果てにたどり着いたはずが、さらに先を目指したくなる。
そんな魅力がある日本の端っこを、ランキングしてみた。
■「端の先」から旅が始まる
陸と海を隔てる岬に立ち、かつてここに立った人や遠くに望む土地、そこに住む人々を想像する。旅する人によって見える光景は少しずつ違うかもしれない。様々な景色を見せる「端」はいつも、人々をひき付ける。
内閣府は2017年から「日本の国境に行こう!!」プロジェクトを実施。島国である日本の原風景を国境の島々で探し、自然や郷土料理と併せて魅力を発信している。
外国人客を地方に呼ぶため、国土交通省は広域で周遊できる観光ルートを作るよう促す。1位の宗谷岬がある北海道稚内市は「日本のてっぺん。きた北海道ルート。」の拠点の一つになり、海外からの観光客も増えている。
「境界協会」主宰の小林政能さんは「外国人よりも日本人の方が端の魅力に気づいていない」という。最近になってようやく、ジオパークや地質、地形に関心が向き始めた。自然災害が多い国でありながら高校の必修科目から外れていた「地理」も、2022年に「地理総合」として必修化される。
観光の活性化、地理への関心の高まりで多くの人が目指す「端」。その先には海があり、異国がある。そこは旅の終わりではなく、始まりかもしれない。
雄大な北の海 最果て実感 本土最北端(北海道稚内市)
ロシアのサハリンまで約43キロメートル。天候に恵まれれば、その島影を見ることができる。一般人が行ける最北の地で、岬には樺太が島であることを発見した間宮林蔵の銅像と「日本最北端の地の碑」がある。銅像と同じ視線で海を見つめ、「まだ見ぬそこに暮らす人びとを思う」(鈴木美智子さん)。
3月上旬、吹雪のなか稚内空港から宗谷岬を目指した。最低気温はマイナス6℃。道路脇には雪が高く積もり、車線を示す紅白の矢印を道しるべに進む。海に目を向けると、ロシアが実効支配する択捉島を除く日本最北の島、弁天島が見える。たどり着いた岬は強風で体感温度が低く、ポケットから手を出した瞬間凍えるほど。サハリンは見えなかったが、雄大に広がる北の海が最果てを実感させる。
岬の後背地にある宗谷丘陵は、なだらかな稜線(りょうせん)や谷が丸みを帯び、もこもことしている。約1万年前の氷河期に形成された地形だ。「国内では特異な景観で、研究史上の価値も高い」(目代邦康さん)。冬季は通行止めだが、5~10月には丘陵の景色を楽しむフットパスのコースが楽しめる。
国境の町、稚内は「サイクリストやライダーの憧れの地」(城市奈那さん)。公開中の映画「北の桜守」のロケ地があり、4月には樺太の家をモチーフにした資料館もオープンする。
(1)一般人が行ける日本最北端(2)稚内空港から車で30分(3)http://www.welcome.wakkanai.hokkaido.jp/sightseeing/
海から昇る日の出は圧巻 関東最東端(千葉県銚子市)
「海から昇る日の出を見るには随一の岬」(井門隆夫さん)。富士山頂と離島を除き日本で最も早く初日の出が見られるため、元旦には多くの観光客でにぎわう。
太平洋に突き出した岬は「突端感が魅力」(鈴木さん)。灯台の入り口には白いポストがあり、「ここから手紙を出すと願いがかなうともいわれている」(北村武史さん)。灯台は国の登録有形文化財で、「世界灯台100選」にも選ばれている。
周辺には君ケ浜や屏風ケ浦、地球の丸く見える丘展望館がある。犬吠(いぬぼう)駅ではぬれせんべいの手焼き体験もできる。「レトロな雰囲気で人気の銚子電鉄に乗ったり、しょうゆ工場を見学したり、家族で一日楽しめる」(森順子さん)。
(1)関東最東端(2)銚子電鉄「犬吠駅」から徒歩7分(3)http://www.choshikanko.com/spot/00002.html
日本一の灯台 青い海に映える 島根半島最西端(島根県出雲市)
島根半島の断崖にそびえ、日本一の高さ44メートルを誇る灯台。「真っ青な海と大きな白い灯台のコントラストが目にまぶしい」(北村さん)
外壁は石造りだが、内壁はレンガ造りの特殊な二重構造。163段のらせん階段を上った先に待つのは「日本海の絶景」(井門さん)。島根半島や中国山地、晴れた日には隠岐諸島も望める。
灯台周辺の観光も充実。散策路には商店や飲食店があり、イカ焼きなど海の幸が楽しめる。海岸沿いには柱状の奇岩が続き、近くには「朱色の社殿が印象的な日御碕(ひのみさき)神社」(森さん)もある。
「出雲大社とセットで訪れたい」(内田正洋さん)。
(1)島根半島最西端(2)JR出雲市駅からバスで45分、出雲大社から同20分(3)http://www.izumo-kankou.gr.jp/677
80メートルの断崖から太平洋望む 四国最南端(高知県土佐清水市)
高さ80メートルの断崖から望むのは、270度にわたって広がる太平洋のパノラマ。3月中は15万本のヤブツバキも見ごろだ。足摺岬とそこからの眺めは「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で二つ星を獲得している。
土佐清水市はジョン万次郎の出身地。岬に銅像がある。アーチ状の水平線を眺めながら「万次郎のように新しいことに挑戦しよう!とすがすがしい気持ちになれる」(北村さん)。4月にはジョン万次郎資料館が再オープン。プロジェクションマッピングなどで若い世代も呼び込む。
周辺には足湯があり「旅の疲れを癒やせる」(森さん)。
(1)四国最南端(2)土佐くろしお鉄道中村駅からバスで90分(3)http://www.shimizu-kankou.com/
「風速10メートル超え」岬の先で体感 日高山脈最南端(北海道えりも町)
山や建物に遮られず、太陽が海から昇って海へと沈む光景が見られる。岬の延長上に2キロ続く岩礁は「恐竜の尻尾のよう」(中尾隆之さん)。岩礁地帯には野生のゼニガタアザラシが約600頭生息しており、望遠鏡を使えば日なたぼっこをしている姿が見られることも。カヤックツアーで近づくこともできる。
「日本屈指の強風地帯」(小出憲博さん)で、歩くのに抵抗を感じる風速10メートル以上の風が年間260日以上吹く。観光施設「風の館」では風速25メートルを体験できる。岬の先端に立つ灯台は1889年の点灯以来129年間、海の難所を航行する船を見守っている。
(1)日高山脈最南端(2)JR様似駅からバスで55分(3)http://www.town.erimo.lg.jp/kankou/
のんびり一周 ちいさな島 日本最西端(沖縄県)
西崎は日本で最も遅く夕日が見られる場所。日本の東西南北端で唯一誰でも訪れることができ「日本最西端の地」の碑で記念撮影もできる。
台湾まで111キロの距離にあり、晴れた日にはその島影が見えることも。与那国島は「ぐるっと回るのに適した規模で、のんびりめぐるのにオススメ」(鈴木さん)。
「ダイビングも人気で、ハンマーヘッドシャークの遭遇率が高い」(城市さん)。神殿のような地形をした海底遺跡も見られる。与那国町によると、12月から3月にかけての寒い時期がシーズンで、海外から訪れる人も増えているという。
(1)日本最西端(2)与那国空港から車で15分(3)http://welcome-yonaguni.jp/guide/426/
50キロ先の韓国 身近な存在 対馬北端(長崎県)
韓国までわずか約50キロ。釜山の街並みが肉眼で見え「夜景は特に美しい」(北村さん)。展望所は韓国の古代建築様式を取り入れて造られた。入り口は韓国の国際ターミナル、建物はソウルのパゴダ公園の施設をモチーフにしている。
「目の前に自衛隊のレーダー施設があり、国境であることを実感できる」(井門さん)。対馬観光物産協会によると「戦前は対馬に住む人が釜山の病院に行ったり買い物に行ったりと日常的に往来があった」。海に引かれた国境線が交流を難しくしたものの、韓国からは多くの観光客が訪れている。
(1)対馬北端の展望所(2)対馬空港からバスで2時間(3)http://www.tsushima-net.org/tourism/sight_03.php
星好きにおすすめ 静かな島 最南端の有人島(沖縄県竹富町)
「ギザギザの海岸線に荒波が打ちつけるさまは一瞬ひるむほどの迫力」(西尚子さん)。断崖絶壁の高那崎は、ダイナミックな波しぶきの撮影スポット。88の星座のうち84が見られるなど日本で最も多くの星が見え、「星好きにおすすめ」(北村さん)。近くに星空観測タワーもある。
「果てのウルマ(サンゴ礁)」が語源ともいう島の海は青く透き通った「ハテルマブルー」。海岸を「自転車で目指すと最高」(井門さん)。石垣島から離れているため団体客は少なく、ゆっくり楽しめる。
(1)日本最南端の有人島(2)波照間港から車で15分(3)http://www.painusima.com/haterumajima
夜景◎「デート向けの端」 九州最北端の港(北九州市)
地上103メートル、ガラス張りの開放的な空間から関門海峡や日本海を望む。建築家、黒川紀章設計の高層マンションの最上階にある。「オレンジの街灯に照らされた街を眺めればロマンチックな気分に浸れる」(北村さん)。併設のカフェからも夜景が楽しめる。駅から徒歩5分の好立地で「デート向けの端」(小林政能さん)。
門司港は1889年に開港。戦時中は軍港だった。「連合国軍の捕虜をかこったため爆弾が落ちず、趣のある戦前の建物が残った」(B&A門司港)という。
(1)九州最北端の港(2)JR門司港駅から徒歩5分(3)http://www.kanmon-mojiko.com/history/
「朝日も夕日も」欲張りな端 渥美半島の先端(愛知県田原市)
伊勢湾に面した伊良湖岬は「朝日も夕日も美しい」(野口毅さん)という欲張りな端っこ。名古屋港に出入りする大型船や、三島由紀夫の「潮騒」の舞台となった神島を眺められる。
伊良湖岬灯台から約1キロほどの白い砂浜「恋路ケ浜」はプロポーズにふさわしい場所として恋人の聖地に認定されている。「散策もでき、家族で過ごすのもおすすめ」(城市さん)
伊良湖港からは三重県の鳥羽港に向かうフェリーが出ている。「お伊勢参りとセットにするのもツウ」(西さん)。
(1)渥美半島先端(2)豊橋駅からバスで105分(3)http://www.taharakankou.gr.jp/spot/000008.html
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ランキングの見方 数字は選者の評価を点数化。名称(所在地)。(1)どこの端か(2)交通(3)情報サイト。写真は1位小山隆史、2位瀬口蔵弘撮影。3位野口毅、4位土佐清水市観光協会、5位えりも町産業振興課、6位西崎は与那国町役場、韓国展望所は対馬観光物産協会、8位竹富町観光協会、9位B&A門司港、10位渥美半島観光ビューロー提供。
調査の方法 専門家への取材を基に、「○○の端」をうたい、一般人が行ける観光地を24カ所選出。景色やアクセスの良さ、地理的・歴史的魅力などの観点で1~10位まで順位をつけてもらい、集計した。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。
▽井門隆夫(高崎経済大学地域政策学部准教授)▽内田正洋(海洋ジャーナリスト)▽北村武史(日本旅行総研研究員)▽小出憲博(燈光会総務部長)▽小林政能(「境界協会」主宰)▽城市奈那(観光Reデザイン編集部)▽鈴木美智子(ジオガシ旅行団)▽中尾隆之(旅行作家)▽西尚子(じゃらんムックシリーズ編集長)▽野口毅(写真家)▽目代邦康(日本ジオサービス代表取締役)▽森順子(地理女net代表)
[NIKKEIプラス1 2018年3月17日付]
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