劉鶴・中国副首相 物静かな経済学者が経済政策のトップに
サラ・ポーターBBCシンガポール記者
中国・北京で開催中の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で19日、4人の国務院副総理(副首相)が選出された。その中の一人、米ハーバード大卒の劉鶴・共産党中央財経指導小組弁公室主任は経済・金融政策という大役を任された。
習近平国家主席とは10代の頃からの友人と言われ、中国共産党内では経済アドバイザーとして活躍。過去40年にわたり中国の成長を牽引(けんいん)してきた、負債に依存した投資と輸出重視の経済から、緩やかではあるが持続可能な消費中心の成長へと転換しようとする政策のブレーンといわれている。
一部からは鶴叔(鶴叔父さん)と呼ばれて親しまれている劉氏。今回の就任で、負債の圧縮と金融市場の開放を行いながら、どのようにこの転換を達成するのか、世界中の貿易相手国から注目が集まっている。
劉氏の台頭
劉氏の経歴は、典型的な中国官僚そのものだ。
24歳で共産党に入党した後、中国の学術機関に勤務。複数の省庁に在籍した後、1992年には客員研究員として米ニュージャージー州のシートンホール大学に留学。その後、ハーバード大学で行政学の修士号を取得している。
中国政府内ではこれまでに、現在の国家発展改革委員会や政府系シンクタンクの国家信息中心などで要職を歴任。2013年には国家発展改革委員会の副委員長と、現在までの職の共産党中央財経指導小組弁公室の主任になった。
2017年10月には中国共産党の中央政治局委員に選ばれ、指導部内での昇進を確実なものとした。
だが劉鶴氏を世間一般で有名にしたのは、今年の世界経済フォーラム(ダボス会議)への参加がきっかけだった。
前年の習近平国家主席から引き継ぐ形でのキーノート演説で劉氏は、経済グローバル化への中国の貢献や、世界の経済成長促進に向けた努力を繰り返し表明。しかし、劉氏が焦点を当てたのは、主要な経済リスクの削減、貧困撲滅、汚染の低減という、中国が直面する3つの問題だった。
「ご存知のとおり、バケツにより多くの水を入れたかったら、板の一番短い部分を伸ばさなければいけない」
「同じように、あらゆる面で小康社会を実現するためには、中国はこれらの問題を克服し、われわれの発展の中で最も短い部分を直していく必要がある」
そして2月、劉氏は米政府高官や大企業経営者たちと会談し、米中の貿易協議を再開させるべく米ワシントンへ赴いた。
到着から間もなく、ドナルド・トランプ米大統領は鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の追加関税を課すと発表し、既に厳しい姿勢を示していた対外貿易政策で、さらにハードルを上げた。中国にとっても対米輸出に影響を与える政策で、中国政府は関税が経済に悪影響を及ぶのであれば座視はしないとしていた。
劉氏の訪米に暗い影を落とすと思われていたこうした状況にも関わらず、劉氏は米中間でさらなる貿易協議を進めることで合意を取り付けた。
一連の出来事は米国の政府関係者に、劉氏が単なる経済改革継続の提唱者というだけでなく、実際に協力できる人物という印象を与えたようだ。
彼の評判と影響力は、今後も高まる一方だろう。