自動運転ショック走る 米ウーバー事故「想定外」なお

自動車・機械
北米
2018/3/20 23:00
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 米ウーバーテクノロジーズの自動運転車が18日、歩行者を死亡させる事故を起こした。自動運転の走行実験で歩行者が死亡するのは初めてだ。人工知能に例外的状況のデータを蓄積し学習させていけば、いつかは人間より安全な運転が可能になるといわれる自動運転。ただ、その学習項目が複雑になればなるほどリスクも増す。

米ウーバーの自動運転車が女性をはねる事故を起こした現場のテレビ映像(19日、アリゾナ州テンピ)=ABC15提供・AP

 「とてつもなく悲しいニュースだ」。19日朝、ウーバーのダラ・コスロシャヒ最高経営責任者はツイッターで、事故の遺族への弔意と捜査機関への協力を表明した。

 同氏は2017年秋の就任以来、取引先や規制当局との融和姿勢を打ち出し、悪化したウーバーのイメージを好転させてきた。事故はそれを無にしかねない。同氏の投稿の下には「危険なウーバーの実験車のせいで死者が出た」といった批判的な投稿が並んだ。

 自動運転の開発で先行する米グーグル系のウェイモの累計走行距離は500万マイル(約800万キロメートル)を超え、ウーバーの2倍以上。ウーバーは自動運転システムの外販による台数増で走行距離を稼ぐ戦略を描き、提携するトヨタ自動車とも交渉を進めている。販売先をためらわせかねない今回の事故によるブランド毀損は戦略的にも痛手だろう。

 事故は18日夜10時ごろ、米アリゾナ州フェニックス近郊のテンピで49歳の女性が歩道から外れた車道を渡っていたところで起きた。車両は時速64キロメートル以下で自動走行していたとみられ、衝突前に減速した形跡はなかった。サンフランシスコ・クロニクル紙によると、現地警察は歩行者の急な飛び出しが原因で、人間の運転でも避けられなかった可能性が高いとみているという。

 事故が起きたアリゾナ州は自動運転車の規制が全米で最も緩く、各社が実験を繰り返して走行データを集めている。道路が広く区画配置も規則的な同州は、大都市に比べ自動運転の難易度がはるかに低い。17年にはウェイモが無人の走行実験を始めた。

 走行の難易度は都心に近づくほど高まっていく。人間とのやりとりが増え、人工知能に要求される判断が複雑になるためだ。隣の車線を走る車の運転手の目配せや手ぶりが通じず、接触事故につながるケースも多い。特に混雑した市街地では何が起きるかわからない。今回の事故はそのリスクを改めて示した。

 ウーバーは緊急時にハンドルやブレーキを操作する監督者を運転席に置く条件で実験の許可を得ており、運転の責任は運転席にいた監督者にある。もちろん、原因が車体やスウェーデンのボルボ・カーと共同開発するシステムのあきらかな不具合だった場合は、企業側が責任を問われる。

 そのため、実験中の車は法定速度内で走るようプログラムされ、スピード違反はありえない。基本的に、常に道を譲る設定となっている。ウーバーの開発者のシーン・チン氏は客を乗せた実証実験で「もっと速く走れとのクレームが出た」と語る。実験が盛んなサンフランシスコでも、交差点でなかなか曲がれないでいる自動運転車をよく見かける。

 米国ではこうした自動運転車が千台以上、実験走行を続けている。ボストン・コンサルティング・グループによると、35年には運転者が原則不要な「レベル4」以上の自動運転車が世界の新車販売台数の23%を占めるという。開発競争を優位に進めるため、米国では22年ごろに年10万台まで実験の許可を増やす方向だ。ただ、今回の事故への反応次第では計算が狂う可能性もある。

(シリコンバレー=兼松雄一郎)

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