どもどもスケ半です。
いきなり春。
びっくりするほど春。
暖かいですね。
庭にある梅の花はもう散り始めています。
もうすぐ4月。
そう出会いと別れの季節。
初めて一人暮らしをしたのは、社会人二年目の春。
関西の企業に就職した僕は、一年目の配属先が名古屋だったこともあり、大学を卒業しても実家暮らしを続けていた。
ようやく社会人に馴染んできた年の暮れのこと、名古屋へお偉いさんが僕を訪ねてやってきた。
開口一番、お偉いさんが発した言葉。
「スケ半、田舎に異動」
まさかの異動。
しかも地名ではなく、『田舎』へ異動を命じられる。
僕は慌てた。
「え、でも僕一人暮らしとかしたことないんです」
お偉いさんは言った。
「おまえ名古屋って言っても端っこなんだから大丈夫だろう」
確かに僕は名古屋の端っこに住んでいた。
「いや、でも・・・」
「そういうことだから、頼むわ」
こうして、僕は初めての一人暮らしを田舎ですることが決まった。
そうと決まれば、急いで支度をしないといけない。
僕らはヤマダ電機に行って、『新生活応援』の家電を買い揃え、当時付き合っていた彼女とFrancfrancで小物を揃え、ニトリで家具を揃えるという
This is Shoshinshaなベタベタ準備で引っ越しに備えた。
引っ越し自体は何度か経験していたものの、業者さん選びや手配の方法等に疎かったため、ネットとにらめっこをしていたのを母親が見かねて、勝手に大手三社に電話をかけた。
業者さんは、母親の指定通りの時間にやってきた。
皆さん同時に。
母親は簡潔に時期と行き先と述べ、見積もりを出させた。
そして、その場で見積書を見比べて言い放った。
「この中で一番お安いところにしようかと思うのですが、これでよろしいでしょうか」
各社、一斉にもう一度書類を書き直す。
いただいた書類を母親が吟味し、一社に決めた。
このとき、思ったのだ。
社会人になると、こんな 地獄みたいな営業が待っているのか・・・と。
これと同時に、僕は物件を探していた。
なにせ初めての一人暮らしである。
気持ちの高ぶりを抑えられない。
僕はネットでいくつかの物件をリサーチして不動産屋さんへメールでアポを取った。
いかんせん、土地勘がないので『家賃が安い・駅ちか・築浅』の三項目だけで絞っていた。
当日、踊る心をなだめながら僕は車で高速を2時間ほどを飛ばし、不動産屋さんのある駅へたどり着いた。
なるほど。
確かに田舎である。
まず、電車が外を走っている。
名古屋で電車が外にあるのは田舎の象徴だ(失礼)。
名古屋は基本的に地下鉄文化で、JRや私鉄は郊外組。
ちなみに、長久手の近くは電車が外に出る。
しかし、言うほど・・・である。
確かに田舎ではあるけれども、よっぽど豊田の山奥の方が田舎である。
僕は不動産屋さんに入り、メールのやり取りをしていた担当者さんと会った。
ギャルだった。
しかも、ナチュラルギャルである。
どういうことかというと、
もうゴリゴリのギャルは卒業。
でも、昔はヤンチャしていました感がにじみ出ているタイプのギャル。
髪は傷みに傷んだ茶髪をなんとか蘇生しようとした感じ。
爪は怒られるギリギリを攻めたネイル。
地味な制服が似合わなさ過ぎて逆にエロい。
そんなギャルが担当者だった。
僕は不覚にもドキドキした。
「それじゃ、物件を見に行きますか」
「お願いします」
「あ、いくつかピックアップしてもらってたんですけど、かなり離れたものだったので、今回はその中の3つほどご案内します」
「それで大丈夫です」
こうして、ギャルの運転する車でドライブが始まった。
ギャルは巧みなハンドルさばきで社用車をガンガン飛ばしていた。
「スケ半さんは、一人暮らし初めてですか?」
「そうなんです、お恥ずかしながら」
「そうなんですね、わたしは実家だから羨ましいです」
「あ、実家なんですか?」
「えぇ、何度か一人暮らししたんですけどいろいろ面倒で」
「ほ、ほぉ」
「まぁ帰ったら帰ったで面倒なんですけどね」
ギャルは軽快に車を飛ばしている。
徐々にギャルとの距離が縮まってきた。
「それにしても、名古屋はいいなぁ」
「いや、言っても何もないところだよ」
「そんなことないですよ、服とか買いやすそう」
「まあ、買い物は困らないかな」
「ここなんて京都まで出ないといけないし・・・」
「それは不便だね」
「それに・・・名古屋は・・・」
そう言うと、ギャルは窓の外へ視線を移した。
「名古屋は、パチ屋が凄いじゃないですか」
パチ屋・・・?
パチ屋って・・・パチンコ屋さん?
「そうそう、さすが発祥の地ですよね」
「パチンコするの?」
「え?しないんですか?」
「ん?しないよ?」
「えーそうなんですか。名古屋の人はみんなするもんだと思ってた」
「どんな偏見だよ」
「いやー、いいですよね名古屋は。設定もくぎも素晴らしい」
「・・・」
「あ、ちょっと揺れますよ」
ギャルはそう言うと、ハンドルを大きく切った。
その先に、道はなかった。
「え?」
ギャルは、コンクリートのない道へ車を突っ込んだ。
そこは、田んぼのあぜ道だった。
車一台分しかないあぜ道を何の躊躇もなく絶妙なコントロールで走るギャル。
そのテクニックは、藤原拓海やミハエルシューマッハも驚愕するに違いない。
そして、気付いた。
やっべぇ、ここ田舎だわ。
俺今田んぼん中を車で走ってるもん。
ギャルは、物件に着くといろいろと説明してくれた。
非常にわかりやすく、素晴らしい対応だった。
しかし、どうしてもしっくりくるものがなかった。
なにか、こうあと一歩なのである。
それを察して、ギャルは少し考えた後、こう言った。
「とっておきが、一つあるんですけど、見に行きます?」
「えぇ!?とっておき?!なんでそれを教えてくれなかったの?」
「実は、その物件は少し問題があって。でも一番おススメなんです」
『ギャルのおススメするとっておき』
この字面だけでご飯が3杯食えそうだ。
僕は、その物件に行ってみることにした。
「44㎡でオール電化です」
「駅からは800mで10分と少し。始発駅でもあります。」
「駐車場付きで5.5万円」
「新築です」
そう説明を受けながら到着した物件の場所には、
大きな原っぱが広がっていた。
「今から着工してすぐ出来上がります」
「が、中身をお見せできません。だってまだできてないんだもん(笑)」
ギャルは煙草を咥えながらはにかんだ。
風になびく髪をかき上げながら煙草を吹かす姿はサマになっていた。
「ここ、おすすめ?」
「えぇ、間違いなくおススメ。現に結構注文入ってます」
「私なら、ここは即決」
その一言で決めた。
初めての一人暮らしは、建物ではなくギャルで決めた。
それから、物件が出来上がると同時に引っ越しを完了させた。
搬入の時間上、どうしても朝一で家を開けなくては行けなくて、前日入りしたかった僕はギャルに無理を言って鍵を上手くしてもらった。
鍵が入っている場所には、
『初めての一人暮らしおめでとうございます』
メモが一緒に入れられていた。
それから一人暮らしは順風満帆に過ぎた。
しかし、彼女とは別れていた。
そんなある日、
僕は一人暮らしの家で目を覚ますと隣に裸の女性が寝ていた。
この女性見たことある・・・・
会社の同期じゃん。
彼女は、そうこうしているうちに僕の家で生活をするようになった。
僕の一人暮らしはおよそ4か月で終わりを迎えた。
それから、しばらくして。
僕らは夫婦になった。
あのギャル元気にしてるかな・・・。