- 真鍋大度:テクノロジー×アートの遙かなる行方
- [2018.03.15]
ドローンやAR(拡張現実)などの最先端技術を駆使した表現で、世界的注目を集めるライゾマティクス・リサーチ。代表の真鍋大度が放つ非凡なる創造性はどこを目指すのか。リオ五輪の“あの眺め”を糸口に、その行方を追う。
真鍋 大度MANABE Daitoメディアアーティスト、プログラマー、DJ。ライゾマティクス取締役、ライゾマティクス・リサーチ代表。1976年、東京都生まれ。東京理科大学、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)を卒業後、2006年にライゾマティクスを共同設立。15年より、同社のクリエイション&テクノロジー開発チームであるライゾマティクス・リサーチを共同主宰。身体やプログラミング、データが持つ魅力に着目して作品を制作し、国内外で受賞多数。
真鍋大度:http://www.daito.ws/ ライゾマティクス:https://rhizomatiks.com/
身体×技術の実装で導く、心を動かすアートの地平
加熱する注目度とともに、真鍋大度とライゾマティクスの名は、“世界に誇るべき日本の先端テクノロジー表現の象徴”として祭り上げられることになった。しかし真鍋自身はそうした風潮に、少なからず違和感を覚えているという。
「日本の状況が進んでいるかというと、決してそんなことはない。表現的にも冒険をしたがらず、予算的にも制約のある日本と比べ、今僕らにとってゲリラ的な表現を思い切り試すことができるのが、中国です。基本的に過去の作品を模倣されるのは当たり前で、時には『真似をしてもどうしても再現できなかった。ぜひ一緒に仕事をさせてほしい』というオファーが来ることも(笑)。でも、新しい表現に懸けるエネルギーやスピード感には、日本の比にならないものがありますね。一方で、欧米のグローバル企業の中には数百人規模でこうした表現に力を注いでいるところもある。この状況には、相当な危機感を覚えます」
新たな技術が次々と生まれては陳腐化していく一方で、その技術を駆使した「デジタルアート」を標榜(ぼう)する勢力が続々と現れ、全世界的に競争が激しさを増す状況。その中で真に革新的な作品を発信し続ける真鍋の原動力とは何だろうか。
「人を感動させるものを作り出したい、という気持ちでしょうか。でも、それは相当に難しいことです。僕たちが求めるアート表現は、技術のデモンストレーションとは根本的に違うものだから。研究者が作るデモはスペックだけを説明できればいいけれど、メディアアートの場合はそれをいかにして表現として成立させるかを考えなければならない。そこが根本的な違いです。さらに言えば、必ずしも技術的に難しいことをやる必要すらない場合もあります。例えば『フェード・アウト』(2010年)は、オークションサイトで入手したレーザーを使って数万円で制作した作品ですが、アイデアは至ってシンプルなもの。実はこういう作品が一番難しいですね。誰もできないことよりも、誰も思いつかないもののほうがはるかに難しいと、日々痛感しています」
真鍋大度+石橋素『405nm laser fade out test 2』(2010年)。蓄光塗料が塗られたスクリーンにレーザーを照射。時間の経過とともに塗料の明るさが低下する性質を生かして照射の順番を調整し、濃淡のある絵を描き出した作品(動画提供:ライゾマティクス・リサーチ)
そう語る真鍋だが、ついに“究極のゲリラ的アート”と呼ぶべき実験が進んでいるという。かねてからデジタル技術の揺り戻しとして生身の身体性に着目し、自らその可能性を体感するべくダンスレッスンに励んできた彼の次なるビジョンとは、果たしてどんなものなのだろうか。
「僕自身、念願だった自分の脳に電気を流す実験に着手したところです。TMS(Transcranial Magnetic Stimulation/経頭蓋磁気刺激)という技術を使い、大学病院の医師の協力を得て、まずは大脳新皮質の言語野を止めてみたら会話などにどんな影響が現れるかを試してみています。いずれは脳内に電子チップを埋め込みたいと思いますが、その結果、面白いことができるかどうかは、やってみないとわかりません(笑)。そうやってただひたすらに研究と実験を重ねて、技術が進歩しても古びることなく新鮮さを失わない作品を、もっともっと作り出していきたいと思っています」
取材・文=深沢 慶太
写真=大河内 禎