共働き家庭が全世帯の6割を超える日本。仕事をしながら毎朝毎晩、献立を考え料理するのは「一汁三菜」「栄養バランス」と言い出せば、なかなかの重労働だ。Business Insider Japanの、保活をめぐる葛藤の記事に登場した、共働きの妻に毎晩、おかず3品以上を求める夫のくだりに話題が集中したが、2018年の共働き家庭はどんな食卓を囲んでいるのか。
共働き家庭は、おかずを何品作っているのか。写真は、家事代行サービス「タスカジ」さんの2週間分の作り置き。
提供:取材協力者
そっと一品ずつおかず減らす
「旅館の朝食のような朝ごはんを、彼が望んでいると結婚して初めて知って、がく然としました」
東京都在住でメーカー勤務の理香さん(28、仮名)は、半年前に同い年の男性と結婚した。その夫の食べてきた朝ごはんがどうやら、
- ご飯
- 味噌汁
- 魚
- 卵焼き
- おひたしなど野菜料理何品か
- 納豆
といった、絵に描いたような“日本の和食”ラインナップなのだ。
フルタイムで働く両親の元に生まれた夫は、結婚までおばあちゃんが食事の世話をしていたという。その結果、炊飯ジャーのスイッチも入れないようなタイプだ。自分でやるという発想がないらしい。
夫が望む高級旅館のような朝食は、フルタイム共働きの理香さんには重労働だった。
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「最初のうちは、がんばって作っていたから、朝から30〜40分かかりました」
品数が多いので、洗い物も多い。週末には作り置きおかずも用意して、品数を増やした。
「お互い仕事に行くのに、毎朝、これは無理」
子どもが生まれたりすれば、その先が思いやられる。理香さんは考えた末に行動に出た。
「毎日、そっと一品ずつおかずを減らして、ご飯と納豆、味噌汁で落ち着きました」
夫には、味噌汁の作り方を教えた。冷蔵庫に、週末に野菜や具を切って入れておく。
「食べたかったらそこから出して、作ってね」
もともとこだわりはないので、夫は自分でやるようになった。
夫は、何から何まで手作りしてくれるおばあちゃんと、働く母の双方を見て育っている。
「やり方さえ伝えれば、実はやってくれる。そういえば、頑張って作ってしまった日ほど、どこまで(朝ごはんの)恩を着せるんだ?ってくらい、夫に対して苛立ちを抱いてしまうんですよね」
「丼物禁止、おかずは3品」
1歳の息子がいる都内在住の医療系会社に勤務の可奈さん(37、仮名)の夫(45)は、「丼物禁止」だ。夫の母親は薬剤師の資格をもつ専業主婦。食事の栄養バランスに、細かく気を使う家庭に育っている。
「丼物や一品料理は炭水化物が多めになるので栄養が偏ることと、何より手抜きっぽいイメージがあるみたいです」
晩酌もするので、丼物はアテにならないというのも大きいようだ。おかずは3品以上が夫の希望。
「献立を考えるのが、はっきり言ってしんどい。夫は料理をしないので、作る人の大変さがわかっていない」と、思う。
昭和の専業主婦の家事を基準に「こうあるべき」とするパートナーの思い込みは、正直、きつい。
夫の帰宅はいつも遅い
6歳の息子がいる都内の人事コンサルタント、ゆり子さん(43、仮名)の夫(48)は、炭水化物抜きダイエット中。
炭水化物抜きダイエットの夫のためのおかず。食後にたっぷりおやつを食べるのが気になっている。
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米やパスタで量を増やせないので、おかずは3品以上作ることになる。
「作る量について、いつも『多い、多い』と文句を言うのですが、そのわりに全部食べて、そのあとおやつもたっぷり食べるのが、イラッときます。全然炭水化物抜きになってないだろう、と」
そう突っ込むみつつも、「家族らしいことと言えば朝と夜に同じものを食べることくらい」と思えば、それほど苦ではないという。
結婚して10数年、自分が平日の夕食を担当している。夫の帰りはいつも遅く、食べる時間も別々だからだ。
作ってあげなくてはという呪い
共働きが増えても、食事は母親の手作り至上主義の根強い日本。実際、取材でも、作り手は女性のケースがほとんどだ。この「作らなければ」の思い込みはどこから来るのか?
「仕事して家事して、子育てもしてなんて、無理ですよ。もっと手を抜いた方がいい。何品もおかずを作るのは楽しければいいですが、『作ってあげなくてはいけない』という呪いにかかっている人もいます」
そう話すのは、料理やライフスタイルを扱う雑誌『レタスクラブ』の松田紀子編集長だ。
2016年に編集長に就任後、レタスクラブはコンセプトを「考えない、悩まない。あなたの生活をもっとラクに、楽しく!」に変えた。
「現代は冷凍食品もとてもおいしいですし、レトルトや料理の素もすごくいいものが開発されています。こうしたものも紙面でどんどん紹介して、読者に(使うことについて)罪悪感を持たせないようにしています」
老舗主婦向け雑誌のイメージを刷新し、雑誌の売れない時代に完売号を連発した。男性の読者もいる。
「必死に作っても、大変過ぎて笑顔でいられなかったら、元も子もないです。完璧な家事がなされている家よりも、少し抜けてるくらいが落ち着ける家になるのではないでしょうか」
夫のいない日は、具沢山ラーメン。お気に入りは、東洋水産「マルちゃん正麺」という。
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「納豆ご飯でいい」割り切れるとラク
手作りやおかずの品数にこだわると料理は苦しい。「うちはこれでいい」と割り切るにはどうすればいいのだろうか。
「食事は大人が食べたいモノを優先します。子どもは大人が食べているのを見ながら、ほしかったらつまませる程度。娘は納豆が好きなので、納豆ご飯を食べていたら安心かなと」
あっけらかんと話す咲さん(34、仮名)は、夫(33)と5歳の娘と3人暮らし。2人目がお腹にいる。
大人にしても「具だくさんの鍋や汁ものばかり食べています。主人がいない夕飯は、インスタントラーメンになりがち。大量に肉や野菜を投入して、具だくさんにしています」
もともと料理好きなので「できればいろいろ食べてほしい」と、品数を作っていた。だが、娘は偏食気味でほとんど食べようとしない。だったら「本人が大満足していて、大人も子どももストレスたまらない納豆ご飯生活が、一番みんなハッピー」と、割り切った。
「全く罪悪感はありません」
タスカジさんメニューのある日の夕食。息子とゆっくり食べる。
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メーカーで営業企画を担当している絵美里さん(31、仮名)は、一切、料理を作らないことにしている。
会社員の夫(32)は、結婚以来、ベトナムに単身赴任中。4歳の息子との食卓には、野菜たっぷりの体に優しいおかずが並ぶ。
おかずを作ってくれるのは、家事代行サービスのマッチングサイト「タスカジ」を通じて頼んだ40代の女性だ。2週間分を買い物も含めて頼んで、作り置きしてもらう。
2000〜3000円で、驚くほどたくさんの種類が出来上がる。頼む相手によって価格は違うが、絵美里さんが頼むタスカジさんは、1時間あたり2300円。1回にかかる時間は3時間程度だ。
毎日、午後6時半に仕事を終えて、子どもを迎えに行くのは保育園の閉園時刻ギリギリの午後7時15分。それから全部自分で作っていては、夕食が遅くなる。
作り置きのおかずがあることで結果的に、早く夕食を終えて、子どもと過ごす時間も長くなる。料理や買い出しにかける時間を、子どもとの時間に当てているのだ。
手作り信仰に対して「全く罪悪感はありません」と言い切れるのは、「仕事しながら、一人で子どもをみているので、時間の使い方を考えた結果です」
「この予算、この時間でこんなに作ってくれるんだ!助かるね」
ベトナムで単身赴任中の夫も、タスカジさんに全面的に賛成だ。赴任先の環境も影響しているかもしれない。
「向こうの人は、料理しません。屋台で食べて帰るのが普通なので。日本も、仕事も育児も程よく楽しくでいい、となればいいのに」
絵美里さんはそう思う。
就職後が心配な料理男子
「彼女が働いているので、僕が2人分の弁当と夕飯を作ります」
そう話すのは埼玉出身の国立大4年の祐介さん(23、仮名)だ。結婚するつもりで、1歳年上のフランス人の彼女と同居している。現在、就活中だが、料理も掃除も洗濯もする。
「時短のためにも洗いものを減らすためにも、フライパン一つで作れるワンプレート料理が多いです」
自己流のマーボー豆腐を乗せたマーボー丼。働いている彼女のために、料理担当だ。
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よく作るメニューは、丼ものかパスタ。インターンとして働いている職場や、彼女の同僚からは「すごーい」と言われる。
とはいえ、フランスの彼女の実家では、彼女のお父さんも、さっと立って料理する。男性も料理するのは当たり前のことだという。
気になるのは就職後だ。日本企業は男性社員が毎日、家事をすることは想定していないと感じる。
「残業続きの職場だったりすると、果たして今のような生活ができるのかなと、不安に思います。日本社会では、男性の帰りが遅いから女性が作るのが当たり前のようになっていますが、そもそもそういう男性の働き方に疑問を持つべきでは」
あなたを縛るのはだれ?
『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』の著者で、翻訳家の佐光紀子さんは「日本の女性はそろそろ変わってもいいころではないでしょうか」と、投げかける。
1週間あたりの家事にかける時間の男性の分担率(時間ベース)は、日本は15%だ。ドイツやイギリス、アメリカの半分程度で、中国の26%も大きく下回る。背景にあるのは、言わずもがなの日本男性の長時間労働だ。共働きでも子どもがいると、妻が定時退社や時短勤務をして、その代わりに料理をはじめ、家事の大半を担う構図が定着している。
その上、品数豊富な料理を出す「いい妻、いい母」でいなければというプレッシャーにとらわれ出すと、パンクしかねない。
「毎日献立が変わり、隅々まで掃除するような家事は、かつては女中さんの仕事でした。戦後、核家族が増える中で女中さんの役割を引き受けたのは、家電と専業主婦です。こんなにも共働きが増えた現代で、同レベルの家事にこだわる必要が、果たしてあるでしょうか。」
その上で、佐光さんは言う。
「妻も、あまり責任を感じすぎずに、無理なことはできないと言えばいい。今の日本は、家事の負担を減らして、笑顔を取り戻すことを考える時期に来ていると思います」
「こうあるべき」を外せば、事態は動き出すかもしれない。
「おかずを毎日、品数豊富にバランスよく作らなければならない」と、あなたを縛っているのは、誰だろうか。
(文・構成、滝川麻衣子、高阪のぞみ、写真は全て提供)
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