学生時代、法学部に在籍していた私の得意技は「論破」だった。友人たちと居酒屋に行っては議論を吹っかけ、理屈で相手を追い詰めることに快感を覚えていた。
だが、次第に私は仲間内の酒席に呼ばれなくなった。いちいち理詰めで黙らされては、せっかくの酒がまずくなると考えたのだろう。これは当然の帰結だ。
以来、私は猛省することになる。筋の通った理屈で論破しても、そこには一文の価値もない。むしろ、人間関係を壊すという大きな代償がつきまとう。
特に日本人の場合、意見の対立は”感情の悪化”に直結しやすい。いわゆる「ディベート」の文化が定着していない以上、勝敗を白黒はっきりさせるようなコミュニケーション自体が、そもそも無意味なのだ。
勝っても相手は「動いてくれない」
これは、仕事上の会議や交渉についても言えることだろう。いくら対立点があったとしても、理論武装して相手を言い負かそうとか、ましてや相手の弱点を突いて黙らせようなどと考えてはいけない。その場の議論で勝ったとしても、相手の中に感情的な”しこり”を残すだけで、思い通りには動いてくれないだろう。それは結局、両者にとって不利益だ。
目指すべきは、あくまでも穏やかに、問題点を明確にして、お互いにアイデアを出し合う会議。多くのビジネスパーソンは、そんな会議や交渉を心がけているに違いない。
ところが問題は、議論が白熱し、いつの間にかディベート的な泥仕合の様相を呈してしまう場合だ。特に、トラブル処理などポジティブになりにくい議題の時は、責任の所在などを巡って水掛け論になることがある。ケンカ腰の2人が舌鋒鋭く批判し合い、場合によっては、「その言い方が気に入らない」といった人格批判にまで発展し、周囲の出席者は押し黙って嵐が過ぎ去るのを待つのみ、というのが典型的なパターンだ。
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