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2018年3月21日(水) セキュリティの話題に丸腰で踏み込んでくる人を見た このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメントAdd Star

Qiita上で「ゲームでよくされるチート手法とその対策 〜アプリケーションハッキング編〜」という記事がいいね数を集めているようですが、全セクションにツッコミどころがあるような印象です。私はセキュリティ本職というわけではありませんが、素人の私から見てもひどいと思ったところだけ個別にツッコミを入れてみます。


念のため補足しておくと、誰であろうと情報発信すること自体は大変良いことです。ただ、誤りを含んだ文章がウッカリ注目されてしまうとそれを信じてしまう人も出てくるので、大人げないと思いつつツッコミを入れる次第です。


デコンパイル(逆コンパイル)

2.の詳しい解説として、C/C++で記述されたコードをコンパイルすると機械語に変換されます。これを逆コンパイルしても、逆アセンブラまでにしかなりません。そのため、この状態ではソースコードの中身を解析するのは(人間では)非常に困難なため、ネイティブコードで書いた処理というのはデコンパイルへの対策となります。


技術用語の使い方が正確でない点は見なかったフリをするとして、C/C++で記述すれば安全だというのは幻想です。攻撃者の多くは高機能な逆アセンブラ(おそらくIDA Pro)を所有しており、昔に比べると格段に処理を追いやすい環境が整っています。基本的にはネイティブバイナリからでもコードの内容は把握可能だと考えるべきでしょう。


そもそもこのセクションの前半で紹介されている「iOS Reverse Engineeringの操作手順」もARMのアセンブリIDA Pro/Hopperで解析する話題になっており、ネイティブコードなら安全という主張とは反対の内容です。ご自身で紹介している記事なのに読んでいないのかしら?と思ってしまいますね。


話を戻すと、クライアントバイナリの挙動は全て解析される前提でシステム全体を設計すべきです。つまり、解析されて困る内容はサーバ側で実装するのが原則論になるでしょう。


絶対に秘密にしたいロジックをユーザーに配布するバイナリに入れたい場合は、自前での対策はあきらめてアンチデバッギング機能・アンチ逆アセンブル機能を持ったセキュリティ製品を購入した方が良いでしょう。実際の現場ではバレてもクリティカルじゃないけど簡単にバレるのはイヤという程度の状況だったりするため、自前実装で頑張っているところもあれば外部ソリューションに頼っているところもあるといった印象です。


乱数調整

なお、乱数を生成する際、現在時刻を基にして、擬似乱数を生成することが多いので、特定のタイミング(時刻)を狙うとうまくいく、といった都市伝説みたいな論調はあながち間違っているわけではありません。

間違いでしょう。明示的ににひどい実装をしない限りそんなことにはなりません。


引用部からすると乱数シードとして現在時刻を利用している言語・環境が多い、という風に読み取れますが、モバイルアプリ文脈でそんな環境はないはずです。現在のOSは各種割り込みのタイミングから十分なエントロピー(乱雑さ)を蓄積し、それを利用して乱数を生成しているため、十分にセキュアだと言えます(マシンの外部から乱数列を推測することは原則不可能です)。また、各言語の乱数生成の実装はOSに依存しているはずで、これらもセキュアだと言えます。


ネット上には自前実装の乱数生成器が転がっていたりして、そうしたものは時刻を乱数シードに使っているかもしれませんが、それらはセキュリティ知識の無い人が作成した脆弱な実装です。言うまでもありませんがコピペして使うなどは言語道断です。


攻撃者がOSroot権限を持っている場合など、乱数生成器の内部状態にアクセスできるようであれば次に生成される乱数を事前に知ることも可能でしょう。その意味で、重要な抽選はサーバ側で行うべきという主張自体は正しいと思います。ただし、サーバ側で実装するにしても乱数シードのエントロピー確保をOSに任せること、および採用する疑似乱数の性質を把握することの2点は必須です。


ちなみに、乱数シードのエントロピー不足でサーバ上の乱数生成器が攻撃対象になりうるという事例は私が以前会社の技術ブログ記事「PHPのセッションIDは暗号論的に弱い乱数生成器を使っており、セッションハイジャックの危険性がある」で紹介しました。古いPHPで設定がイマイチなときにしか発生しない話題ですが、ご参考まで。


余談

本当はDBトランザクションとロックに関してツッコミを入れようと思ったんですが、長編になりそうだったのでその他のところだけ記事にしました。もちろん私より適任の方が記事を書いてくださってもいいんですよ?(チラッ

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