霞が関文学としての森友文書

2018年3月16日(金)

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 たとえば、

《仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジアにおもに広がっている。》

 という課題文を読ませた後に

《オセアニアに広がっているのは(   )である。》

 という文の( )内を埋めさせる問題を出題してみたところ、正解(もちろん「キリスト教」です)した生徒の割合は、公立中学校の生徒で53%、中高一貫高(中学)で64%、公立高校生で81%にとどまっている。

 つまり、この程度の問題文さえ、中学生の半分近くが読み取れていないのだ。

 この研究をしている国立情報学研究所社会共有研究センターのセンター長、新井紀子さんによると、文章を読めない子供たちの中には、「キーワードとパターン」で問題文を読み、問題を解こうとしている生徒が意外にいるのだそうで、つまり、文章をきちんと最後まで読んで意味を把握するのではなくて、目についたワードの中からそれらしいものを選んで答えを選びに行っている生徒が少なくない、ということらしいのだ。

 この感じは、私にもある程度わかる
 実際、文章を読み慣れていない子供は、論理が錯綜しているタイプの文に出くわすと、その時点で読むことを投げ出してしまう。

 たとえば、
 「うそをつかずに生きることの苦手なタイプとは正反対の生徒が集まるクラスの中にあって私は例外的な存在だったというのはうそだよ」
 のような、4重にも5重にも理屈がひっくり返っているタイプの文章を読むと、たいていの人はアタマが混乱する。

 これは無理もない。相当に手の込んだ悪文だからだ。

 が、文章を読み慣れていない子供たちは、「うれしくないこともない」「食べすぎないように気をつけないといけない」といった程度の二重否定にでくわしただけで、完全に文意を見失ってしまう。

 そういう子供たちは、やがて文章を読解する作業そのものを憎むようになり、最終的には論理を操る人間に敵意を抱くタイプの大人に成長する。

 思うに

 「野党は重箱の隅ばっかりつついてないできちんと議論しろよ」
 「マスゴミの印象操作にはうんざりだ」

 みたいなことを言っている政権支持層の中には、そもそもの傾向として、議論や読解を受け付けない人々がかなりのパーセンテージで含まれているのではないか。

 私のツイッターに毎度意味不明のリプライを寄せてくるアカウントの多くは、140文字以下の文章すら正確に読解できていなかったりする。

 なんともやっかいなことだ。

 「明日雨が降らないと言い切るのが極めて困難であることを信じるのは不可能だ」
 と言っている男は、実際のところ、明日雨が降ると思っているのだろうか?
 それとも雨が降らないことを予想しているのだろうか。

 霞が関文体は、間違いなく悪文だし、それを自在に駆使している官僚という人々は、ある意味知的能力を無駄遣いしている不毛な存在でもある。

 でも、彼らが一見不必要に思える人名を列挙しながら行間に書き込もうとしていた叫びに、誰かが真摯に耳を傾けないといけない。
 そういう意味では、まさしく森友文書は「文学」だったのかもしれない。
 なぜなのかは、行間を読むまでもなく分かるはずだ。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

140文字ではものたりないあなたへ。
読解力が試される本です……いや、そうでもないか?

 小田嶋さんの新刊が久しぶりに出ます。本連載担当編集者も初耳の、抱腹絶倒かつ壮絶なエピソードが語られていて、嬉しいような、悔しいような。以下、版元ミシマ社さんからの紹介です。


 なぜ、オレだけが抜け出せたのか?
 30 代でアル中となり、医者に「50で人格崩壊、60で死にますよ」
 と宣告された著者が、酒をやめて20年以上が経った今、語る真実。
 なぜ人は、何かに依存するのか? 

上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白

<< 目次>>
告白
一日目 アル中に理由なし
二日目 オレはアル中じゃない
三日目 そして金と人が去った
四日目 酒と創作
五日目 「五〇で人格崩壊、六〇で死ぬ」
六日目 飲まない生活
七日目 アル中予備軍たちへ
八日目 アルコール依存症に代わる新たな脅威
告白を終えて

 日本随一のコラムニストが自らの体験を初告白し、
 現代の新たな依存「コミュニケーション依存症」に警鐘を鳴らす!

(本の紹介はこちらから)

コメント73件コメント/レビュー

おもしろいですねえ。大笑いしながら読みました。
しかし、自分も読解力心配です。文中の例文、どれも理解できませんでした(冷や汗)。(2018/03/16 19:07)

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「霞が関文学としての森友文書」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

おもしろいですねえ。大笑いしながら読みました。
しかし、自分も読解力心配です。文中の例文、どれも理解できませんでした(冷や汗)。(2018/03/16 19:07)

読み物としては面白いし、間に出てくる鋭く、考えさせられる表現にもいつも関心して読んでいるが、結局内容はあんまり詳しくないおじさんが飲み会で喋っていることと変わらない気がする。
今の政治家は過去のどの時代よりも言葉に気をつけ、慎重に喋っているし、公務員の言葉も昔に比べてずいぶん分かりやすくなっていると思う。日本人全体の読解力が低いというのはそのとおりかも。
しかし、昔からそんなもんとも言える。官僚、政治家の人たちはとても優秀だが、政治家や官僚を批判する人たちはそれほどでもない。このギャップが昔からずっと問題を引き起こしている。(2018/03/16 18:32)

 ディープラーニングによって単純計算だけでなく抽象思考でもすでに人間は人工知能に追い越されたが、まだ言語自体の牙城は崩されていないらしい。人間が得意と思っていた大局観はむしろ人工知能の方に分があり、逆に回りくどい言語表現の奥深さに今のところ人工知能もついてこられていない。
 今後は人工知能が何を考えているか人間にわかるように翻訳することが重要になるというが、そもそも人間は自分が何を考えているか自分自身あまりよくわかっていない。人工知能の言語能力を問う前に人間自身の言語能力を問うべきなのは当然だろう。
 してみると最も早く人工知能に置き換えられるのは、現政権を始めとする政治家だというのもありうる話だ。そして最後まで生き残るのが霞が関の官僚ということなのか。
 省益と自己保身といった官僚の性癖も考えてみればいかにも動物的なわけで、動物的欲望をもたない人工知能からは一番遠い存在なのかもしれない。(2018/03/16 18:27)

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