【佐藤優の世界裏舞台】国政調査権を発動せよ 書き換え文書は高いレベルの幹部にまで配布か
財務省は12日、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書をめぐる疑惑について、14文書で書き換えがあったことを認めた。
財務省の説明によれば、格安で払い下げられた事実が発覚した去年2月以降に書き換えが行われた。
産経新聞は13日付の「主張」で、〈都合の悪いことを隠すため、公文書をこっそりと書き換えるのは改竄(かいざん)というべきである/国会答弁を取り繕うために不正を働き、どんどんボロが出てきた。「役所の中の役所」ともいわれる財務省の官僚が、公文書の書き換えで公正であるべき行政をねじ曲げていた。お粗末ではすまない行いである/行政内部の問題にとどまらないのは、安倍政権が国会答弁や記者会見で、事実に基づかない説明を続けてきたことである。結果として、政権そのものに対する国民の信頼を傷つけたことを、直視しなければならない〉と指摘した。その通りだと思う。
安倍昭恵首相夫人や複数の国会議員らの名前を消し、国有地売買を特例で処理することを示す文言を決裁終了後の公文書から削除した行為は、売買の判断に関わる極めて重要な事項を存在しなかったかのように偽装する工作だ。騙(だま)す意図があったことは明白だ。極めて悪質な行為だ。有権者の直接選挙で選ばれた議員によって構成される国会に提出する文書にこのような改変を行ったことは、主権者である国民に対する背信行為だ。
少なくとも3つの異常なことが起きている。
第1は、公文書を改竄するというあってはならないことが起きたことだ。
第2は、国権の最高機関である国会が財務省に「真実を明らかにせよ」と要求したのに対して嘘をついたことだ。
第3は、未(いま)だ本当に重要な情報を財務省が開示していないことだ。
今回、財務省はA4判80枚の文書を公開したが、決裁書に必ず付いているはずの決裁欄が記された表紙が欠けている。だからこの文書を誰が決裁したのかが分からない。そのコピーを誰に配布したのかも分からない。この文書に秘密指定がなされていたのか否か、なされていたならば「秘密」なのか、「極秘」なのかも分からない。極秘文書ならば、配布先のリストが残っているはずだ。
筆者は外務省に勤務していたときに、国会議員の関与した案件に関する決裁書や報告書を多数作成した。その経験に照らした場合、今回、財務省が書き換えを認めた文書は、高いレベルの幹部にまで配布されていると思う。財務省が本当に隠したいのはこの事実ではないかとみている。
財務省は本件を理財局の一部職員による「暴走」として処理しようとしているが、霞が関(官界)の相場観からして、そのようなことは絶対にない。財務省の高いレベルが、細部はともかく、書き換えについては早い段階から知っていたが、麻生太郎副総理兼財務相には伝えていなかったのだと思う。
野党はこの問題を安倍晋三政権に打撃を与えるために最大限利用している。しかし、本件を政争の具にすべきではない。
冷静に考えてみよう。安倍政権が永続することはない。官僚が政治家におもねる体質が今後も続くと、外交において国益を毀損(きそん)する事態が生じかねない。将来、北朝鮮との国交正常化で歴史に自分の名前を残すことを考える首相が出てきた場合、外務官僚が首相官邸の意向を過剰に忖度(そんたく)して、結果として金正恩政権におもねるような外交政策を取る可能性すらある。
連立与党でも、公明党幹部の発言からは、この問題が日本の民主主義の根幹を揺るがす危険性があるとの危機感が強く感じられる。本件に関しては、与党対野党という分節化ではなく、行政府による立法府軽視という視座で問題をとらえる必要がある。
国会が国政調査権を発動して超党派の第三者委員会を作り、書き換えが行われた経緯、指揮命令の実態、本件に関与した財務官僚の動機などについて徹底的に調査すべきだ。真相を解明した上で、関係者が応分の責任を取るとともに、実効性のある再発防止メカニズムを構築すべきだ。(作家・佐藤優)