九相図というのは、遺体を屋外に放置し腐って土にかえるまでを九段階に分けて描いた仏教絵画です。
腐乱死体も描いているのでなかなかおどろおどろしい絵画なのですが、私はこれを孔雀王という昔人気があった漫画で知りました。
小野小町が登場する話で、小野小町の九相図が出てきたのですが、この九相を逆転させて小野小町を復活させるというお話です。永遠の美しさを手に入れたと思われた小野小町ですが、結局それも束の間で最後は腐って体が崩れ落ちてしまいます。
その様子が恐ろしくもはかなく悲しいものでした。
当時はこの九相図はフィクションだと思っていましたが、実は実在していたんです。
漫画で出てきた小野小町の九相図と檀林皇后の九相図は有名であるようなのですが、今開催している企画「京の冬の旅」で檀林皇后のほうの九相図が公開されているのです。
その絵があるのが西福寺なんです。
●西福寺とは?
京都東山の髑髏町という場所に建つ浄土宗の小さなお寺です。この場所は鳥辺野といって平安時代には三大風葬地のひとつとなっており、六道の辻と呼ばれています。
風葬というのは、死体を野ざらしにして朽ち果て自然に土に還るようにするという方法です。今では火葬が主流ですが、当時は火葬は木材をたくさん使うため、お金のかからない風葬が庶民の間では一般的でした。
近隣には地獄絵図で有名な六道珍皇寺や六波羅蜜寺があります。
今は浄土宗ですが、創建時は真言宗で、平安時代に弘法大師空海が開いた地蔵堂が始まりです。弘法大師を深く信仰していた嵯峨天皇の后である「檀林皇后(橘嘉智子)」が度々参拝に訪れていました。
その縁からか檀林皇后をモデルとした九相図が伝えられています。
●第51回・京都冬の旅での西福寺
京都冬の旅での企画ということで、西福寺内では、京都観光協会から派遣されたガイドが数名配置されています。
本堂の手前に受付が設けられており、ここで拝観料を支払います。拝観料は600円。これは「京都冬の旅」では共通の拝観料となります。
受付では他に京都冬の旅のガイドブックや御朱印を販売しています。
御朱印は3種類ありますが、2種類は京都冬の旅限定の御朱印で日付ははいりません。1種類のみが西福寺の定番の御朱印で日付が入ります。
いずれも、あらかじめ書置きされたもののみを販売しています。
中に入ると文化財ごとにガイドがいて説明があります。これも京都冬の旅では一般的ですね。
説明があった主な文化財は、「京都の鳥瞰図」「秘仏・地蔵菩薩像」「檀林皇后の九相図」「地獄絵図」です。あと、近代絵画がところどころにあり、それについても説明がありました。
他のブログには九相図などを撮影したものが多くありますが、現在では建物内撮影禁止になっていますので注意が必要です。
※絵などの写真はネットからの拾いものです
●檀林皇后とは?
九相図の紹介をする前に、モデルになった檀林皇后とはどのような女性だったのか説明しますね。
檀林皇后というのは平安時代初期にいた嵯峨天皇の皇后で、本名を橘嘉智子といいます。
橘氏といえば、飛鳥時代には藤原不比等の妻になった橘三千代(橘夫人)や奈良時代には聖武天皇の片腕となった橘諸兄などを輩出した貴族の名門ですね。ただ、天皇の后となったのは嘉智子のみであるそうです。
橘氏は平安時代には落ち目で天皇の后になれるような力はありませんでしたが、嘉智子は修行僧でさえも虜になってしまうという美貌で皇后になったといわれています。
仏教への信仰が非常に強く、日本最初の禅寺である檀林寺を創建したことから檀林皇后と呼ばれるようになりました。
子供に仁明天皇や大覚寺を創建した正子内親王がいます。
最近作られた人物像が寺院内にあり、現在的な美しいデザインになっています。
●檀林皇后の九相図
仏教を強く信仰していた檀林皇后は生前に自分が死んだら風葬を行い、死体が朽ち果てていく様子を絵画にするように遺言を行ったという伝説があります。
そうして、できたのが檀林皇后の九相図です。
絵は江戸時代初期のもので、皇后は65歳で亡くなったということで、美しい状態ではありえず、実際の様子を直接見て描いたものではありませんが、腐敗しバラバラになる遺体の様子がリアルに描かれており壮絶なものがあります。
このような絵は若い修行僧が煩悩を抱かないようにするために美しい女性でも死ねば醜く朽ち果てる儚いもので、女性への性欲を断ち切らせるために描かれたとも言われています。
そのため、九相図の題材は小野小町や檀林皇后のような絶世の美人とされていた女性が選ばれました。
普段はお盆の時期のみの公開であるそうなんですが、今回は特別に公開されているようです。
では簡単に絵を紹介していきますね。
★第一新死想
病に倒れ臨終の時を迎える姿です。親族が死を看取っています。
★第二膨張想
野に置かれ腐敗ガスで体が膨れ上がり体色は変色、手足は硬直してきます。
★第三血塗(けちず)想
腐敗汁が出て皮膚が破れ、骨が一部露出。人体の醜い部分がさらされます。
★第四蓬乱(ほうらん)想
腐敗が進行し、蠅がたかりウジがわいてきます。
★第五噉食(たんしょく)想
鳥や獣が現れ腐肉がむさぼり食われます。
★第六青瘀(しょうお)想
白骨にわずかに皮膚や肉が残るだけになります。
★第七白骨連想
完全に白骨化します。まだ、人の形は残しています。
★第八骨散想
風雨で骨がバラバラになり人の形も残さなくなります。
★第九古墳想
骨も土に還り、墓が建てられています。名が碑文に記されていますが、倒れています。
墓も時がたてば消滅し、無に帰っていきます。