文月悠光さん(左)と牧村朝子さん(右)
16歳で現代詩手帖賞を受賞し、10代から詩人として活躍してきた文月悠光さんが、「JK詩人」という肩書から脱却するため、八百屋、フィンランド、ストリップ劇場などに出かける冒険譚を綴ったエッセイ集『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)を今年2月に刊行しました。
そして3月8日、文月さんとタレント・文筆家の牧村朝子さんのトークイベントが下北沢B&Bで開催されました。牧村さんとのトークで明らかになっていく、「臆病な詩人」の文月さんが感じている「生きづらさ」の正体とは? 牧村さんがかつて「アンチ・モーニング娘。」だった理由は? この世界を自分の足で歩くためのヒントが盛りだくさんのトークの様子を前後編に分けてお送りします。
ウェブ連載を書籍化する際の工夫
文月:こんばんは。詩人の文月悠光と申します。今日は2月に発売された『臆病な詩人、街へ出る。』という私のエッセイ集の刊行記念として、文筆家の牧村朝子さんをゲストにお呼びしてトークをさせていただきます。よろしくお願いします。
牧村:よろしくお願いしまーす。
文月:たぶん私と牧村さんのどちらかしか知らないという人もいらっしゃると思うので自己紹介を……でも自分で自分の紹介をするのって難しいですね。
牧村:それが自己紹介っていうんじゃないの?(笑) 臆病な詩人さんでーす。はい、他己紹介してあげたよ。
文月:ありがとうございます(笑)。まきむぅこと、牧村朝子さんです。
牧村:です。
文月:こういうときに、「私はこれこれという者です」ってサッと言えたらいいんですけど。詩人なんて身近にいないよ、という方も多いと思うのですが、今日は怖がらずに話を聞いていただけたら嬉しいです。
牧村:文月さんが一番怖がってそうだけどね。
文月:ふたりの共通点は、「cakes(ケイクス)」というウェブメディアで連載を持っていることですね。牧村さんの場合、エッセイや人生相談形式の連載を……何年くらいやっていますか?
牧村:2014年からなので、3年間続けさせていただいています。
文月:3年間続けられた連載の一部を『ハッピーエンドに殺されない』(青弓社)という本にして昨年出版されています。後半のエッセイパートは書き下ろしですよね?
牧村:書き下ろしがないと本で買ってくださる方に申し訳ないので。
文月:紙の本ならではのしかけ、工夫をしてみたりしますよね。『臆病な詩人、街へ出る。』でも、中にはいっている栞に書かれている詩は、この本のために書き下ろしたものです。
牧村:栞のための詩? 栞詩?
文月:そう、栞詩。2、3行くらいの短い詩を3種類書きました。そういう仕掛けを書籍の担当編集者さんが考えてくださったんですね。ウェブから紙へ形が変わることって結構大きいですよね。
牧村:うん!
文月:ウェブの連載が好きで読んでくれていた人が、紙でも買ってくれるってパターンはもちろんありますけど、紙になることで、本屋さんで偶然手にとってくれる人がうまれたりするじゃないですか。
牧村:そういう、ウェブでは知らなかったけど本屋さんで偶然見つけたという方は、よかったら手をあげていただけますか? ……いるじゃん!
文月:ありがとうございます!
「かっぱ巻き」の出会い
文月:私の牧村さんの第一印象を話してもいいですか? 先ほどお話したcakesが「臆病な詩人」の連載が始まった直後の2016年に新年会を企画してくれたんですね。編集者やライターが集まってご飯を食べるみたいな。
牧村:オフィス内でね。
文月:ドキドキしながら出かけていった先で、すぐに牧村さんに出会って。その頃は、正直、ウェブメディアへの偏見がかなり強くて……。
牧村:おお、はっきり言うねえ。
文月:紙の人間なので。
牧村:業界の人いるよ、たぶん(笑)。
文月:ごめんなさい、ごめんなさい。でも絶対向こうも私のこと「紙の人間」だって思っているから。そのときは、ウェブだし、PV数とかいろいろ言われるんだろうなあ、怖いなあと冷や汗かきながら行ったんですね。
牧村:臆病な詩人だ(笑)。
文月:オフィスに入ったらすぐに牧村さんがいらっしゃって、お互いに自己紹介したら、私の詩集を読んでくださっていたんですよね。後から聞いたら牧村さんも詩がお好きで。
牧村:大好きです。
文月:一時期、『現代詩手帖』(思潮社)も読まれていたってことで。まさかcakesのオフィスで詩が好きな人がいるとは。
牧村:あら、「まさかウェブメディアごときの新年会で」って言いたいの?(笑)
文月:いやいやいや。でも属性が違うって思い込みがあったんですね。ウェブと紙に壁を感じていたので、牧村さんとお会いしたときに、「この人には壁がないんだ」ってことですごく心が許せたというか。しかも、好きな詩としてあげてくださったのが、私が初期に書いたものだったんですよ! ガチで詩を読んでくれている人だと思って(笑)。私が高校生のときに書いて、初めての詩集にいれたかっぱ巻きを題材にした詩があって(『適切な世界の適切ならざる私』収載「お酢ときゅうり」)。
牧村:かっぱ巻きですよ。かっぱ巻きって(笑)。かっぱ巻きですよ。
文月:かっぱ巻きから海苔を剥がして、その黒い海苔がフィルムになって私の過去を上映してくれる……といった詩的なイメージでかっぱ巻きを描いたんですけど。その詩が好きと言ってくださって、なんて面白い人だろうって思ったんです。予想していたものと違うものと巡り会えたという驚きと歓びがあって、すごく印象に残っていました。