今年の花見にはぜひタイめしを 週末レシピ、今週はタイめし。高級料亭でおなじみのアレである。だが今回作るのは、材料ふたつ、手順もふたつ、炊飯器で炊くだけ、とめちゃくちゃ簡単なくせに、その味は「私、やればできる子だったの?」と涙で前が見えなくなること必至の極上品。しかもスーパーで買える材料だけで作れ、うまい安い簡単のいいことずくめだ。
世間では早ければ今週末にも、春のトンチキ騒ぎ「花見」が始まることだろう。もしあなたの花見が「それぞれが酒と食べ物を持ち寄る」タイプだったら、ぜひこのタイめしをお持ちいただくといい。「自作のタイめしを持ってきたスゴイ人」として人々の記憶に残ることだろう。もしかするとタイめしから始まる恋があるやもしれぬ。少なくとも人としての株は上がること間違いなしだ。
まずは最も簡単なタイプから紹介する。初めてならここからチャレンジしてみよう。次に「オレはもうちょっとできる子」という自負がある人向けに、より自分好みにカスタマイズするための、アレンジ技も紹介する。さらに盛り付けのバリエーションや、花見弁当にするときのちょっとしたコツもご紹介したい。では、始めよう。
■最も簡単なタイめし
最も簡単なタイめしの材料【材料(約3人前)】
コメ 2合 / タイの切り身(できれば中骨つきのもの) 2切れ / 塩 小さじ2分の1+小さじ2分の1 / 好みでミツバ、桜の花の塩漬けなど
【手順】
(1)タイを焼く
(2)コメと一緒に炊き込む
タイめしには数多くのレシピがあるが、これは最もシンプルなもの。材料はコメとタイだけ、味つけは塩だけである。
コメはいつも炊くのと同じように準備しておく。つまり、水が濁らなくなるまでしっかり研ぎたい人、研いだあとザルにあげておく人、水につけて浸水させる人、浸水は30分の人、いやいや1時間は浸水させたい人、それぞれの流儀に従って準備する。ちなみに私の流儀は「浸水とかしてみたいけどいつもバタバタ時間がないためわーーーっと手短に研いで早炊きボタン一択」という落ち着きのないものだが、それでもタイめしはおいしかった。安心して自分の流儀を貫いてほしい。
準備ができたら好みの水加減にし、小さじ2分の1の塩を加え、そっと混ぜて溶かしておく。これはやや薄味なので、冷めてから食べる場合はもうふたつまみくらい塩を入れてもいい。
切り身の両面に塩を振る タイの切り身は、できれば中骨つきのものを選びたい。店によっても違うが、タイなどは2枚おろしにした身を切り分け「中骨つき」「中骨なし」の両方が同じ値段で売られていることは珍しくない。対面販売なら「中骨つきを」とお願いする。パックに入っていたら、持ち上げてよく見てみる。身だけでも十分おいしいが、骨が入るとよりガツンと気合の入った味になる……ような気がする。うん、プラシーボ大事。ぜひ骨つきを探していただきたい。
また、よく売れている店で買うことも大事だ。魚は水分が多いため劣化が早く、すぐにおいが出てくる。魚介類を好まない人の多くは「くさい」と思っているというデータを見たことがあるが、さもありなんである。よく売れていて回転のいい店で買うのは、危険を回避する最も大事な方法だ。買った魚の鮮度に自信がなかったら、水で一度さっと洗うといい。いずれにせよ、料理する前には水気と血などが残らないように、ペーパータオルできちんと拭いておく。
せっかく作った魚料理をがっかりさせるナンバーワンは、なんといっても「ウロコが残っていた」ではないだろうか。あえてウロコを食べる料理は別として、予想外のウロコの食感の悪さは、食事全体を台無しにする。特にタイのウロコは大きくて硬いため、念入りに切り身を検分してほしい。見て、触って、よしOKとなったら小さじ2分の1の塩を全体にまぶす。
焼けた切り身を炊飯器の中へ タイはそのまま炊き込むレシピもあるが、今回は一度表面をさっと焼いてから炊く方式にした。その方が、タイの程度がイマイチだった場合でもおいしくなるからだ。中まで火を通すのではなく、表面だけ軽く焼き色がつけばよし。魚焼きグリルでも、オーブントースターでも、フライパンでもいいので強火でさっと焼く。焼き色がついたら炊飯器にドボン。あとはいつもと同じように炊くだけである。土鍋で炊く人も手順は同じだ。
切り身だけを取り出して骨を取る 炊き上がったら、タイの切り身だけを取り出して皿にとる。タイはウロコも硬いが、骨も硬い。ご飯に混ぜ込む前に、ここでしっかり骨抜きにしておこう。まずは大きな中骨をはずす。中骨についた身は最もおいしいところなので、慎重に身だけを取り除く。腹骨など大きめな骨はわかりやすいが、身の中に入り込んでいる骨が必ず3本ずつくらいあるので、こちらもお忘れなく。キレイに取り除けたらご飯に戻し、よく混ぜ合わせて出来上がり。
刻みミツバ、桜の花の塩漬け(塩抜きしたもの)などを飾ると春らしく、美しい。
シンプルなタイめしは以上だ。ではこれを自分好みにカスタマイズするための、アレンジ技をご紹介しよう。
花見弁当にタイめしを タイめしは、塩味ではなくしょうゆ味も合う。コメを研いだら1合につき大さじ1のしょうゆを加えてから、水加減する。この場合、切り身は塩をしないで素焼き。酒やみりんを加えると柔らかい味になる。タイの白身を引き立てるため、できれば薄口しょうゆの方が美しいが、なければ濃口でも構わない。私は濃口どころか「たまり」でも使ってるんじゃないかというくらい、黒光りするタイめしに出合ったこともある。要はタイとコメが合わさればタイめしなのだ。
水ではなくだしで炊くのもおいしい。昆布やカツオ節でとっただしを水の代わりにする方法もあるし、もっと簡単に昆布を1枚ポンと炊飯器に放り込むだけでもいい。多めにだしを取っておけば、おかわりはタイめし茶漬けにもできる。
タイの身を混ぜ込むのではなく、ご飯の上に乗せるやり方もある。この場合は皮は取った方がキレイだ。そして身はざっくりではなく細かくほぐすとなお美しい。上等なお店では、タイのアラや骨でとっただしでご飯を炊き、身は別にそぼろにしたりする。腕に覚えがある人はチャレンジしてみるといいだろう。
淡泊な滋味を味わうものなので、口が飽きることもあるかもしれない。そんなとき味変として、塩昆布、ゴマ油、ゆずこしょう、七味、ブラックペッパーなどを振りかけてみるのも一興だ。先日はソマーグというイラン料理に使うスパイスミックスを振ってみたら「どこの料理かわからない、けどおいしい!」というものが出来上がった。塩味だけなので、応用は無限だ。オムライスにしたってきっと合うだろう。
大きめの杉折に入れて見栄えよく 最後にお花見に持ち込む際の注意を。食べる場所がだれかの家であるなら、見た目のインパクトも考えお重いっぱいにタイめしを詰めると迫力がある。パッケージ屋で大きめの杉折を買ってきて使ってもいいだろう。ドーンと大きな春をお見せするのだ。取り分け用の小さなシャモジを添えればなお気が利いている。
屋外で食べる場合は、これではすぐコメが乾いてしまう。なので外へ持ち出すときは、ラップで小さな手まり状に握っていくといい。食べやすいし、分けやすい。持ち帰るのにも便利である。小さめの小鉢や湯のみにラップを敷いてご飯を入れる。ラップの上からギュッギュッと丸く握ればOK。表から見える面に色合いのキレイなものをあしらうとかっこいい。
外に持ち出すなら手まり状に握っていくといい 一人暮らしを始めて間もない頃、父親がアパートにやってきたことがあった。私は十代とは思えないような大人っぽい料理を出してうるさい父の鼻を明かそうと、小さなタイを買ってきて「ちり蒸し」を作ることにした。ふわりと蒸された白身魚、おいしいポン酢、それで日本酒でも飲ませれば、必ずかの邪知暴虐の父も私を褒めるだろうと思ったのだ。ところが蒸した皿を取り出す最後で失敗し、結構な勢いでタイを鍋の中にぶちまけてしまった。身はボロボロの粉々、もはや魚としての体をなしていない。絶望と慟哭の中もうどうにでもなれと、食べられるところを救出してご飯と混ぜ「はい、今日の晩ごはん」と、ヤケクソで父の前に出した。大声も出したし、なんとなく事の経緯は察したのだろう。パクパクと平らげながら、こちらも見ずに言ったのだ。
「ぜいたくなタイめしだな。うまい」
なので私のタイめしは、タイを蒸して使うのである……で終わればいい話だったのだが、残念である。タイは焼いてほしい。香ばしさも味のうちだ。
(食ライター じろまるいずみ)
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