ステファニー・ケルトン「国会はすべての国民にポニーを与えられる(十分な頭数が繁殖すれば)」(2017年9月28日)

Congress can give every American a pony (if it breeds enough ponies) By STEPHANIE KELTON, Sept. 28, 2017

(ttp://www.latimes.com/opinion/op-ed/la-oe-kelton-pony-for-all-20170929-story.html)

1860年のアブラハム・リンカーンの大統領選スローガンは「投票して自分の農園を持とう」だった。1990年のウィリアム・マッキンリーは「お腹いっぱいの夕食を」と約束した。1928年にハーバート・フーバーは「すべての鍋にチキンを、すべてのガレージに車を」と公約して地滑り的勝利を手にした。自分の農園、お腹いっぱいの夕食、そしてピカピカの新車。今日の共和党は自身の大統領候補からそんな言葉が出てくることを考えたら縮みあがるだろう。ドナルド・レーガンが教えたように、政府は我々にとって問題であって、解決策ではないのだ。

民主党だって顔を蒼白くするだろうが、異なった理由でだ。民主党は問題解決先としての政府をまだ信じている。でも、すべては「支払わなければならない」という考えに取り込まれてしまっている。2016年の大統領選候補は好例だ。ヒラリー・クリントンは新著書でバーニー・サンダース上院議員のポピュリスト的提案をあざ笑っている。

バーニー:アメリカはポニーを手に入れるべきだと思う。
ヒラリー:ポニーの財源はどこから?

クリントンの問いを直感的に合理的だと思うかもしれない。もしも大きなもののために闘うと約束したのなら、すべての財源を賄う宝箱にたどり着く詳細な工程表を作成すべきだ。なんといっても、お金はどこからか手にれなければならない。

でも、もしその直感はまったく間違っていると言ったら?政府は国民ひとりひとりにポニーを、チキンと車も、与えられるのだとしたら?それはもちろん十分な数のポニーや鶏を繁殖させることができて、十分な数の車を製造することができる限りであるが。車や食料はどこかから手に入れなければならない。でもお金は魔法を使ってどこからともなく生み出すことができる、だいたいそんな感じだ。

説明しよう。

学校で計算の順序をおそらく教わっただろう。カッコ、べき指数、掛け算、割り算、足し算、引き算。この計算の順序の記憶は、下のようなトリッキーな問題を解くのを助けてくれる。

(3^7 — 2 (150+136)) / (5^5 — 17 x 100).*

 

クリントンが財源について質問したとき、彼女は政府の財政運営の順番を下のように並べている。

1.政府は税金として国民からお金を徴収する(T)
2.政府は支出額を決め、足りない分を(国債発行などで)借りる(B)
3.政府は集めたお金を使う(S)

 

みんな同じように習ったので、課税と借金は支出の前に行われるという考えをほとんどのひとが受け入れている。これをTABSと呼ぶことにする。この順序だと政府は支出の前に「お金を手に入れる」必要があるので、誰がTABS(請求書)を任されることになるのか誰でも気になってしまう。

落とし穴がひとつだけある。ワシントンDCの大きな秘密は、連邦政府は金本位制を放棄したときにTABSを捨て去ったことだ。実際には物事はこう機能する。

1.議会が支出を承認し、お金は使われる(S)
2.政府は使われたお金の幾分かを税金として徴収する(T)
3.もし1>2だったら、財務省はその差額を国債に変換する(B)

 

言い換えると、政府はお金を使ってからそのうちの幾分かを国民が支払った税金や買った国債で集めている。支出の後に徴税や国債による借用は起こる。これをSTABと呼ぼう。物事を動かすのは投票と人々の声だ、税収ではない。

もしSTABがこの国の法律として有効だという証明がほしいなら、最近の上院議会で承認された7000億ドルの国防費以外を見る必要はないだろう。国民から10セントさえ取らずに、上院は年額800億ドルの追加を静かに承認した。これは4年制公立大学の授業料を無償にするのに必要な額より多い。そしてこれの財源はどこだろうか?議会は財源が存在することを承認しただけだ。

あら、ステキ!魔法みたいに、政府はどこからともなくお金を作り出すことができると言うのね?もちろん。議会には特別な力がある、米ドルの特許権である。これは議会はいつでもお金を支払うことができるので、いつでもポニーを手に入れられるということを意味する。

でもそれは政府が無条件にどんなものも量に関係なくいつでも欲しいときに買えるということではない(例えば、アメリカ国内の3億2000万人の男性、女性、子ども、ひとりひとりに明日までにポニーを与えるとか)。それは経済には本質的な限界があるからだ。政府が何かを買いすぎれば、経済はその需要についていこうとして価格を引き上げる。政府が物価上昇を制御する方法はたくさんあるけれど。例えば、課税によってお金を経済から引き揚げるとか。

クリントンのポニーはサンダース提案にある高額なものの喩えだ。すなわち、高等教育の無償化と国民皆保険制度だ。ナンシー・レーガンの有名なキャッチコピーの財政版を使うことで、クリントンはサンダース提案の値段をあざ笑い、有権者にNOというように警告したのだ。でもアメリカ人はサンダース提案を好んだ。高等教育の無償化は63%の支持を、国民皆保険制度は66%の支持を得た。これらの政策を実現するには、十分な数の病院、医師、看護士、大学、そして教師を作り出すことだ。議会が国民にポニーを提供することは簡単なことだとみんなが理解すれば、これらの支持率がどれだけ高くなるか。想像してみてほしい。

(原注)ステファニー・ケルトンは、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の公共政策および経済学部の教授である。2015年にアメリカ上院議会予算委員会チーフエコノミスト、2016年大統領選においてバーニー・サンダース候補の経済アドバイザーを務めた。

*数式の解答は、1615/1425。文字に直すと、PO/NY(ポニー)である。