東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から7年が経過したが、福島県の現状を巡る風評や偏見は根強く残っている。その大きな原因は放射線に関する知識の不足である。正確な情報を繰り返し丁寧に発信していくことが必要だ。
身近に接する福島県産食品への不安はなかなか消えない。消費者庁は2013年から大都市圏の市民を対象に意識調査を実施しており、今年2月の第11回調査結果によると、「放射性物質の含まれていない食品を買いたい」という理由で福島県産食品の購入を「ためらう」人は12・7%いた。
この割合は第1回(13年2月)の19・4%から低下傾向にあり、今回は過去最低となったとはいえ、福島県産食品に対する安心感の回復はまだまだとみるべきだろう。
ずっと深刻なのは、放射線の健康影響についての認識だ。三菱総合研究所が昨年8月に東京都民千人を対象に実施した調査結果によると、福島第1原発事故による放射線被ばくで現世代に健康被害が発生する可能性が高いと考える人は53・5%、子や孫など次世代以降についてそう考える人は49・8%に達した。
こうした見方は、福島県民へのあしき偏見につながる恐れが否定できない。実際、原発事故後に県外に避難した人や福島県出身者が「放射能」を理由にいじめや差別を受けた例は後を絶たない。
しかし、言うまでもなくこれらの心配には科学的根拠がない。避難区域を除けば、福島県内の放射線量は他地域と大差がなく、健康リスクは全く変わらない。今後もがんが増加することは考えられない。これは国連放射線影響科学委員会の報告書などでも裏付けられている。
福島県産の農林水産物は放射性物質の厳格な検査が実施され、合格したものだけが出荷されている。福島県産食品の安全性は全く心配ない。
ところが、こうした知見は広く共有されていない。それがデマや不正確な情報を信じる原因と考えられる。放射線に関する正しい科学的知識を学び、福島県の現状を知ることができる環境を整えることが不可欠だ。
政府や自治体、専門家には、これまで以上にそうした情報をきめ細かく発信するよう求めたい。全国の小中高校でこれらの基本的な知識を教えることも必要だろう。
メディアの役割も重要である。放射線と福島県に関する正確な情報を分かりやすく伝えるよう努めなければならない。しかし、メディアはこれまで、安心よりも不安を与える言説をより多く報道する傾向があったように思われる。ニュース性の判断に、センセーショナリズムによる偏りはないだろうか。自らの報道姿勢を顧みたい。
風評やデマをなくそうとする活動に対して、根本の原発事故を起こした東京電力と政府を免責することになる、という批判がある。しかし、これは科学的なリスク評価と原発事故の責任追及を一緒にしている。この二つはどちらも必要であり、切り分けるべきだ。
誤解してはならないのは、科学的根拠の有無と差別の是非は別問題だということである。仮に「福島県は危険だ」という主張に科学的根拠がある場合でも、差別は許されない。科学が差別の正当化の手段として使われるようなことがあってはならない。(共同通信・柳沼勇弥)