2018年3月16日 15:45
国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)は15日、光格子時計に基づく高精度な時刻信号の発生を半年間継続させることに成功したと発表した。
開発されたのは、ストロンチウム光格子時計と、従来のマイクロ波時計で無人運転可能な水素メーザ原子時計(以下水素メーザ)を組み合わせて時刻信号を発生する、「光・マイクロ波ハイブリッド方式」で、これによって、光格子時計に1秒の基準を求めるかたちとしては世界で初めて時刻系信号を半年間生成することに成功したという。
1秒の長さは、セシウム原子のマイクロ波遷移の周波数を9,192,631,770Hzとすることで決まり、現在、世界最高精度のセシウム時計は、1秒間を±1.1×10^-16(±1京分の5)秒の精度で実現できる。
一方、NICTにおいて開発されたストロンチウム光格子時計では、それを超える5×10^-17の精度を保っているが、光時計は装置が複雑で、長期間の無人動作で時刻を示し続けるのは難しいという問題があった。
そこで今回開発されたハイブリッド方式では、動作が止まらない高い信頼性を持ちつつ、大きなズレは起きない発振器(原振)として水素メーザを利用し、その調整を行なうための基準として光格子時計を利用した。
光格子時計は週1回、3時間程度運転され、水素メーザの周波数のズレを計測し、過去25日間に計測されたデータをもとに、今後1週間の周波数変化を予測して、それを打ち消す調整をあらかじめ設定することで、1秒の精度が5×10^-16秒以内という安定な時刻信号を生成しているという。
NICTで、このハイブリッド方式で生成した高精度な時刻信号と、BIPMが世界中の原子時計のデータをもとに計算する、「協定世界時」(毎月計算されている実質的な世界標準時)と、年に1度(1月)に計算される、協定世界時よりも高精度な「BIPM地球時」とを比較したところ、協定世界時に対しては半年で10億分の8秒程度のズレだったのに対し、BIPM地球時に対しては、半年経過しても12億分の1秒以下のズレに収まっていた。
これはBIPM地球時に対する協定世界時のズレが検出できたことを示しており、NICTでは、ハイブリッド方式での時刻信号が、BIPM地球時と同程度かそれ以上の性能を持つことがわかったという。
NICTでは、光格子時計は重力環境の変化を時計の進み方の変化として検出できることが示されつつあり、地下資源やマグマの移動を検出するなどへの応用も期待され、それらの基準時刻としての役割を担うことも見据えるとともに、同方式の日本標準時への適用を目指し、実用化を進めるとしている。
なお成果は、英科学誌「Scientific Reports」に掲載されている。