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今度は“精子の老化” 「精子検定」に追い詰められる男たち?!

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Thinstock/Photo by TianGuoDeFeng

 卵子の老化キャンペーンの火付け役となったNHK『クローズアップ現代+』の「産みたいのに産めない ~卵子老化の衝撃~」(2012214日)の放送から6年。今度は同番組が「男にもタイムリミットが!? ~精子老化の新事実~」(201826日放送)と題した番組を放送した。

 「卵子老化の衝撃」では「衝撃」という言葉を使うなど、煽っている感が満載だったが――だからこそ「不妊は女性側だけの問題ではないのに」とか「女性にだけ出産のプレッシャーをかけるな」といった反感を買うことになったのだろう――今回もその点は変わらない。

 サイドテロップは、「精子の危機! 数が減少 老化まで」「精子が急滅!? 男性に忍び寄る危機」「精子が老化する! 30代から要注意!?」「精子の危機! 数が減少老化まで」「精子の減少や老化 対策は?」「精子の危機! 夫婦でどう乗り越える?」など、週刊誌張りにセンセーショナルである。

 それにしても「急滅」などという恐ろしい言葉があったとは。

 番組によれば、「今、男性の精子に危機が迫っています。去年(2017年)、欧米の男性の精子の数がこの40年で半減したという調査結果が発表され、世界に衝撃が走りました。さらに、最新の研究で精子の新たなリスクも明らかになってきました。ある年齢を境に、見た目は元気でも中身が老化した精子が増加。受精卵に細胞分裂を促す力がなく、不妊の原因になる場合があるというんです」とのこと。

 さらに「都内のあるクリニック」が「この3年間で564人の精子の濃度や運動率を検査し」たところ、6人に1人が「自然妊娠するには精液1ミリリットル中に精子が1500万以上。そのうち活発なものが40%以上いるのが望ましい」とするWHO(世界保健機関)の基準を下回ったという。

 「あるクリニック」の診療科目は不明だが、おそらく不妊治療の看板を掲げているクリニックだと思われる。こうしたクリニックに集まるのは不妊の傾向がある人たちなので、多少厳しい数字が出るのではないだろうか。

 番組に登場した専門の医師は、「精子の質というものの検定がこれからは大事になってくる。いつまでも男の場合は精子さえいれば子どもができるかといえば、そうはいかない。年齢的に子どもができにくくなるというのは、女性だけではなくて男性にも責任の一端がある」と語った。

 「検定」という言葉は、生殖医療の現場で使われる言葉だが、つい「英語検定」「漢字検定」などを連想してしまう。不妊検査は、女性の場合は何段階もあり複雑だが、精子の検査は簡単なので、今後男性は結婚の際「精子検定」を受けることが当たり前になってくるかもしれない。「精検3級」といった感じだろうか。

 現在放送中のドラマ『anone』(日本テレビ)に登場する持本舵(阿部サダヲ)は、結婚を前提につきあっていた彼女から「ブライダルチェック」を受けてほしいと言われ、その結果精子に問題があることがわかり、あっさりとふられてしまう。そんな女と結婚しなくてよかったという観点から言えば、「精子検定」も役に立ったといえるが、世知辛いエピソードである。

 『クロ現+』では、「自宅で気軽にスマートフォンを用いて自分自身の精子を観察する」研究が紹介されていた。今後、スマホで気軽に「精子検定」ができるようになれば、『anone』の持本のような男性が増えるだろう。将来を見越す技術というものも良し悪しである。

 もちろん、精子の状態について対策ができるのなら話は別である。しかし番組で紹介していた「精子を守る7か条」はさほど有効とは思えない。

 1.禁煙すべし 2.禁欲は間違い 3.ブリーフよりトランクスを 4.妊活の時期はサウナを控えよ 5.膝上のパソコン操作はダメ 6.自転車に注意 7.育毛剤(飲み薬)に注意

 4の「自転車に注意」というのは、自転車に乗ると陰嚢の下部の血管がダメージを受けるためだという。いずれにしても、精子の状態は意識させられながら、この程度の対策しか示されないとは。

 また、さきほどの医師の 「女性だけではなくて男性にも責任の一端がある」という発言も気になる。子どもができないことに「責任」を感じなくてはいけないのか。「女性だけではなくて男性にも原因がある」でいい。

 番組ではWHOの調査結果として、不妊の原因が「女性のみにある場合」が48%、「男性のみにある場合」が24%、「男女両方にある場合」が24%という数字を示している。この数字が正しいとすれば、「一端」という表現は不正確である。

 表現が気になりだすとキリがないのだが、アナウンサーの「これまで女性の側にあると捉えられがちだった不妊の原因が、男性の側にも多くあるんじゃないかということになると、心配される方も多いと思うんですが」という語りについても、不妊の原因を女性に押し付けることができたこれまでの方がよかったのか? などと穿ってしまう。

 この番組が最も伝えたいことは、「ある年齢を境に、見た目は元気でも中身が老化した精子が増加」するということだろう。「卵子老化の衝撃」もこの番組も、つまるところ「若いうちに子どもを作れ」と言いたいのだ。でもそうは言わない。だから気持ちが悪い。いっそのこと最後にアナウンサーが「そういうわけですから、若いみなさん、子どもは早く作りましょう」とでも言ってくれたほうが、私はむしろ好感が持てる。

田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪――女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史――タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)など。

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生理用品の社会史: タブーから一大ビジネスへ

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  • 著者田中 ひかる
  • 価格¥ 2,592(2018/03/18 07:25時点)
  • 出版日2013/08/25
  • ランキング383,156位
  • 単行本295ページ
  • ISBN-104623066916
  • ISBN-139784623066919
  • 出版社ミネルヴァ書房
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