●イベントCG+サンプルシナリオ



目を開けば、あのときと同じ場所だった。

違うのは、人がいるということ。それも大量に、だ。

お腹が痛い。さすろうとして、腕が動かないことに気がついた。縛られている。

【坂崎】「ようやくお目覚めかい?」

坂崎と呼ばれていた男が、下卑た笑いを向けてくる。周囲を取り囲む不良学生たちに囲まれて、二葉は身を縮こまらせた。

相手は人間だが、怖いものに囲まれてひとりでいるという状況は、あのときと同じだった。

【二葉】「十三ちゃん……は?」

【坂崎】「あの一緒にいたボウズか? あいつなら、今頃道路の真ん中でオネンネだろーなぁ」


何を思い出したのか、坂崎は唐突に哄笑をあげた。

【坂崎】「面白かったぜぇ。あんなやつがオレに向かってくるとは思ってなかったからよぉ。なかなか骨のある若モンじゃねえか」

【二葉】「なんで、そんなこと……」

【坂崎】「おまえらあの犬連れた生意気なガキの知り合いなんだろ? ああいうタイプは本人をやるより、周りをやっちまったほうが効果的なんだよ」

【二葉】「わ、わたし、そんなんじゃ……」

【坂崎】「あぁ? どういうことよ?」

【二葉】「ちょ、ちょっと、お、お話した、だ、だけで、別に、知り合いとかでも、ないから」

【坂崎】「ああ? かばっても無駄だぜ? 健気なのは女の美徳だとは思うがな」


本当に、違うのだ。

誤解。勘違い。

だが、それをどうやって信じさせればいいのだろうか。手段など出てくるはずもない。とにかく真実を話し続けるしか。

【二葉】「た、確かに、お話は、し、したけど……、でも、あのときだけ、だよ」

怯えながらも、一言一言紡いでゆく。たまらなく怖かった。呂律が上手く回らない。それでも必死に説明する。関係ないと分かれば、きっと助けてくれるはずだと信じて。

【坂崎】「んン? こう言ってるけど、どうなんだよ?」

坂崎がひとりの少年に問いかける。その顔には見覚えがあった。前に琳が手の平を踏み潰していた男だ。その手には、痛々しく包帯が巻かれている。

【手下】「俺、ちゃんと見たっスよ。いきなり、何か親しげっぽい雰囲気で入ってきて……」

【坂崎】「だそうだが?」

ニタニタと、どこか楽しむように笑みを浮かべて坂崎が再び二葉に問いかける。

【二葉】「な、名前は知ってて、何度か見かけたこと、あったから。だから、止め、なくちゃって、思って」

【坂崎】「ご立派だが、巻き込まれたくなかったらそーいうモンは見過ごしたほうがいいな」


坂崎が顎に手をやって考え込む。そうしてギロりとその瞳を先ほどの少年に向けた。

【坂崎】「どっちかが嘘ってことになるよなぁ。もちろんおまえだって信じてやりたいさ」

ゆっくりとその少年に向かって歩き出して、その肩に手を置いた。口調にはどこか優しいものがあるが、その瞳は揺るがずに強い気迫を込めたまま。

【坂崎】「なあ……おまえ、なんて言ってたっけ? もう一度、きちんと説明してくれねぇかなぁ。ちょっと整理したい気分なんだわ」


【手下】「あ、え、ええと、俺たちがあのガキに手を出してるとこに、いきなり割り込んできて、何か、名前とか呼んでて親しげだったから、友達か女だと、思って」

【坂崎】「ほほぉ。で、勝てないからって俺に助けを求めたんだよなぁ? で、その女を捕まえれば必ず出てくるはずだってよ」

肩に置いた手に、急激に力が加わる。その凄まじい握力に、手下の少年の顔が歪む。

【手下】「そ、その通りっス……だ、だから」

【坂崎】「そんなことがあったのは、一度だけか?」

そしてそのまま、坂崎は片手でぐいっと少年を吊り上げた。驚きと痛みで、少年の顔が蒼白になる。

【手下】「ひ、ひぎ……っ」

少年は、泣きそうな顔をしていた。その気持ちは、二葉にも理解できる。あの少年こそ二葉がここにつれてこられた原因だとしても、同情を禁じえないほどに。

【二葉】「あ、あの、勘違いっていうことで、その、なかったことにしちゃ、ダメなのか、な? その、わ、わたしも忘れる、からっ」

【坂崎】「……とことんお人好しだな。誤解か。誤解ねぇ。ホントくだらねぇなぁ」

【手下】「す、すみませ……っ」

返事をした瞬間、持ち上げられていた男は地面に叩きつけられていた。

悲鳴を出す間すらもない。踏みつけられ、脇腹を蹴り上げられ、頭を靴底で地面に擦り付けられ、その後頭部を鷲掴みにし、目を合わせたかと思えばにっこりと笑った。

やられていた少年も、愛想笑いを浮かべる。痛みのせいで随分と引きつったものだったが。

【坂崎】「なあ、おまえ、関係ない女引っ張ってきたって意味ねぇだろ? 俺のしたこと、全部無意味じゃねぇか。あーぁ、あの小僧にも可哀想なことをしちまったもんだ」

【手下】「あ、ひ――」

【坂崎】「ケジメ、つけろや。歯ァ食いしばれ」

そばにあった金属製の棚の柱へ、その頭を何度も何度も叩きつける。思わず二葉は目をそらした。

【手下】「ひ、ひぐっ、やめ、あがっ、ぎぃっ」

言葉にならない悲鳴が、工場内に響く。

彼を囲んでいた人間すら、その凄惨な処刑を見て顔を恐怖に染めていた。ああなりたくはないと思っているのが、一目瞭然だ。

しばらくして飽きたのか、坂崎が血まみれになった頭を離すと、どさりとその体は地に落ちた。

気絶したのか、もしくは――死んでしまったのか。

【坂崎】「あーぁ、手が血塗れだ」

動かない体を、事も無げに一瞥する。その顔に唾を吐き捨て、もう一度つま先で蹴り飛ばした。その身がかすかに反応したからどうやら死んではいないようだ。二葉は少しだけ安堵した。

【坂崎】「なあおまえら――こうはなりたくないよなぁ?」

一斉に慌ててうなずく取り巻きたち。

【坂崎】「よしよし。それでいい。なぁ、おまえら。オレはムカついてる。すげぇムカついてるんだ。わかるよなぁ?」

わからない人間がいるはずもない。坂崎の顔はひどく歪んでいた。いや――むしろ、歪んでいるのは彼の纏わりつかせたその雰囲気というべきか。

【二葉】(まるで……悪魔みたい……)

二葉は、思った。

【坂崎】「そこに女がいる。ムカついてるオレがいる。なぁに、体は貧相みたいだが穴には変わりはねぇ。ブチ込んで吐き出すくらいはできるだろォよ」

坂崎の唇の上を、長く赤い舌が這う。その瞳には紫色の獣欲の炎がともっていた。

思わず二葉は身をよじったが、身動きひとつできない。それどころか、荒縄が自分の身に食い込んできてしまう。

【坂崎】「逃げるなよ、オタノシミはこれからだぜ?」

血塗れの指先が、二葉の頬をぬめりと撫でた。



 


 
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