できる限りそれを拒否したいわけです。松浦さんとまったく同じです。やっぱり相談すらできない。人に言って自分の弱みをさらしたくない、言ったところでどうなるんだ、という気持ちになる。いやいや、それ、自分はいつも「ダメだよ」と、他人様に言っていることでしょう、みたいなことなのに。

松浦:そうなんですか……。では、素人ではまして無理ですね。

介護のプロこそ、肉親を介護してはいけない

川内:もう1つ、私たち介護職が習う心構えの中に、「自分の親こそ、自分が持ったスキルでケアをしたいと思う気持ちを、どこかに持っているかもしれない。だけど、それは絶対やってはならない」ということがあるんです。

Y:そうなんですか? これも意外ですが、なぜなのでしょう。

川内:なぜなら絶対に「いいケア」ができないから。そして、できてない自分を自分で責めるから、です。なぜできないかといえば、これまた、プロであっても必ず「母ちゃん、しっかりしてくれよ」という、皆さんと同じ気持ちが出るから。そしてそれが、「僕はプロとして何をやっているんだろう」という敗北感となって、さらに苛まれるわけです。

Y:二重にきちゃうのか、ひえー。

川内:「一番やっちゃだめなことを分かっていて、やってしまったね、プロなのに」ということになる。それぐらい実は難しいことなんですね。

川内 潤(かわうち・じゅん)1980年生まれ。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。ミッションは「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」こと。誰もが自然に家族の介護に向かうことができる社会の実現を目指し、日々奮闘中。

 いかに早く介護のことを自分事として捉えるか、ということは重要で、松浦さんの本も、早めに認識して相談することの大事さを訴えてくださっている。これはものすごく正しいし、読んだ方は幸運だと思うくらいです。

 でも逆に言えば、本や、こういうウェブの記事などでの手がかりがないままだと、非常に難しい。会社員で遠隔地だったりすると更に難しい。例えば北海道に実家があります、九州にありますといったときに、行くとなると当然手間が掛かる。手間が掛かるというのもあれですけど、有給を何日取るんですかと。

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「「親を介護するなら辞めてくれ」が上司の本音?」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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