(cache)効果的な睡眠学習の手法となる「TMR」。睡眠中の臭いや音といったきっかけが記憶の定着と再生を促す | ライフハッカー[日本版]

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記憶の定着のカギは寝ているときの臭いや音。効果的な睡眠学習の手法「TMR」とは?

記憶の定着のカギは寝ているときの臭いや音。効果的な睡眠学習の手法「TMR」とは?
Image: gpointstudio / Shutterstock.com

記憶の定着に睡眠が重要ということは広く知られていて、すでにものを覚える際には、積極的に睡眠を活用されている方も多いかもしれません。これまでライフハッカーでも、学習後に一晩の睡眠を挟むとテスト結果が向上することや、45~60分の短い睡眠でも記憶からの情報検索に改善がみられたことなど、学習に睡眠を活用するためのヒントをご紹介してきました。

一方、睡眠時に音声を流してものを覚える睡眠学習のこととなると、有効性の真偽や具体的なやり方について、あまりご存じない方も多いのではないでしょうか。一昔前まではずいぶん大雑把に捉えられていたようで、「睡眠中に音声を流しておくだけで、新しいことが覚えられる」といった説がまことしやかに唱えられていました。睡眠中の脳波が記録できるようになったのは1950年代。「睡眠学習で新しいことが覚えられたのは、脳が起きていたときだった」ことが明らかになっています。

しかし、睡眠学習にまったく効果がないわけではありません。一定の条件を満たした手法で、より効率的に記憶を定着させる効果が認められています。ノースウェスタン大学の研究者らが「Targeted Memory Reactivation(TMR)」と呼ぶ手法では、睡眠中に臭いなどでキュー(合図やきっかけ)を与えて、起きているとき記憶したことを再活性化させるとのこと。そこで、記憶の定着に適したタイミングで睡眠をとるだけでなく、さらに積極的に睡眠を活用したい方のために、Big Thinkの記事を参考にしながらTMRについてご紹介していきます。

睡眠中のキューが記憶の定着を促す

睡眠中には起きているとき覚えた情報を整理するためのリハーサルと呼ばれるプロセスがあり、ここで情報は取捨選択されています。記憶のデータベースに新しい情報を連結する際にも、いったん破棄されたり、脈絡のないつながりが起こったりと、睡眠中にはじつにダイナミックに情報が処理されていますが、TMRは情報の取捨選択プロセスで、特定の情報についての連結を助けるものと考えられています。

記憶の再活性化による学習促進効果が最初に示されたのは、Scienceに掲載されているリューベック大学の神経科学者Björn Rasch博士による2007年の論文。研究では、被験者にグリッド上にあるモノの位置を覚えてもらい、同時に被験者の周囲にバラの香りを漂わせました。その後被験者に睡眠をとってもらい、ノンレム睡眠(深い睡眠状態)のなかでも特に睡眠状態が深まったタイミングを見計らって再びバラの香りを漂わせると、起きたときにモノの位置がよく思い出せることが明らかになったのです。

バラの位置を覚えるときにはバラの香りを、レモンの位置を覚えるときにはレモンの香りを…といった具合に、キューと対象とを紐づけて個別に再活性化できることもわかっています。つまり、深い睡眠中にバラの香りだけをかげば、レモンよりもバラの位置をよく覚えます。学習した時点では、バラとレモンの位置はどちらも同じように記憶されますが、睡眠中に与えられたキューが優先的にバラの位置に関する記憶の定着を助けるのです。

音楽や単語もキューとして利用できる

TMRを学習に活用すれば、効率よく記憶できると考えた方もいるでしょう。ただ、単語を覚えるたびにバラの香りを漂わせ、睡眠が深まったタイミングでもう一度これをやるのはあまり現実的ではないですよね。でも、嬉しいことに、記憶の再活性化による学習促進効果は、音をキューとした場合でも確認されています。

Nature に掲載されているプリンストン大学が2012年に行った研究では、音楽のフレーズをキューとして利用しています。4つの音符で構成されたフレーズ2種類を同じ条件で覚えてもらい、睡眠中にどちらか一方のフレーズを流します。すると、流れたフレーズのほうが、もう一方よりもよく覚えられたそうです。

さらに、言葉が記憶の再活性化のキューとして有効なことは、前述のBjörn Rasch博士らによるOxford Academicに掲載されている2014年の論文で初めて明らかにしています。被験者にオランダ語の単語を覚えてもらい、ノンレム睡眠中、能動的覚醒中、受動的覚醒中のいずれかのタイミングでいくつかの単語を聞かせます。その後に単語をドイツ語に翻訳するテストを行った結果、睡眠中に聞かされた単語のほうが聞かされてない単語よりも成績がよかったそうです。

ちなみに、睡眠中に聞かされてない単語については、睡眠中になにもキューが与えられていないグループと同程度の成績でした。また、能動的・受動的な覚醒中に単語を聞かされたグループでは、記憶の改善がみられなかったようです。

睡眠学習では単語や要点にターゲットを絞ろう

これまでご紹介してきたように、TMRが単語や要点、モノの位置を覚えるのに役立つことは確認されていますが、まだまだわかっていないことも多いのが現状です。たとえば、文法や細部の情報は覚えられるのか、加齢とともに低下する記憶力の維持に役立つか、他の記憶にとってマイナスの影響はないか…などについては、今後の研究成果に期待したいところ。

キューを与えるタイミングについても、Europe PMCに掲載されているノースウェスタン大学による2017年の論文では、深い睡眠の後にやってくるレム睡眠(浅い睡眠状態)が適している可能性が提示されていて、まだまだ究明の余地がありそうです。学習や睡眠のメカニズムは複雑ですので、睡眠学習法についても一筋縄ではいかないことは当然。とはいえ、このことを踏まえても、TMRは覚えようとしている英単語を忘れないようにするといったタスクで効果を発揮してくれるのではないでしょうか。


Image: gpointstudio / Shutterstock.com

Source: Big Think, Science, Nature, Oxford Academic, Europe PMC

山田洋路

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