有田芳生(参議院議員)

 国会で仕事をしていると、世間の感覚とは遠い世界にいるなと思うことがある。「表と裏」が平然とまかり通るからだ。

 2010年に初当選したとき、あるベテラン議員にこう言われたことを思い出す。「有田さん、国会議員って平気でウソをついていいんですよ」。あぜんとした。総理が解散時期について事実を言わないことはよく知られている。しかしいま問題となっている「加計(かけ)学園疑惑」については本筋の問題から離れても異常な状況が続いていることに注目するのは、どうも「ウソ」が横行していると思えるからだ。

 文部科学省の前川喜平前事務次官が、「総理のご意向」「官邸トップの指示」などが記された内部文書を、実際にあったものと証言してからのことである。菅義偉(よしひで)官房長官は正式の記者会見で、この文書を「怪文書」だと表現した。信じるに足る文書ではないと公式に表明したのだ。しかしその一方で、口外を禁じるオフレコ発言では、前川氏が文書をリークしたと名指しで語っていた。ダブルスタンダードである。しかも発言はさらにエスカレートした。

 また、前川氏が事務次官を退職したことに対して「職に恋々としていた」などと語った。そうでなかったことは前川氏の発言で覆させられることになる。さらに新宿・歌舞伎町の「出会い系バー」に出入りしていたことが、読売新聞に大きく掲載された。読売新聞は東京本社、大阪本社、西部本社で印刷する。記事はそれぞれの本社で判断し、当然だがレイアウトもそれぞれの整理部で判断する。ところが出会い系バーの記事は、まったく同じ大きさで同じタイトルで社会面の同じ場所に掲載されている。普通ではありえない扱いなのだ。ここに政治的意図を見るのは当然だろう。
大勢の報道陣が詰め掛けた、文科省の前川喜平前事務次官(奥中央左)の記者会見=5月25日、東京・霞が関
大勢の報道陣が詰め掛けた、文科省の前川喜平前事務次官(奥中央左)の記者会見=5月25日、東京・霞が関
 しかも菅官房長官は、前川氏がこのバーに「50回も、100回も通っていた」とオフレコで語っている。いかにも怪しいバーに出入りしていたという印象を与えたかったことは明らかだ。昨年秋に前川氏は杉田和博官房副長官に呼び出され「こんなところに出入りしているのか」と注意を受けた。杉田氏が警察庁出身であることに注目したい。

 官邸は、いかにして前川氏が歌舞伎町の雑居ビルにある出会い系バーに出入りしていることを確認したのだろうか。私の関心の中心はもちろん加計学園疑惑の真相だが、その周辺で続く情報戦のあり方についても批判的に監視しなければならない。なぜなら、情報によって個人の人格をゆがめ、社会的に抹殺することさえ可能だと思われるからだ。