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【私説・論説室から】

手薄な「住まい保障」

 東日本大震災から七年を迎えたが、なお約七万三千人が避難生活を送っている。住む場所の確保は、生活再建の前提だ。被災はあらためて生活の基盤としての住居の重要性を痛感させる。

 住まいの大切さは被災時に限らない。一月に札幌市の共同住宅「そしあるハイム」で十一人が死亡した火災では、施設が生活困窮者や高齢者の“避難所”になっていた。施設の防火態勢が問題となったが、安心して住める場所がないことこそが問題である。

 自立した生活に必要なものは、まず健康、仕事、そして住まいではないだろうか。健康を支えるために医療や介護サービスがある。次に生活の糧を得る仕事が不可欠だ。失業時やけがを負った際に生活費を得たり、ハローワークで仕事の紹介を受けたり職業訓練を受けられる制度が整っている。

 だが、住まいを保障する制度は手薄と言わざるを得ない。欧州は社会政策と位置付けて住まいを整備してきたが、日本では基本的に自助努力が求められてきた。自力で確保できない人は行き場がなくなりかねない社会だ。

 安心できる住まいは基本的人権であるという「居住福祉」の考え方がある。ならば社会保障制度がもっと居住支援を担ってもいい。政府は、高齢者の在宅生活を支える医療・介護を提供する仕組みづくりを進めるが、まず住まいがないと住み続けられない。 (鈴木 穣)

 

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