個人に線量計に落とし穴も 福島の住民、家に放置 データ低く
「農作業のときに邪魔」
政府は東京電力福島第1原発事故の復興指針で、空間線量を基に住民の被ばく線量を推定する方法から、個人に線量計を渡して実測する方法に改めることを決めた。暮らしぶりで被ばく線量は異なり、細やかな対応につながる可能性はある。ただ、先進事例とされる福島県伊達市では、家の中に線量計を置きっぱなしのケースが多かった。実際より格段に低いデータが独り歩きすれば、避難住民に早期帰還をせかす恐れもある。 (原発取材班・山川剛史、清水祐樹)
■ 半分
伊達市は昨年7月からの1年間、市民の約8割に当たる5万3千人近くに線量計(ガラスバッジ)を配り、年間の被ばく線量を調べた。原子力規制委員会の田中俊一委員長の助言があったという。
市の集計では、平均の被ばく線量は0.89ミリシーベルトで、約66%の人が国の長期目標である1ミリシーベルトを下回っていたとされる。空間の放射線量から被ばく線量を推定する従来の国の方式より、おおむね半分以下の値だった、とも分析した。
従来方式では、空間の線量が毎時0.23マイクロシーベルト(1マイクロシーベルトは1ミリシーベルトの1000分の1)なら、年間被ばく線量は1ミリシーベルトになるとされてきた。除染しても、なかなかこの値を下回らず、苦慮する自治体が多い。
記者会見で仁志田昇司(にしだしょうじ)市長は「貴重なデータを国でも施策に生かしてもらいたい。毎時0.23マイクロシーベルトを超えていても、年間1ミリシーベルトにならないという事実は重要だ」と強調した。
■ 別物
これほど大規模な実測の被ばく調査は、日本では前例がない。参加した市民全員に線量が通知されたと聞き、本紙は被ばく線量のばらつきが比較的少ない同市月舘町(つきだてまち)を2日間かけて回り、住民にヒアリングした。暮らし方を聞き、線量とどんな関係があるかを探るのが狙いだった。
ところが、狙いは早々と外れた。訪ねても訪ねても、線量計は居間や廊下の壁に家族分がまとめてつるされていたからだ。これでは屋内の線量を測っているにすぎず、屋外の活動も含めた実際の被ばく線量とは別物だ。
ある農家では、家族全員の数値が年0.5〜0.6ミリシーベルトとほぼ同じ値。女性(57)は「農作業のときにじゃまだし、なくして弁償させられたら困るからここにつるしている。同じ場所なのに、微妙な差は何なのかしらね」と笑った。
訪ね歩き、やっと18世帯48人分のデータを集めたが、住民が線量計をいつも持ち歩き、正しいデータとみられるのは、5世帯8人分(17%)だけだった。
■ 危険
それでも、8人のデータと暮らしぶりを比べると、傾向ははっきりと見てとれた。
「朝から日暮れまで畑仕事をしている」という60代の夫婦の年間被ばく線量は1.9ミリシーベルトと1.8ミリシーベルトだった。農地の除染は難しく、家周辺の放射線量が毎時0.2マイクロシーベルト程度だったのに対し、農地は同0.3〜0.4マイクロシーベルトあった。
家と田畑の線量が同等の農家でも「田畑にいる時間は短め」という人たちは1.1〜1.4ミリシーベルトと1段低かった。農地にいる時間が、被ばく線量に大きく影響していそうだ。屋内にいることが多い文具店の夫婦はいずれも0.8ミリシーベルトだった。
きちんと線量計を着ければ、被ばく線量も正しく出る。被ばくを低減するノウハウを編み出すための参考にもなる。
しかし、危険なのは、実態を映さない個人線量計のデータを基に「空間線量が高くても年間の被ばく線量は少ない」との誤った認識だけが流布されてしまうことだ。
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