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神保町で愛され続けて60年――天丼『いもや』の閉店に隠された“人情経営”の限界

[2018年03月20日]

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しかし、年齢と時代の波には逆らえない。

「今は私も妻も身体が鈍って、回転がきかなくなっています。去年は腰の手術をして、昔だとお昼に70~80人のお客さんを平気でこなしていたけど、今はどう頑張っても50~60人が限界。だから直営店が閉店になるってニュースが出てからお客さんがこっちに流れ始めていて、閉店したらもっと増えるのでしょうが、『よし! 頑張るぞ』という気にはならないんです…。言ってしまえば迷惑な話でね(苦笑)。

じゃあ、誰か雇うかって気にもなりません。店にそんな余裕はありませんし、そもそも、今の若いコは飲食店で10時間も12時間も働かないでしょう?」

3月末で閉店する直営店2店舗では、独立した店とは違い7人ほどの従業員が働いているという。今も行列店であることに変わりはないが、行列の長さは昔ほどではなくなり、社員旅行もなくなった。売上げが伸び悩む中で人件費が重荷になる現状に、かつての『いもや』を知るある従業員はこうこぼす。

「今の若い人は私たちのようには頑張れないのよ。8時間労働が常識だし、“ヨシ、売ってやろうか!”って風にはならない。だから人を多めに抱えざるをえず、人件費が上がってしまい、薄利多売の商売が成り立たなくなる…。働き方やワークライフバランスが重視されるこの時代に、“家族的な絆”を頼りにする『いもや』的な人情経営は合わなくなってきているように感じます」

直営店が閉店した後、残る弟子たちの4店舗がいつまで続くかは「我々の頑張り次第ですが、そう長くはもたないかもね(笑)」と樋口氏は言う。

揚げたてでボリュームたっぷりの天ぷらやとんかつを1千円以内で――既存のチェーン店とも違う、ハイコスパでシンプルすぎる無骨な店がなくなるのは淋しい限りだが、できるだけ長く、『いもや』の食を店主の人情と一緒に味わい続けていたいと思う。

(取材・文/興山英雄)

『とんかつ・いもや』(東神田)の店主、樋口好雄さんと妻・やすのさん

『とんかつ・いもや』(東神田)の店主、樋口好雄さんと妻・やすのさん


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