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「家畜の安寧を享受する」という、一度聞いただけで頭にすり込まれてしまうような言葉がある。アニメ「進撃の巨人」の主題歌「紅蓮の弓矢」の歌詞中にも使われていたフレーズなので、知っている人も多いかもしれない。辞書的には、「どうにもならないように見える不満な現状を甘んじて受け、積極的に変えようとすることもなく、妥協して生きること」といった意味になろうか。
1990年代までは、セミカスタム・チップであるASIC(特定用途向け半導体集積回路)の開発・製造に掛かる費用は大きくなかった。このため、電子機器を差異化したい機器メーカーは、問答無用でASICを開発していた。しかし、微細加工技術の進歩は、一方で開発と製造のコストを大きく押上げてユーザー企業が激減し、一時期はASICビジネスが成立しないような状態になった。それに変わって、大量生産するマイクロプロセッサー上で動くソフトウエアを独自開発して、機器を差異化するようになった。
今や、巨額の資金を要する独自半導体チップの開発は、どのような企業でもできることではなくなった。そうした中、IT産業の巨人や自動車業界の巨人が独自チップを開発し、大量生産するマイクロプロセッサーでは相手にならないほど高性能な機器や圧倒的価値を持つサービスを提供する時代になった。
半導体業界では、衰退したはずのASIC事業が完全に息を吹き返している。しかし独自チップ開発への参入障壁は極めて高く、多くの機器メーカーは別世界の出来事のように見守ることしかできない状態になる可能性がある。頼みの綱の半導体専業メーカーにも、大きな市場先導力を持つ“ダントツ企業”が登場しており、顧客とサプライヤーの力関係は逆転する可能性が出てきている。巨人になれなかった多くの半導体ユーザー企業は、せめて「家畜の安寧を享受する」ことくらいはできるのだろうか。
半導体の大口需要家による独自チップ開発の動きによる波及効果と、この動きに対峙する企業の身の処し方について議論している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は服部コンサルティング インターナショナルの服部 毅氏である。同氏は、独自チップを保有する一部の半導体ユーザーとダントツ半導体メーカーに翻弄される可能性がある多くの半導体ユーザーに、警笛を鳴らしている。
服部コンサルティング インターナショナル 代表