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【首都スポ】

[萩原智子 アスリート物語]競泳16歳・大内紗雪 東京「絶対出たい」

2018年3月18日 紙面から

東京五輪出場を目標に掲げる大内紗雪=神奈川県藤沢市のダンロップスポーツクラブ藤沢で(武藤健一撮影)

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 ひとたび水に入ると、身長164センチには見えない大きな泳ぎで快進撃を続ける、ダンロップスポーツクラブ藤沢の大内紗雪、16歳。昨年の日本ランキングでは、50メートル自由形で池江璃花子(ルネサンス亀戸)に続く2位、100メートル自由形では4位と好位置に付けている。4月に高校2年生になる大内は2年後の東京五輪、そして6年後のパリ五輪を見据え、強い覚悟とともにスタートを切っている。 (競泳シドニー五輪日本代表・萩原智子)

 大内の代名詞であり、記録アップにつながった「大きな泳ぎ」は、日本女子のエースであり、1歳年上の池江の影響があった。中2の時、全国大会で池江の大きな泳ぎを見て刺激を受けた。しかし、驚くべきことに、大内はその大きな泳ぎを反復練習で自身のものにしたのではなく、その全国大会決勝の舞台でチャレンジしてみせたのだ。

 「予選8番残りで決勝を泳ぐことになって。一回失敗してもいいから、璃花子さんのような大きな泳ぎをしてみようと思ってやってみたら優勝して、ベスト記録が出たんです。これはいけるかもと思いました」と笑った。

 「大きな泳ぎ」は、大きく腕を回すことによって、より遠くの水をつかむことができ、ひとかきで進む距離も長くなる。そのため手の回転数が少なくなり、無駄な体力を使わず泳ぐことができるメリットがある。

 選手は理想の泳ぎをイメージし、練習で試行錯誤しながら泳ぎ込み、つくり上げていく。いくら良いイメージが頭にあっても、それを形にし、自身のものにするには時間がかかる。私は現役時代、フォーム改良に約1年半の時間を費やした。

 加えて新しいことにチャレンジすることは相当な勇気が必要になるが、彼女は緊張感のある決勝レースでやってのけた。度胸があるとしか言いようがない。そして理想の泳ぎを体現できる素晴らしい感覚の持ち主だ。

昨年の女子50メートル自由形で池江璃花子に続くランキング2位の大内=東京辰巳国際水泳場で(七森祐也撮影)

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 大内は水泳の指導者をしていた両親の影響で、生後6か月でプールデビューした。「気が付いたら泳げるようになっていました」というのは5歳の頃。初めて五輪というものを知ったのは「北島康介さんのアテネ五輪金メダル獲得を見たとき。すごいなと思いました」と目を輝かせるが、2004年の同五輪当時、彼女は2歳。実は11歳の時に、You Tubeのお勧め動画を検索している中で見つけたという。

 指導する薩摩将広コーチが「水の中での体の浮き具合、進み具合は、異次元のポテンシャル。練習は基本的に真面目にやる子」と評するように、コツコツと積み上げ、一気に日本のトップに近づいた。中3時には、リオデジャネイロ五輪選考会を経験。「リオには行きたいなぁ、チャンスはあるなぁ、と思っていました。でも正直、まだ無理かなって。でも、今は東京は絶対に行きたいです。こんなに本気で目指しているのは初めて。そのためにも、4月の日本選手権で日本代表に入りたいです」と、それまでの穏やかな表情から一転、鋭い目つきに変わった。

 夢が目標に変わった時、人は覚悟を決める。目標達成に近づくためにも、いつまでも夢のままでは始まらない。「だったらいいな」から「絶対に」という強い思いに変わった時、大きくステップアップできるきっかけをつかむことができる。しかし、強く思えば思うほど、苦しく感じることもある。今、彼女はひとつの正念場を迎えている。

 「実は今、壁を感じてます。今までずっと記録が伸びてきたのに、今、止まっていて。少し停滞期なので我慢の時かなと。きっかけがあれば、ポンポンといけそうな気がしています。疲れているときに、どこまでいけるかのレースをしているので仕方ないのですが、タイム出ないのは苦しいですし、焦りもあります。でも、今は我慢だと思って練習しています」

 ここまで順風満帆にタイムを伸ばしてきた彼女が感じた初めての壁。しかし、本気で覚悟を決めたからこその感じることができる焦りや不安。トップになるためには、この壁を越えなければならない。裏を返せば、トップへ向けての足掛かりをつかんでいるとも言える。

 私が安心しているのは、高1の彼女がその状況を把握し、我慢の時だと表現していることだ。弱い自分も認め、受け止められる彼女は強い。壁を越えるための大きな一歩を既に踏み出している。

 苦しい状況の中でも彼女の原動力になっているのは、池江璃花子の存在だ。「中1の頃、璃花子さんはとにかく憧れ。でも、中2の時に記録が伸びて、いけるかもと。今はまだ目標圏内。まだ…今すぐには抜かせないと思います。とにかく2倍の速さで追いついていかないと、東京には間に合わないと思うので」と、生き生きした表情を見せた。

 「今はまだ」と口にした彼女に、「追い抜く自信はあるか?」と聞いてみると、「ちょっと自信はあります。隣で泳ぐことが多くなって、25メートルまでのスピードでは時々勝てるようになってきて。いいペースできているのかなと思います」と答えた。自信と不安が入り交じるインタビュー。しかし、大内の心はブレない。「東京は絶対に出たい」。この強い覚悟と目標がある限り、迷わず進んでいけるだろう。

 今年はパンパシフィック選手権が東京で、そしてアジア大会がジャカルタで開催される。その代表選考会を兼ねた日本選手権代表へ向けて、チャレンジは始まったばかり。失うものなんて何もない。大丈夫、大内紗雪は、チャレンジャーなのだから。

<第94回日本選手権> 4月3~8日に開催(東京辰巳国際水泳場)。第18回アジア大会(8月18日~9月2日)と第13回パンパシフィック選手権(8月9~13日)の代表選考会を兼ねる。

◆大内紗雪のア・ラ・カルト

 ●好きな食べ物 グレープフルーツ。同居の祖母が、いつでも食べられるようにと、きれいにむき、大きな保存容器に入れておいてくれる。「愛ですね。感謝しています」。祖母の「手作りハンバーグ」も大好き。

 ●好きな音楽 韓流、BTS(防弾少年団、7人組ヒップホップグループ)のノリノリ音楽が好き。レース前に聞いて気分を上げることも。

 ●愛犬ココ チワワ3歳。中1の時、全国大会で優勝したら飼ってもいいと家族と約束し、念願がかなった。「めちゃくちゃかわいい。癒やされます」

 ●身長 現在164センチ。中学3年間で20センチも伸びた。まだまだ成長期で、昨年から2センチ伸びている。足のサイズは26センチ。父・克泰さんは身長2メートル! 大きくなる素質たっぷり!?

 ●尊敬する選手 「北島康介さん、池江璃花子さん」

<大内紗雪(おおうち・さゆき)> 2002(平成14)年1月5日生まれの16歳。神奈川県出身。ダンロップスポーツクラブ藤沢所属、日大藤沢高1年。164センチ、56キロ。いずれも自由形で、全国中学競技大会で中2~3時に50メートルと100メートルで連覇。昨年は日本選手権50メートル2位、100メートル4位、国体50メートル2位、100メートル3位、世界ジュニア競技大会50メートル3位、100メートル6位。日本代表歴は15年にアジアエージ競技大会、16年に世界短水路選手権、アジア選手権、ジュニアパンパシフィック競技大会。

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