晴れた日は銭湯の煙突を見上げよう
銭湯と聞いてまず思い浮かべるのは、高くそびえる「煙突」のある風景だ。でも銭湯の煙突って、頭の中にはイメージとして存在するものの、これまで実物をじっくり眺めたことはなかった。実際のところ、煙突ってどんな感じなんだ?
大阪市内にある銭湯を巡って、煙突を見上げてみた。
1983年徳島県生まれ。大阪在住。エアコン配管観察家、特殊コレクタ。日常的すぎて誰も気にしないようなコトについて考えたり、誰も目を向けないようなモノを集めたりします。
前の記事:「「デジタル木魚」で、もっとかんたん般若心経」 人気記事:「戦車! 戦艦! 知られざる「ミリタリー陶芸」の世界」 > 個人サイト NEKOPLA Tumblr 銭湯の煙突を想う銭湯の傍らにデデーンとそびえる、煙を吐く円筒状の物体――それが銭湯の煙突である。改めて煙突について考えてみると、住宅街にある建造物としては最上級に異質な存在だ。長い筒が空に向かって生えていて、そこからモクモクと煙が吹き出している。
もし地球のことを何もしらない異星人が銭湯の煙突を見たとしても、まさかそこで大量の湯を沸かしているとは思うまい。すべては暖かい湯に浸かるために。人類の入浴に対するパッションを見せつけられている感じがして、とても情熱的な建築物のように思えてきた。 煙突が気になりだしたのは、鶴見区にあるパール新温泉の煙突を何気なく写真に撮ったときだった。表からは煙突が見えないのだけど、裏側からみると……
公園の脇で、天を突くようにそびえ立つ煙突。タワマン、公園、煙突。煙突だけがひときわ異彩を放っている
見上げると、このディテールである。渋すぎる
まわりの建物に比べて、この煙突だけ年季が入っているのは確かである。でもありきたりな昭和ノスタルジー的な文脈で一括りにしてしまうのは惜しい。
いろんな歴史があって、いま私たちの街には煙突が立っている。その歴史の先にある、いまの煙突の姿、それがとても美しいと思ったのだ。 もし「銭湯の煙突の絵を描け」と言われたら、ただ細長いだけの円筒状の物体を描いてしまうだろう。でもさっき見た鶴見の煙突はどこかゴツゴツとしていて、触ると痛そうな独特の質感があった。私は銭湯の煙突について何も知らない。もっと銭湯の煙突を眺めてみなければと思い立った。 平成30年の街角には、どんな煙突があるのだろう。いろんな銭湯を巡って確かめてみた。 煙突のある風景銭湯の煙突が面白いのは、こんな風に普通の住宅街に突如として現れるところだ
近づいてみると、無骨で無愛想な煙突がそこにあった(東成区・日光温泉)
先に言っておくと、煙突を見た感想は「デカい」「渋い」「カッコいい」というのがほとんどだ。私の語彙力が少ないというのもあるけれど、言葉で言い表せない手ざわりのような部分は写真で補っていきたい。
真下から見上げると、はるか上方に伸びる煙突。足場が付いてるものの、高所恐怖症気味の自分にはとても上れない。思い出すのは、飯村昭彦さんの麻布谷町「無用煙突」の写真である(『超芸術トマソン』の表紙写真)
銭湯の煙突のほとんどは、ボイラー室など建物の屋根から生えているものがほとんどだった。なので、こんな風に外から根元が見える煙突は珍しい。サビや苔の様子から相当な年季を感じる。良い
場所は変わって、こちら港区にある寿温泉。割とオーソドックスな煙突であるが、
じっくり見ると、やはり質感がすごかった
同じく港区にある扇温泉
こちらは鋼板で巻かれた金属質な煙突である。素材は違うものの、ひとつ前の煙突と佇まいがそっくりだ。距離にして1キロしか離れていないので、同じ業者が携わったというような経緯があるのかもしれない
煙を吐く煙突、吐かない煙突煙突といえば、もくもくと煙を吐くイメージがある。とはいえ、最近では煙が出やすい薪を燃やす銭湯も減ってきており、煙を巻き上げるステレオタイプな煙突はそんなに多くないようだ。
それだけに、もくもくとした煙を見つけると、思わず「おっ」と声を上げてしまう。 こちらは此花区にある豊湯で目撃した「もくもく」
かっこいい。渋い。相変わらず同じ感想しか出てこない
もう一本、生野区にある大和温泉。赤茶けた煙突から、絶え間なく黒煙が吹き出していた
薪を焚いている銭湯の場合、裏に回ると必ず薪置き場があった。当たり前だけど、作業場には薪をくべる人の姿が。場所も取るし、人手もかかる。このタイプの銭湯がどんどん少なくなっているというのも頷ける話である
一方、薪じゃない煙突からは、さほど派手に煙は出ないようだ。此花区にある千鳥温泉には、昨年末にリニューアルしたというピカピカの煙突があった。ここまで新しいのは逆に新鮮である
店の方に確認すると、重油を燃やして湯を沸かしているとのこと。こんな風にあまり煙が出てない煙突は、主に重油などの液体燃料を使っているとみていいようだ
さて、ここまで当たり前のように「煙突がある銭湯」を回っているが、もちろん「煙突がない銭湯」もある(主にガスで湯を沸かしている銭湯が該当)。統計データを出そう。
大阪市内の銭湯280店舗のうち、煙突があるのは約80%(独自調べ)
少し前まで銭湯の煙突のことなんて考えたことがなかったので、調べれば調べるほど煙突について詳しくなっていく。「頭カラッポの方が 夢詰め込める」論である。
ちなみにこんなローカルな煙突情報なんて、広いネットを探してもどこにも書かれていない。自分で開拓するしかない。 以前「灯油タンク」について調査したときもそうだったんだけど、未知の分野を自分の足で切り開いていく、その過程もたまらなく愛おしいのである。 煙突の探し方少し本筋からは逸れるけれど、煙突の探し方について少し書いておきたい。銭湯の煙突を巡るには、事前の調査が不可欠である。
大阪府公衆浴場組合によると、大阪市内にある銭湯の数は280店舗。ちなみに東京23区内はもっと多くて、約500店舗の銭湯があるらしい(2017年12月時点)。 もちろん全ての銭湯を巡って、煙突の有無を確かめてまわることもできるだろう。でも現代には「ストリートビュー」という便利なものがあるのだ。不要な手間はどんどん省いていこう。 まずは大阪府公衆浴場組合のサイトから、大阪市内にある全銭湯の位置情報を抽出する
そのデータを自作の簡単なプログラムに読み込ませて、各銭湯のストリートビューと衛星写真を一覧表示できるサイトを自動生成した。まだ煙突探しは開始していないのに、この段階ですでに煙突の姿が見えているのが分かるだろう
あとは表示されたストリートビューを見ながら、ひとつずつ煙突の有無を確認していく。いちいち銭湯の場所を調べてストリートビューを開いて……という途方もない作業が自動化されたので、比較的スムーズに全280箇所の調査が終えられた。こうした下調べによって弾き出された統計が、前ページにあるグラフなのだ。
またこの作業によって「煙突の見やすさ」も調べられた。ストリートビューでよく見える煙突は、実際に現地に行ってもよく見えるのだ。 自分の足で全箇所を巡るのが難しいときは、こういった方法もあることを知っておくと楽しく調査ができるのでオススメである。
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