この記事は日経 xTECH有料会員限定ですが、2018年3月19日5時まではどなたでもご覧いただけます。
米テスラ(Tesla)のカリスマ的CEOのイーロン・マスク氏は、2017年12月、米国カリフォルニア州ロングビーチで開催された人工知能(AI)関連の国際学会に合わせて設定された同社のイベントで、「自動運転技術を格段に進化させるため人工知能(AI)用半導体チップを自社開発している」ことを明らかした。マスク氏が米AMDから引き抜いたプロセッサー設計の天才、ジム・ケラー氏は、数多のAI研究者を前にして「市場に出回っている半導体チップはどれひとつとしてTeslaのシステムやクルマの要求水準に見合っていない。望んでいるものを実際に設計した方が、はるかに良いものを手に入れられる。AIチップを自社開発することで、既成品より高性能で電力効率のよい半導体チップを数分の1のコストで作れる」と自信満々に言ってのけた1)。
各業界のダントツ企業、あるいはそれを狙う企業が、独自チップを開発する理由は、ケラー氏の言葉に集約されていると思う。他社と差異化して競争に勝つには、ライバルがまねのできない独自チップの開発が鍵を握るということだろう。各業界のダントツ企業なら、スケールメリットが生かせるのでコスト低減も可能だろう。
半導体設計は最終製品設計そのもの
ところで、システムLSI (SoC)というチップは、文字通り、電子システムをチップに作り込むわけであるから、家電や産業機器や自動車の電子システムの機能を丸ごと(あるいは主要部分)をワンチップ化したものとなる。つまり、システムLSIを設計することは、電子システムそのものを設計することにほぼ等しくなってきた。
極端な言い方をすれば、最終製品は、SoCに(まだワンチップ化し切れなかった周辺回路があればそれを追加した上で)中国製の安価な電源ユニット(あるいは電池)とロゴマークの入ったプラスティックカバーをつければ出来上がる。だから、システムLSIを他人任せにして標準品を用いていては、最終製品である電子システムは性能で差異化が図れないことになる。
本稿著者は「半導体は、知識創造時代に夢を実現するための手段であり、今後成長する産業分野の中核エンジンそのものである2」」とかねて主張し、「半導体は成熟産業(あるいは衰退産業)」という見方に反論してきた。著者は現役時代、PlayStation用の頭脳となる世界最高速の画像処理半導体チップ開発でそれを実感したが、冒頭で述べたTeslaの車載チップ開発も、夢実現の中核エンジン開発の好例になろう。
1) 服部毅;「テクノ大喜利【2018年の注目・期待・懸念】AIチップを巡って、半導体技術と業界構造が大転換の予感」。 日経テクノロジーonline 2018年1月22日
2)服部毅:「Mega Trends半導体2014-2023」(共著)、日経BP未来研究所、2013年12月刊