トランプ大統領を誕生させたビッグデータは、フェイスブックから不正取得されたのか
コメントする03/18/2018 by kaztaira
トランプ大統領を誕生させたと言われるデータ解析による選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ」を巡って、大きな動きがあった。
By rulenumberone2 (CC BY 2.0)
同社の元スタッフが、実名で米ニューヨーク・タイムズ、英オブザーバーに証言。研究目的と称して、フェイスブックアプリからユーザーのユーザーの友人関係や「いいね」の履歴などを取得し、選挙に流用していた、と明らかにしたのだ。
その取材の機先を制するかのように、週末に突然、フェイスブックは「ケンブリッジ・アナリティカ」や関係者のアカウント停止を公表する。
この騒動を受けて、米マサチューセッツ州の司法長官は両社に対して説明を要求。英情報コミッショナーも、個人データの違法取得・使用の可能性があるとして調査を行っていくとの声明を発表した。
●元スタッフの証言
「ケンブリッジ・アナリティカ」は、ユーザーのフェイスブックなどの行動履歴を元に、マイクロターゲティングを行うことで知られる選挙コンサルティング会社。
2013年設立で、2016年の英国のEU離脱を問う国民投票では離脱派、同年の米大統領選では、当初は共和党のテッド・クルーズ氏、のちにドナルド・トランプ氏の陣営のコンサルティングを行い、その存在がクローズアップされた。
「ケンブリッジ・アナリティカ」の設立には、トランプ氏の支援者で保守系政治運動の資金提供者として知られる米ヘッジファンド「ルネッサンス・テクノロジーズ」の共同CEOロバート・マーサー氏が1500万ドル(15億円)を提供。
さらに、トランプ陣営の選対本部長からトランプ政権の首席戦略官兼大統領上級顧問(2017年8月解任)として最側近とも言われたスティーブン・バノン氏も、同社の副社長を務めていた。
ただ、同社が解析のもとになる膨大なユーザーデータを、どのように入手していたのかについて、疑問の声が上がっていた。
米ニューヨーク・タイムズと英オブザーバーが17日、元スタッフのクリストファー・ワイル氏が、その手法について、内部資料とともに証言した、と報じた。
それらの報道によると、内部資料には、5000万人を超すフェイスブックのユーザーのデータが含まれている、という。
そして、これらユーザーデータは、ケンブリッジ大学の研究者で、「ケンブリッジ・アナリティカ」と提携関係にあったアレクサンドル・コーガン氏が開発したフェイスブック用のパーソナリティ診断アプリ「thisisyourdigitallife」を通じて取得されていた、という。
データ取得は、「学術調査」という名目で行われており、またこの際、ユーザー本人のデータだけでなく、フェイスブック上の「友達」のデータも取得していた、という。
この内部資料は、英情報コミッショナーと英国家犯罪対策庁などに提出済みだという。
●フェイスブックが機先を制する
タイムズとオブザーバーの報道が配信された前日の16日金曜日、この件を先んじて公開したのが、フェイスブック自身だった。
フェイスブックの副社長兼副法律顧問、ポール・グレイワール氏は、この件に関して、「ケンブリッジ・アナリティカ」及びその親会社「ストラテジック・コミュニケーション・ラボラトリーズ(SCL)」、さらにアプリを開発したコーガン氏と、今回証言したワイル氏のフェイスブックアカウントを停止した、と表明した。
さらに、コーガン氏のアプリを、ダウンロードしたフェイスブックユーザーは27万人だったとした。
そして、ダウンロードしたユーザーは、プロフィールに登録している所在地や「いいね」をしたコンテンツなどのデータへのアクセスを了承していた、という。また、ユーザーの「友達」のデータについても、本人が了承している範囲でアクセスが可能になっていた、と認めている。
だが、このデータを第三者である「ケンブリッジ・アナリティカ」やワイル氏に提供した点が、フェイスブックの規約に違反した、と述べている。
また、この規約違反は、すでに2015年に明らかになっており、フェイスブックはこの時点でコーガン氏のアプリを削除。「ケンブリッジ・アナリティカ」、コーガン氏、ワイル氏にユーザーデータの削除証明を求め、いずれもそれに応じた、としている。
だが今回、そのデータが実際には残っていることが明らかになったため、アカウント停止に踏み切った、と言い、さらに法的手段も検討する、としている。
●注目を集めてきた「ケンブリッジ・アナリティカ」
フェイスブックの声明で、規約違反が2015年に明らかになった、としているのは、英ガーディアンが2015年12月、当時はテッド・クルーズ陣営のコンサルティングを行っていた「ケンブリッジ・アナリティカ」の実態を報じたためだ。
それによると、ユーザーデータ取得には、アマゾンのクラウドソーシングサービス「メカニカル・ターク」が使われ、「研究目的」という名目で、アンケートに答えるとともに、アプリのダウンロードを指示されていた、という。
フェイクブックの説明通りだと、アプリをダウンロードし、データ提供をしたユーザーは27万人。ワイル氏の内部資料にある5000万人分以上のユーザーデータとは、乖離がある。
だが、2015年のガーディアンの報道によると、2014年時点で、フェイスブックのユーザーは1人当たり平均340人の「友達」がいたという。
アプリをダウンロードしたユーザー1人当たり340人分の「友達」のデータまで提供していたことになっていれば、全体で5000万人分以上という規模は、ほぼ計算が合う。
「ケンブリッジ・アナリティカ」の実態については、その後も、調査報道メディア「インターセプト」や、英国のEU離脱国民投票に焦点をあてたオブザーバー、さらにニューヨーク・タイムズなどによって、繰り返し報道されてきている。
今回のニューヨーク・タイムズ、オブザーバーの報道のインパクトは、元スタッフが、内部資料とともに実名で告発に動いた、という点だ。
報道を受けて、マサチューセッツ州の司法長官、モーラ・ヒーリー氏は17日、ツイッターでこう述べている。
マサチューセッツの住民は、フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカから直ちに説明を受ける権利がある。我々は調査を開始する。
また、英情報コミッショナーのエリザベス・デンハム氏も17日、声明を発表した。
我々は、フェイスブックのデータが違法に取得され使用された可能性がある状況について、調査を進めている。
個人データが不正に取得・使用されたり、第三者に無断で譲渡されたことが認定されれば、英国のデータ保護法違反に問われる可能性がある。
●フェイスブックのデータからわかること
フェイスブックのデータから、何がわかるのか?
コーガン氏と同じケンブリッジ大学で、フェイスブックの「いいね」をもとにした研究を先行させていたマイケル・コシンスキー氏らのチームは、2013年4月、米国科学アカデミー紀要(PNAS)でその成果を発表している。
それによると「いいね」の解析により、コーカサス系(白人)かアフリカ系(黒人)は95%、男女は93%、民主党支持か共和党支持かは85%、キリスト教徒かイスラム教徒かは82%、さらにゲイ(88%)、レズビアン(75%)も高い精度で、それぞれ特定することができた、としている。
このほかにも、精度は下がるが、、喫煙(73%)、飲酒(70%)、薬物使用(65%)、からパートナーの有無(67%)まで特定可能としている。
マザーボードによると、コシンスキー氏は、コーガン氏から協力を求められたことがあったが、その背後関係を察知し、応じなかった、としている。
データが不正な手段によって取得されたかどうか、とは別に、フェイスブックのデータからは、これだけのことが判別できる。
そして、ユーザーは日々、そんなデータをフェイスブックに提供しているのだ。
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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。