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真鍋大度:テクノロジー×アートの遙かなる行方
[2018.03.15]

ドローンやAR(拡張現実)などの最先端技術を駆使した表現で、世界的注目を集めるライゾマティクス・リサーチ。代表の真鍋大度が放つ非凡なる創造性はどこを目指すのか。リオ五輪の“あの眺め”を糸口に、その行方を追う。

真鍋 大度

真鍋 大度MANABE Daitoメディアアーティスト、プログラマー、DJ。ライゾマティクス取締役、ライゾマティクス・リサーチ代表。1976年、東京都生まれ。東京理科大学、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)を卒業後、2006年にライゾマティクスを共同設立。15年より、同社のクリエイション&テクノロジー開発チームであるライゾマティクス・リサーチを共同主宰。身体やプログラミング、データが持つ魅力に着目して作品を制作し、国内外で受賞多数。
真鍋大度:http://www.daito.ws/ ライゾマティクス:https://rhizomatiks.com/

日本を代表するテクノロジー×クリエイティブの精鋭集団

それは、2016年8月のリオデジャネイロ五輪閉会式における、東京2020大会のフラッグハンドオーバーセレモニーでのことだった。人気ゲームのキャラクターに扮(ふん)した安倍晋三首相のサプライズ登場に続いてテレビ画面に映し出されたのは、それまで生中継されていた現実のスタジアムの映像と、東京で実施予定の競技33種目のCGが融合した、見たことのない眺めだった——。

リオデジャネイロ五輪閉会式での東京2020⼤会フラッグハンドオーバーセレモニーにおける、AR(拡張現実)演出の様子。実際のスタジアムの中継画像と、CGで描かれた33種目の競技をリアルタイムで融合させた(画像提供:ライゾマティクス・リサーチ)

このAR(拡張現実)技術などによる演出の中心を担ったのが、日本を代表するテクノロジー×クリエイティブの精鋭集団「ライゾマティクス・リサーチ」と、その代表を務める真鍋大度だ。

真鍋は、ソフトウェアのプログラミングからハードウェア構築、UI(ユーザーインターフェイス)などのデザイン、アーティスティックな演出までのすべてを手がける“フルスタック集団”として知られる「ライゾマティクス」を06年に共同で設立。現在は同社の研究開発部門であるライゾマティクス・リサーチを率いる。

アイスランド人シンガーのビョークによるパフォーマンスを世界初のリアルタイム360度VR(仮想現実)映像でストリーミング配信したり、レーザーやドローンを駆使して日本の3人組テクノポップユニットPerfumeのライブ演出を手がけたりと、その仕事はエンターテインメント領域にも及んでいる。個人名義でも作品を発表し、世界各地のメディアアートフェスティバルや広告祭で大賞を受賞するなど、多面的な活動の全貌を一言で表現するのは難しい。

「アートとエンターテインメントの仕事をどう区別しているのかとよく聞かれますが、個人のアート活動でなければできないこともありますし、逆に企業や公共機関のプロジェクトだからこそ実現できることもある。さらに、今はアートのプロジェクトとして進めているものでも、技術の発展に伴い、5年後、10年後には世の中で当たり前のものになっている可能性すらある。タッチパネルのゲームなどはまさにその象徴です。つまりメディアアートの宿命として、単に“技術的に新しい”だけの表現はすぐに消費され、陳腐化してしまうということですね」

アートの実験性×エンタメのスケールで新境地を開く

この発言の背景にあるのは、ビッグデータやIoT(Internet of Things/モノのインターネット)、AI(人工知能)などにおける、デジタル技術の目覚ましいばかりの進展だ。そして彼自身もまた、こうした技術の恩恵にあずかってきた。例えば、真鍋が一躍脚光を浴びるきっかけとなった作品『electric stimulus to face』(08年)は、顔に医療用の電極を貼り付け、電気刺激によって顔の筋肉を動かすというもの。その様子を動画共有サイトYouTubeに公開したことが、彼にとって大きな転機になったという。


真鍋大度『electric stimulus to face』(2008年)(動画提供:ライゾマティクス・リサーチ)

「プログラミングを使った表現を始めたのは岐阜県のIAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)に在学中のことですが、当時はこうした表現が多くの人の目に触れる発表の場自体がほとんどなかった。展示にしても、映像のDVDを作って手渡ししても、見てくれる人は極めて限られていましたから。その点、YouTubeの影響は大きかった。試しにあの作品を投稿してみたところ、瞬く間に世界的な話題になってしまったのです。それをきっかけに、海外からの仕事やコラボレーションのオファーが増えていきました」

そう語る真鍋だが、アート作品を制作する目的は「新しい技術が持つ可能性と危険性の両面に着目し、世の中に向けていち早く問題提起をするため」であって、新たなビジネス領域を開拓するためではないという。そうしたスタンスと、今や彼らの代名詞となったエンターテインメント領域とを結び付けたものとは、一体何だったのだろうか。

「きっかけとなったのは、04年から09年ごろにかけて、映像や音響、コンテンポラリーダンスのパフォーマンスを組み合わせた作品で知られるダムタイプのステージを手伝っていたこと。そこへ演出家・振付家のMIKIKOさんが訪れて、『Perfumeの次の公演で、テクノロジーを取り入れた演出をやってみたい』という相談を受けたのが、すべての始まりでした」

2015年3月17日、米テキサス州オースティンで開催されたイベントSXSW(South by Southwest)におけるPerfumeのパフォーマンス(©Amuse Inc.)

その出会いが実を結んだのが、Perfumeの東京ドーム公演(2010年)。会場に浮かぶ光る風船をレーザーで割り、工業用カメラでメンバーの姿を3Dスキャンした映像が映し出されるなど、数々の斬新な演出が会場のファンのみならず、クリエイターたちの間でも大きな話題を呼んだのだった。

「新しい技術を使う以上、何もかも前例がないことばかり。確実かつ安全に行えることを実験などで繰り返し実証し、2年以上かかってようやく実現しました。いくらプレゼンをしても通らなかったのに、一度前例を作れば後は任せてもらえるようになって、それが大きなステージの仕事へつながっていきました」

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