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神保町で愛され続けて60年――天丼『いもや』の閉店に隠された“人情経営”の限界

[2018年03月20日]

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3月末で閉店するのは神保町2丁目にある『天丼・いもや』と『とんかつ・いもや』の2店舗だが…

いもやが閉店になるって」

2月下旬、神田・神保町にある天丼とトンカツの老舗専門店『いもや』が閉店するとの情報がツイッターに流れ、話題になった。『いもや』といえば1959年の創業以来、この地で半世紀以上営業しつづける神保町の“レジェンド”。記者も月イチで通う常連のひとりだ。

『いもや』が閉店するなんて本当か? その1ヵ月前にも神保町の老舗カレー店『キッチン南海』が閉店との情報が流出したが、週プレNEWSの取材で“デマ”だったことが判明。その際に配信した記事は反響を呼んだ(『老舗行列店が閉店騒動!? SNS上に拡散した“悲報”の真相』参照)。

だが、“『いもや』も同じパターンであってほしい”との思いは、駆けつけた店先に貼られた告知文によって無情にも打ち破られた。

『いもやは、昭和34年来の約60年に亘って、皆様にご愛顧いただきましたが、3月31日を持ちまして閉店することとなりました。いもや店主』(原文ママ)

閉店するのは神保町2丁目にある『天丼・いもや』と『とんかつ・いもや』の2店舗。いずれも故・宮田三郎氏が立ち上げ、現在は妻の静江さんが経営する直営店だ。その場には“最後に食べておかねば”とばかりに連日、店前に行列ができる賑わいを見せている。

パチパチパチっと店内に響き渡る油の音、どんぶりからはみ出さんばかりに盛られる熱々の天ぷらが目の前で揚げられ、これにシジミ汁がついて650円という安さ…。近所の大学に通っていたという50代の男性はこう言って閉店を惜しんだ。

「30年ぶりに来ましたが、味は何も変わってなかったですね。学生時代はご飯粒を残したり、食事中にぺちゃくちゃ喋ってると店主によく怒られたのを覚えています。でも、何も言わずエビ天を1本多めにのせてくれる日もありました。料理だけでなく、店主の人情も味わい深かった稀有(けう)な店…なくなるのは淋しいです」

今のところ、その閉店理由は明らかにされていないが、創業者の宮田氏が10年ほど前に81歳で他界して以降は、妻の静江さんが二代目社長として店を切り盛りしてきた。「静江さんももう86歳。経営を手伝う娘さんも60歳近くになるはず。お体の面でも店を維持するのが限界にきたのでは…」と近所の飲食店店主は教えてくれた。

だが、直営店の元従業員が独立・開業した神保町1丁目の『天ぷら・いもや』、東京・東神田の『とんかつ・いもや』、栃木市藤岡町の『とんかつ・いもや』、青森県弘前市の『天ぷら・いもや』といった暖簾分けの4店舗は残る。

東神田の『とんかつ・いもや』の店主、樋口好雄氏によると「直営店で10年以上働かないと看板を出せない」というのが同店のルール。天丼の店はなくなるが、天ぷらととんかつについては宮田氏の愛弟子たちが直営店と変わらぬ味を守り続ける。

だが、「それもいつまで続くか…」と樋口氏は浮かない表情であった。


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