核問題を巡る北朝鮮情勢が急展開を見せている。
平昌冬季五輪の開催を機に、金正恩労働党委員長は「勝負手」を連発した。3月5日に平壌を訪問した韓国の特使に、非核化の意思を「表明」しながら、南北首脳会談、米朝首脳会談の開催を希望した。
これが、強力な経済制裁だけでなく、軍事的選択肢を含めた米トランプ政権の圧力政策の産物なのは衆目の一致するところだ。
海上封鎖と軍事攻撃の恐れが目前に迫り、金正恩は「詰み」を逃れる勝負手を余儀なくされたことになる。
はたして、この命懸けの勝負手は、好手なのか悪手なのか――。
メディアと専門家は頭を悩ましてる。核を捨てる「命乞い」なのか、それとも大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成までの「時間稼ぎ」なのか。見極めの要点は核放棄の「本気度」にある。
メディアと専門家の間では懐疑論が大勢を占めている。実際、米政府の前高官は「北朝鮮問題の専門家で、北朝鮮が核兵器の放棄に関心を持っていると信じる者はいない」と断じる(マイケル・グリーン、『朝日新聞』3月11日付)。
だが、単なる時間稼ぎの欺瞞戦術にしては効果が薄い。かえって軍事的選択肢を早めてしまう恐れがある。
過去25年間も欺き続けたせいで、米政府の警戒感は強いからだ。実際、米共和党の有力議員は、金正恩がトランプを騙そうとしたら「お前とお前の体制は終わる」(グラム上院議員)と警告する。
筆者は核放棄の「本気度」を信じる少数派だ。勝負手の見極めで言えば、朝鮮半島の非核化には好手、金正恩体制の延命には悪手。それも敗着に近い大悪手と見立てる。
いったん米朝首脳会談に乗り出せば、もはや後戻りとやり直しの利かない局面になる。そして、トランプ大統領はオバマ政権時のイラン核合意を激しく批判している。これに照らせば、要求される米朝核合意の内容は相当厳しいものになるからだ。
北朝鮮が核放棄の代償に求める「体制保証」とは、ひとつは金一族の安泰、もうひとつは支配層の特権維持となる。この2点に尽きる。
金正恩は、短期間で核ミサイルを捨て、体制保証の口約束と引き替えに、トランプが与えてくれるものだけで満足するしかない。
しかし、経済制裁の解除はともかく、かつて行われた、軽水炉型原子炉や重油の提供などの大規模な経済支援はとても望めないし、在韓米軍の撤退要求も叶わないだろう。
それで、アメリカの軍事攻撃を回避できたとしても、体制保証の点では、まだ不安が残るのである。不安要素は北朝鮮自身の国内事情にあるのだ。こればかりは他国が保証してやることができない。
その論点は多岐にわたるので、本稿では、金正恩が韓国特使と会ってから、わずか3日後の3月8日に、トランプ大統領が会談受け入れを表明してから続く、北朝鮮自身の奇妙な「沈黙」に焦点を当てて読み解いていく。