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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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274 魔 物 7

「ば、ばばば、バリアァァ! フィルター、換気、清浄魔法うぅ!!」
 マイルは、必死で、全力で魔法を使った。
 まず、身体の周りにバリアを張って、外気を遮断。次に、バリアをフィルター化してから、内側の空気を全て排出。そうすると、外側から、気圧が下がった内側へと空気が流れ込む。フィルター状になったバリアによってカプサイシン成分をし取られた空気が……。
 更に、自分の身体に清浄魔法を掛け、衣服や身体に付いたカプサイシンや、体内にはいったカプサイシンを除去、分解。

「はぁはぁはぁ、死ぬかと思った……」
 そして、そんな便利な魔法は使えないオーガとドワーフ達は、まだのたうち回っていた。
「ウィンド!」
 マイルが風魔法で赤い霧を吹き飛ばすと、レーナと、治癒を終えたメーヴィスとポーリンが近付いてきた。魔術師組は、もう、オーガ達にある程度まで接近しても大丈夫だと判断したらしい。
 そしてマイルとメーヴィスがオーガ達に止めを刺して廻り、レーナとポーリンはドワーフ達に清浄魔法を掛けて身体や衣服のカプサイシン成分を除去して廻っていた。

 オーガのうち、一部の者、特に上位種は、立ち上がってマイルとメーヴィスを迎え撃とうとしたものの、ろくに開けぬ眼、嗅覚が完全に失われた状態の鼻、呼吸するのも辛い焼けるような喉、そして激痛にさいなまれる全身の傷口や粘膜部分に、とても戦いに集中できるような状態ではなかった。そのため、殆ど実力を発揮することができず、馬鹿馬鹿しい程簡単に倒されていった。

 ……最初からホット魔法を使えばよかった?
 いや、それでは、ドワーフ達主体の奪還部隊を編成した意味がなくなる。
 これは、あくまでも『ドワーフ達の、自分達の村を守るための戦い』であり、『赤き誓い』はそれを支援するために雇われたお手伝い要員に過ぎない。あくまでも、『誇り高きドワーフ達が、自ら立ち上がって魔物と戦い、村を守った』という事実が必要なのである。
 また、『赤き誓い』だけで討伐した場合、この特異種である魔物達の強さ、その脅威度が非戦闘員を含むドワーフ達全員に強く認識されず、また、戦闘要員達の経験にならず、以後に活かすことができない。
 それに、『赤き誓い』だけで行くなどと言っても、全滅間違いなしのオーガ討伐に人間の少女4人を向かわせて、自分達は村でのんびり待っている、などということが、矜持の高いドワーフ達に許容できるはずがなかった。

 なので、ドワーフ達に『自分達も、精一杯戦った』と言えるだけの役割を振ってやり、重傷者や後遺症が残るような怪我人が出ないようにうまくやるつもりだったのである。
 そしてオーガ達が『普通のオーガ』であり、数が偵察隊が確認したものより少し多いという程度であれば、それは問題なく行えたはずであった。
 討伐任務という、相手がいる仕事が計画通りに進むことなど、まずあり得ない。今まであまりにも順調に進んでいた『赤き誓い』は、少し甘く考え過ぎていた。それでも、このようなイレギュラーさえなければ、計画通り順調に進められたのであろうが……。

     *     *

 その後、『赤き誓い』だけで魔法の灯り(マジック・ライト)を使って坑道の調査を行い、数頭の雌と仔を処分した。雌も成体の大半は戦いに参加していたようであり、残っていたのは仔の世話役か、病気か怪我等で戦えないものであったのだろう。
 そこに、『可哀想』などという概念は存在しない。このような特殊個体が種族として固定されることを見逃すのは、ヒト族全てに対する裏切り行為である。

 これで、もし何らかの理由で巣を離れていた個体がいたとしても、せいぜい2~3頭程度であろうから、村人達だけでも何とかなるだろう。ドワーフ達にもそれなりの被害は出るであろうが、そこまでは面倒見切れない。『赤き誓い』がこの村に住み着いて、ずっと守ってやることなどできないのだから。
 勿論、『赤き誓い』は街へ帰投する前に再度ここへ来て、残存個体が巣に戻っていないかを確認するつもりではあったが……。

「じゃあ、村へ戻るわよ!」
「「「おお!」」」
『お待ち下さい、マイル様!』
 ナノマシンの声が聞こえないメーヴィスとポーリンはレーナと一緒に歩き出したが、マイルが立ち止まってしまったため、3人もすぐに立ち止まった。そしてドワーフ達も、『赤き誓い』の4人が動かないため、同じく停止した。
「ん? マイル、どうかしたの?」
 マイルが怪訝そうな顔で黙り込んだため、レーナ達がマイルの側にやってきた。しかし、マイルは真剣な顔で、何やら考え込んでいる……振りをして、脳内会話でナノマシンに苦情を言っていた。

(どうしたの、急に……。みんなの視線を集めた状態じゃ、話なんかできないよ!)
『すぐ、すぐ終わりますから! お願いです、私達に「穴を塞げ」とお命じ下さい!』
(え……?)
 ティンときた!
(それって、すごく重要なことなの?)
『重要です!』
(……そうか、重要かぁ……。それじゃあ……)
『ありがとうございます!』
(後で、理由を正直に教えてくれる?)
 ぴしっ!
 空気が凍り付いた。
 ……いや、現在、このあたりには通常ではありえない程のナノマシンが集まっており、空気中のナノマシン密度がかなりアレだったのである。そのナノマシン達が同時に固まったものだから、そういうのに敏感なマイルには、本当に空気が固まり、凍り付いたかのような錯覚を覚えたのである。

(……わざわざ私の命令を求めるということは、ナノちゃん達が自分の判断でやっちゃいけないことなんだよね? でも、自分達には許可されていないけれど、どうしてもやらなきゃならない。そういうことだよね?)
『…………』
(そして、権限レベルが5の私の指示でできること。……納豆を作るのさえ権限レベル7を要求するくせに!)
 マイルは、以前の和食計画頓挫のことを、相当深く根に持っているようであった。
(そして更に、『穴を塞げ』? 何か、最近あったよねぇ、開きそうになっちゃったやつを塞いだ、ってことが……)
『…………』
(『穴』って、どことどこを繋げる穴かなぁ。それが分からないと、適切な命令ができないんじゃないかなぁ……)
『……くっ、殺せ!!』

     *     *

「……というわけで、原因を究明しないと、いつまた特異種の集団が現れるか分からないですよね。いいんですか、調査もせずに、このまま帰って……」
 マイルが、突然考え込んだのは『このまま帰っていいのか』と心配になったからであると説明し、その心配の内容を皆に説明したところ、ドワーフ達は蒼白になった。

 今回、重傷者も後遺症が残るような怪我をした者も、そして死者をも出さずにあの特異種を討伐できたのは、ただ単に『運が良かったから』に過ぎないことを認識していない者など、ドワーフの中には、ただのひとりもいなかった。
 いや、かなりの怪我をしたものは何人もいたが、マイルとポーリンの治癒魔法により回復したので、それはノーカウントである。しかし、ドワーフ達は、戦いが終わった時点では7~8割が怪我人であり、そのうちの半数近くは重傷、あるいは後遺症が残りかねない怪我であった。もしふたりの治癒魔法が無ければ……。

 ……運が良かった。
 そう。『赤き誓い』という常識外れのパーティがたまたま居合わせて、そして支援依頼を受けてくれたという、信じられない程の僥倖に恵まれたということが、全てであった。
 なので、もし今回のオーガ達がここで自然に発生したものではなく、どこかで大量発生したものであったなら。そこが手狭になったために株分けして、移住先を求めてやってきたのであったなら。そして、再び次の集団がやってきたなら。
 もし『赤き誓い』がここを去った後で、再び同規模のオークやオーガの集団が現れた場合、それらをドワーフ達だけで排除できるのか?

「……調査しよう!」
 蒼い顔をした隊長が、そう断言した。
「まだオーガの残りがいるかも知れないし、ついでにオークの巣も確認して、潰そう。君達への依頼内容は『魔物討伐の支援』だから、契約の範疇はんちゅうだ。……頼む!」
 それは、村の防衛担当者としては、そう言うだろう。『赤き誓い』抜きだと、新たな群れどころか、残った数頭のオーガや、オーク相手ですら、重傷者、下手をすれば死者を出してもおかしくないのだから。『赤き誓い』がいる今、全てを片付けたいに決まっている。そこに、更に『次の集団が』などと言われれば、焦るに決まっている。
 幸い、マイルとポーリンの治癒魔法により、戦力はほぼ回復している。今、やるしかない。

「しょうがないわねぇ。ま、確かに契約の範疇よね。暗くなりかけるまでは付き合うわよ。
 ……でも、夜戦は御免よ」
 レーナに言われるまでもなく、元々ドワーフ達も、こんなところでオーガやオーク相手に夜戦をする気など、更々ない。
 話は決まった。
「よし、予定変更、鉱山周辺の調査を行う。少しでも異状を感じたり、普段と違うことがあれば、迷わず報告しろ。では、組分けを行うぞ!」

 調査に、大人数でぞろぞろと歩き回る意味はない。
 もしオーガやオークを発見した場合は、決して自分達だけで戦おうなどとは考えず、すぐに他の者達に連絡すること。それを強く命じて、組分けを行う隊長。
 ……わざわざそんなことを言わなくとも、そんな無謀なことを考える者など、ひとりもいなかった。『赤き誓い』以外は。

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