恩を仇で

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栄強化本部長が反論!「私は伊調の従兄弟に謀られた」(上)

 パワハラ告発された日本レスリング協会の栄和人強化本部長(57)が、ようやく重い口を開いた。うめくように漏らした言葉は、「伊調馨の従兄弟に謀られたのでは……」。謀略や恋愛感情、権力闘争までが交錯し、虚実綯(な)い交(ま)ぜのレスリング界。一体、何が本当なのか。

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「私の不徳の致すところであり、世間をお騒がせして本当に申し訳ありません。馨にパワハラをしたという心当たりはまったくないのですが、ただ、彼女の受け止め方もありますし……。あまりに突然のことで、戸惑うばかりですが、なぜ、今なのか……。もしかしたら、馨の従兄弟だというあの男性に、私との確執が一因となって、謀られることになったのかもしれませんが……」

恩を仇で

 意気消沈し、消え入りそうな声でこう明かすのは、他ならぬ渦中の栄和人強化本部長、その人だ。そこには、6人の金メダリストを育て上げた名伯楽の面影はなかった。

 前人未到の五輪4連覇を成し遂げ、国民栄誉賞まで受賞した伊調馨(33)による恩師への「パワハラ告発」。レスリング界のみならず、日本中を大騒動に巻き込んでいるのはご承知の通りだが、そもそも両者の言い分は真っ向から食い違っている。

“目のやり場に困る”

「1月18日、貞友義典という弁護士の名前で内閣府に提出された告発状によると、パワハラが始まったのは2008年の北京五輪後、伊調が中京女子大(現・至学館大)から東京に練習拠点を移して以降のことだそうです」

 と、スポーツ紙の記者が解説する。

「パワハラだと訴えているのは、主に3つ。まず、伊調が師事するようになった警視庁職員で男子フリースタイル日本代表コーチの田南部力への圧力です。具体的には、10年の世界選手権でモスクワに遠征中、栄強化本部長から“伊調馨のコーチをしないようにときつく命じられた”というもの。次が、伊調の男子合宿への参加禁止。最後は、練習拠点にしていた警視庁レスリングクラブへの出入り禁止です」

 それに対し、日本レスリング協会は、〈当協会が伊調選手の練習環境を不当に妨げ、制限した事実はございません〉〈(田南部コーチに)伊調選手への指導をしないよう不当な圧力をかけた事実もございません〉と完全否定する文書を発表。

 警視庁も、

「出入り禁止の事実はありません」(広報課)

 との回答だった。

 さらに、栄強化本部長自身、こう明かすのだ。

「馨が警視庁で田南部さんに指導を受けるようになると、他の選手から“集中できない”“目のやり場に困る”などの批判が出てきて、私の耳にも届くようになって……。また、ずっと2人だけで組み手の練習をしたりしているので、田南部さんは他の選手への指導がどうしても疎かになってしまっていました」

 そのため、伊調と田南部コーチには、“2人での練習は全体練習が終わってから行うように”と忠告したという。

「田南部さんが女子の練習に顔を見せることもあったので、同じことを伝えました。でも、いくら言っても、結局は改まらなかった。私は、馨に対し、“男子の合宿に行くな”“警視庁の練習に行くな”と言ったつもりはありません。ただ、2人には“全体練習の時間帯はダメだ”とは言ってきた。その言葉が独り歩きし、田南部さんへの圧力と受け取られてしまったのか……。他の選手のことも考えての発言だったのですが、馨に誤解されてしまったようです」(同)

逆恨み

 なぜ、伊調は、栄強化本部長を始め、日本レスリング協会や警視庁からも否定されるような「パワハラ告発」を行ったのか。そもそもこの告発自体に伊調本人の意思や希望は反映されているのか。さらに、栄強化本部長が明かした伊調の従兄弟との確執とは何なのか。

 ある看護師支援団体のメンバーが謎解きの一端を明かす。

「3年ほど前、私と友人3人が、不動産の投資詐欺に引っ掛かりました。伊調さんの従兄弟と称するI・Tさんという男が、自分も被害者だと接触してきたのが、昨年の6月頃でした。後々、加害者側のスパイだったのではないかと疑いを持つのですが、当初は、TBSのプロデューサーを引き合わせて、詐欺事件として報道させるからと言ってきたりもしました」

 さらに彼は、その看護師支援団体のイベントにもかかわるようになったという。

「毎年恒例のイベントで、ナースのファッションショーを開催しています。昨秋に行われたそれに、Iさんが“至学館の栄監督が馴染だから、ゲストとして呼べる”と持ちかけてきたのです。そこで、イベントのPR、栄監督のギャラも含め、100万円で契約を結びました。ところが、開催日が近づいてくると、栄監督のギャラは別途50万円必要だと言い出したのです」(同)

 結局、50万円を用意できなかったため、直接、栄強化本部長に泣きついた。

「栄監督は“男が一度約束したことだから”と、タダでゲスト出演してくれました。しかし、Iさんは顔を潰されたと激怒し、イベント自体を台無しにしようとしたのです。それを栄監督が阻止。そのため、伊調さんのパワハラ告発が出ると、栄監督は“このときのトラブルがもとで、Iさんの逆恨みを買ったからではないか”と気にしていました」(同)

グラドルを操り肉弾攻撃

 伊調の従兄弟とは、どのような人物なのか。

 現在、40代前半で、伊調よりも年上。かつては、芸能事務所を経営していた。

「裏では反社のような人間とも付き合っています。4年ほど前、Iさんは警視庁に恐喝容疑で逮捕されたことがありました。自分の事務所に在籍していた20代の女性タレントに対し、“プロモーション料を支払わなければ、芸能界で生きていけないようにしてやる”と、100万円を脅し取ったのです」

 とは、彼の知人。

「この事件がメディアで報じられ、自分の名前が世間に知られると、Iさんは妻の姓を名乗るようになりました。しかし、彼の犯罪的な行為はそれだけではありません。刑事事件にこそなっていませんが、実は、美人局のような真似までしているのです。過去、巨人軍の一流有名選手との不倫が話題になった巨乳のグラドルがいました。5年ほど前、Iさんはそのグラドルを鵜飼いの鵜のごとく巧みに操り、大手芸能プロの幹部やIT企業の社長に肉弾攻撃を仕掛けさせた。しかも、その一部始終を隠し撮りしていたのです」

 芸能プロの幹部は、“ハメ撮り映像”の存在を知ると、危ない筋を使って回収を試みたものの、I氏から返り討ちに遭い、失敗。一方、IT企業の社長は、I氏から吸血鬼のように食らいつかれるほかなかったという。

「まず、IさんはIT企業と自分の会社を業務提携する格好にさせました。そのうえで、あちこちから領収書を掻き集め、IT会社に経費として落とさせて、年間1億円以上の収入を得ていた。ところが、昨春、“ハメ撮り映像”を預けていた先と仲間割れを起こし、IT会社社長のそれが流出。写真週刊誌などに掲載されました。これで美人局ビジネスは崩壊したわけですが、巨人軍の有名選手は、次は自分の映像が出てくるのではないかと戦々恐々だったそうです」(同)

国民栄誉賞授与式にも参加

 伊調の従兄弟は「恐喝」「美人局」の常習犯というほかない。ところが、この無法者、実は、セキュリティが厳重な首相官邸に足を踏み入れたことがあったという。

「16年10月に、伊調選手の国民栄誉賞の授与式が、首相官邸で行われたのですが……」

 とは、警察関係者である。

「安倍総理から、賞状や記念品が贈られる場に、父親の春行さんや北京五輪48キロ級で銀メダルを獲得した姉の千春さんらが同席しました。それ以外に、伊調選手の問題の従兄弟も“家族枠”で参席していた。本来なら、“身体検査”ではじかれるのですが、苗字を変えていたため、逮捕歴の確認がすぐにはできなかったのです。後々、そのことが判明し、首相官邸の危機管理上、問題ではないかということになりました」

(下)へつづく

「週刊新潮」2018年3月15日号 掲載