漫画海賊版は格好悪い サイト問題「最大の被害者は読者」弁護士に法的問題を聞く
インターネット上で無断で公開されている漫画が読める「海賊版サイト」の存在が問題化している。
海外にサーバーがあることや、「リーチサイト」と呼ばれるサイトの構造が法的に“灰色”であることが、事態を複雑にしている。海賊版サイトをめぐる諸問題を、著作権法に詳しい弁護士の福井健策さんに聞いた。
リーチサイト
漫画の海賊版サイトは主に、
(1)リーディングサイト
(2)リーチサイト
の2種類にわけられる。
(1)は、事業者が自らのサイト上に無断で複写した漫画のデジタルデータ(海賊版)を置く。海賊版をネットで公開する行為は、著作権法違反(複製、公衆送信)に当たる。損害賠償請求などの民事責任に加え、刑事責任も問われる可能性がある行為とされる。
これに対して(2)は、第三者が運営する海賊版をため込んであるサイトへのリンクを張って誘導するサイトを指す。国内には200以上あるとみられている。海賊版をネット上に送信したのは別の何者かであり、自分はただリンクを張っているだけだから、著作権を侵害してはいない-。これが、リーチサイト運営者らの言い分だ。
民間での対応は限界
海賊版サイトを訴えるには、多くの“壁”が存在する。まず、これらは旧共産圏など海外のサービスを使っている場合が多く、運営者の特定が難しい。特定できても、運営は海外で行っているからと、日本からの削除要請などには応じない姿勢を見せるという。
リーチサイトの場合は直接海賊版をため込んではいないこともあり、これまで摘発が難しかった。「従来の説ではリンクそのものは違法ではない」と福井弁護士。他サイトの海賊版を紹介する行為を、「違法」と言い切る法的根拠はなかったのだ。
出版社は削除依頼などの対応を随時行っているが、なしのつぶてだという。民間での対応は限界に近づいており、福井弁護士は、著作権法の改正などを視野に入れた「法的措置」はやむなしと考えている。
「リーチサイトがなければ、多くのユーザーは海賊版にはたどり着かない。悪質なリーチサイトをきちんと定義し、規制をかける必要があります」
さらに追及を逃れる海外の海賊版サイトへの対策としては、「サイトブロッキング」を挙げる。読者の大半が日本人なので、日本からアクセスできなくするのだ。
「本来、最後の手段というべき手ですが、欧州などでは、海外の海賊版サイトに対して40カ国以上で導入され、一定の成果があるようです」
ただ、福井弁護士は法規制と並んで、「海賊版=格好悪いという文化」の醸成こそ鍵だと訴える。
「誰も見なければ、どんな海賊版サイトも滅びます。出版社側の営業努力や法規制とともに、海賊版を使うのはイケていない、という流れを育てることが大事です」
「有料化」を宣言するサイトまで
ここへきて従来とは“異次元”といえるほどの規模の海賊版サイトが、存在感を高めている。数万点という漫画を高画質・無料で読ませ、月間の訪問者数(延べ)は億を超えるとされる。このサイトは3月に入り「有料化」を打ち出し、海賊版ビジネスを広げると宣言した。
「このサイトは、『漫画家さんが無料で広告してくれた』と挑発的な記載をするなど、一部海賊版サイトに見られる“きれい事の言い訳”もありません。むしろ、既存の漫画ビジネスに対する何らかの破壊衝動があるのではないか、とすら感じるほどです」
また、同サイトには「(日本の著作権法が適用されず)違法ではない」という説明がある。福井弁護士は、「日本の漫画ばかりを日本語のサイトで提供し、読者もほぼ日本からのアクセスである以上、“侵害の結果”は日本で発生しており、日本の法律(著作権法)は適用されるでしょう」との見解を示す。
また、「『画像の保管元とは一切関係ない』と弁解していますが、到底そうは見えない。違法な海賊版をことさら配信している当事者であれば、著作権侵害の責任は免れません」とも。
コンテンツビジネス全般に対する脅威
福井弁護士は、海賊版サイトは漫画のみならず、映画やアニメなど全てのコンテンツビジネスに対する脅威と指摘する。
そして、最大の被害者は「読者(利用者)」だと強調する。
「コンテンツによる正常なビジネスモデルが成立しなくなれば、新たにプロのクリエイターになろうとする人は減少するでしょう。漫画なら、描き方や編集、校閲といったノウハウが霧散するかもしれない。すると、読者は面白い漫画を読めなくなる危険性があります。海賊版の最大の被害者は、実は読者自身なのです」(文化部 本間英士)
福井健策 ふくい・けんさく。弁護士。1965年、熊本県生まれ。東京大法学部卒、米コロンビア大修士課程修了。93年、弁護士登録。「骨董(こっとう)通り法律事務所」の代表パートナーや、日大芸術学部客員教授などを兼任。主な著書に「『ネットの自由』vs.著作権」「18歳の著作権入門」など。