半導体の売上高世界第6位、シンガポールに本社を置くブロードコムが、同5位の米クアルコムを買収し、米インテル、韓国サムスン電子に次ぐ世界3位の巨大半導体会社への飛躍を試みたM&A(合併・買収)が、あえなく破談に追い込まれた。トランプ米大統領が「安全保障上の脅威」を理由に待ったをかけたからだ。
地道な研究開発にコストと時間を費やすことなく、資金力にモノを言わせたM&Aをくり返し、傘下に収めた企業を解体して高収益部門だけを取り込み、残りの部門を切り売りする「ハゲタカファンド」的な商法を続けてきたブロードコムへの反発が根強いためだろう。
米国内では、同じ安全保障という大義名分を掲げて鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置を打ち出した先の大統領令に比べると、トランプ大統領への批判の声は少なく、むしろ今回の買収禁止命令を支持する意見が多いという。
しかし、この問題をそうした感情論で語るのは危険である。米議会の中間選挙を今年11月に控え、トランプ政権は、貿易戦争を誘発しかねない「アメリカ・ファースト」や保護主義政策をふたたび前面に掲げて、支持基盤固めを進める構えをみせているからだ。EUや中国は、鉄鋼・アルミニウム問題に対抗する報復措置の準備を着々と進めている。
第二次世界大戦は、貿易戦争が武力による戦争に発展したものと言える。トランプ大統領に危険な火遊びを自粛させ、同じ轍を踏まないことは、同じ時代に生きるわれわれ全員の使命ではないだろうか。
おごれる者、久しからず――。アメリカの平均的なビジネスパーソンたちは、半年近くにわたってくり広げられた今回のM&Aの熱い攻防劇を、そんな冷ややかな思いで見つめていたようだ。
この問題を取材していて最初に目立ったのが、買収のターゲットにされたクアルコムと、その創業者の息子でCEO(最高経営責任者)の地位にあったポール・ジェイコブス氏に対する、極端に冷めた見方である。
クアルコムは、ポールの父であるアーウィン・ジェイコブス氏が1985年に、カリフォルニア州サンディエゴ市で研究者仲間と設立した。同社の急成長を支えたのは、1G(第1世代移動通信システム)のFDMA(周波数分割多元接続)や2GのTDMA(時分割多元接続)に代わり、3Gで基本方式とされたCDMA(符号分割多元接続)に関連する、多くの基本特許を開発・取得したことだ。
CDMAはもともと、米軍が盗聴などの妨害を受けにくい通信技術として開発・使用していたもの。ネックとされていた周波数の利用効率の悪さを改善する技術をクアルコムが確立し、幅広く利用されるようになった。
その結果、クアルコムは2000年代にかけて、CDMA関連特許のライセンス料と携帯電話用の半導体・ソフトウェアを抱き合わせてほぼ独占的に供給することに成功、ビッグビジネスの仲間入りを果たした。当時は他に代用できる技術がなかったため、世界市場を席巻できたのである。