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元経済ヤクザが見た「新・仮想通貨」を巡る大国間の熾烈な争い

いま、水面下ではとんでもないことが…

自身の経済体験を赤裸々に綴り、地下経済の仕組みをも明かした衝撃の書『アンダー・プロトコル』著者の猫組長が、暴力団が「仮想通貨」に群がる理由と、仮想通貨バブルの先にある「仮想通貨戦争」のリアルを解説する。

銀行口座の裏取引価格が急騰している理由

前回の『元経済ヤクザが昨年末に「仮想通貨」を手放した理由』(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54697)で、仮想通貨への投機が情報感度の高い一部暴力団員にとって、笑いの止まらないビジネスとなっていることを書いた。

これは私が現役時代に手を染めていた「新規発行株」と同じ構造だ。なんの実績もない企業――私はそれを空っぽの「ハコ」と揶揄していたが――に融資をして、その見返りとして新たに株を発行させ、市場価格より安く譲渡させる。

「ハコ」は予定通りに市場に「企業合併」や「新規事業参入」などのネタを投入、そのネタによって株価が上がった時に売り抜けるという手口だ。

これはいわゆるインサイダーなのだが、政府見解で「通貨・法貨」「有価証券」に該当しないとされている仮想通貨には、インサイダーは存在しない。ここが、感度の高い暴力団員が仮想通貨に群がる理由だ。

 

しかも、資本力さえあれば「投機用仮想通貨」は自身で発行できる。17年4月に改正資金決済法が施行され「仮想通貨交換所」の規制は一応定められたものの、「仮想通貨」の闇の部分への規制は追い付いていないのが現状だ。

「通貨発行による資金調達(ICO)」「投機市場でのインサイダー」そして「資金移転」と、その筋の“経済人”にとっての悩みの種をすべて解決策できることが、「仮想通貨」が地下経済を潤わせている最大の理由だ。

「初期投資額さえあれば発行できる」「世間の注目が集まっている今なら、ちょっとした宣伝で値段を吊り上がることができる」「1つの投機用仮想通貨の値段はたった4人で支配できる」……こんな手軽さも大いに手伝って、これに参入しようとする輩があとを絶たない。

仮想通貨ビジネスには銀行口座が必要なのだが、暴排条例によって暴力団員の口座開設は極めて困難になっているため、(主に関西圏で)匿名の銀行口座の販売価格が高騰しているありさまだ。

その一方でお寒い状況にあるのが「リアルマネー」の国際的な資金移動である。「送ったお金が、相手に届くのが2週間後」――これは19世紀の話ではない、2018年現在の国際送金の現実だ。実は、リアルマネーの国際移動にはものすごく時間がかかるのだ。

昨年末、商用で香港にいた私は国際送金の実態を把握しようと、HSBCから日本にある自分の口座にテスト送金をしてみた。送金は計3回で、金額は8800ドル(約93万円)、15000ドル(約160万円)、150000ドル(約1600万円)。

なにかを経由することのない通常の送金だが、到着したのは最初の8800ドルのみで、要した時間が2週間である。残りの2回分の15000ドルは、のちに「送金ができません」という連絡があった。

HSBCはイギリスに本社を置く世界最大のメガバンクの一つで、その母体は香港上海銀行だが、いまから11年前の07年に、香港から日本へマネーを送金しようとすれば、1日半の時間が必要だった。

これは時差の問題で、ほぼシームレスな送金が可能だったのだが、それが今では2週間もかかるのだ。情報ネットワークが整備されたこの世界で、なぜマネーの動きだけが、情報通信速度に逆行しているのか――。